著者
大神 裕俊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P3376, 2009

【はじめに】日々の臨床の中で,舌の動きを促すことにより姿勢やアライメントに変化が出ることを体験している.また治療展開の中で頚部の関節可動域は,舌の動きによってさらに機能的になり安定する印象を受けている.そこで今回,舌の動きを促した前後での頚部の関節可動域を測定してみたところ変化がみられたので報告する.<BR><BR>【対象と方法】当院に通院し,本研究の趣旨に理解を得られた患者12名(年齢55.2±14.10歳).方法は棒付きキャンディーを使用し,端座位にて検者が被検者の口腔内でキャンディーを左右5回ずつ回転させ,そのキャンディーの動きを舌体で追わせる事により舌の動きを促した.この工程を左右各2セット行いその前後での頚部の関節可動域(屈曲・伸展・左右側屈・左右回旋)を測定し比較した.介入前後の比較には対応のあるt-検定を用い有意水準は1%とした.また介入後に頚部を動かした感想を聞いた.<BR><BR>【結果】介入前と比較して介入後では全ての頚部の関節可動域において平均10度以上の改善傾向が見られた.また全ての頚部の関節可動域で有意差を認めた.測定値以外において介入前と比較し介入後で頚部を楽に動かすことができるという訴えもあった.<BR><BR>【考察】今回,舌の動きを促すことで頚部の関節可動域に変化がみられた要因として,舌筋・舌骨上筋・舌骨下筋の作用,舌骨の動きによる影響が考えられる.舌筋は舌自体の運動に作用し,舌骨上筋は下顎骨・舌骨・口腔底・舌に作用し,舌骨下筋は舌骨を下に引いて固定し舌骨上筋による舌の運動を助ける作用を持つ.口の開閉運動に関与する力学成分は,頚椎後方から前方のベクトルと前方から後方のベクトルが舌骨の後方で交差している.この交点は第三頚椎レベルにあたり,顎関節・頚椎の運動を機能的に行うための協調支点となる.舌骨はこの協調支点と同じ高さにあり,付着する筋群や動きから動滑車の機能を持っていると考えられている.舌骨は前・後傾に動くことで舌骨筋群のベクトル方向を変え,上述した協調支点が常に第三頚椎レベルにくるように調節している.第三頚椎は頚椎カーブの頂点にあり,この頂点が偏位すれば頚椎全体に波及していく.今回の研究で行った口腔内でキャンディーを回転させることで舌の運動・口の開閉運動が起こり,上述の作用がある舌筋・舌骨上筋・舌骨下筋により舌骨の位置を正中化し,顎関節・頚椎の運動を機能的に行うための協調支点の調節を円滑にしたため頚部の関節可動域改善に影響がみられたのではないかと考える.<BR><BR>【まとめ】舌の動きを促すことが頚部の関節可動域改善になり,治療展開の一つになるのではないかと考える.今後,舌の動きを促すことで影響を与える因子・研究の検討を深めていきたい.

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