- 著者
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西村 純
市橋 則明
南角 学
中村 孝志
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2009, pp.A3O2037, 2010
【目的】スポーツ選手の能力を評価する時には、筋力や持久力、バランス能力やパフォーマンス能力のみならず、Stretch-Shortening Cycle(SSC)能力を評価することがある。SSC能力は短時間で大きな力を出す能力の指標であり、スポーツ選手の能力を左右する。しかし、客観的にSSC能力を評価するためには特殊な測定機器が必要であり、スポーツ現場で容易に評価することはできない。本研究の目的は、幅跳びと三段跳びの跳躍距離を用いて算出した指標がSSC能力の評価法として有用であるかを検討することである。<BR>【方法】対象は健常男子大学ラグビー部員54名(年齢:20.3±1.3歳、身長:172.8±5.2cm、体重:72.5±6.9kg)とした。下肢運動機能の評価として、片脚パフォーマンステスト、下肢筋力測定を実施した。測定肢は全例右側とした。片脚パフォーマンステストは、6m Hop、Side Hop、垂直跳び、幅跳び、三段跳びとした。6m Hopは同側の脚でHopしながら前方に進み、6m進む時間を測定した。Side Hopは30cm幅を同側の脚にて10回(5往復)飛び越える時間を測定した。垂直跳びは助走せずに片脚にて上方に跳び、幅跳びは助走せずに片脚にて前方に跳び、三段跳びは助走せずに同側の脚にて前方へ3回連続で跳び、その距離をそれぞれ測定した。垂直跳び、幅跳び、三段跳びは最終時点での着地は両側とした。テストはそれぞれ2回実施し、最大値を採用した。下肢筋力の測定には、等速性筋力評価訓練装置MYORET(川崎重工業株式会社製RZ450)を用い、膝伸展・屈曲筋力をそれぞれ角速度60・180・300deg/secにて測定し、トルク体重比(Nm/kg)を算出した。SSC能力の指標として、三段跳びから幅跳びを3倍した値を引いた値を算出した。この値が全対象者の平均値以上であったものをSSC能力の高いA群、平均値以下であったものをSSC能力の低いB群とした。各測定項目の2群間の差の比較には、対応のないt検定を用い、危険率5%未満を統計学的有意基準とした。<BR>【説明と同意】各対象者に対し、本研究の目的・方法を詳細に説明し、同意を得て実施した。<BR>【結果】A群(25名)とB群(29名)の年齢(A群:20.4±1.3歳、B群:20.2±1.2歳)、身長(A群:171.8±5.1cm、B群:173.6±5.2cm)、体重(A群:71.9±6.6kg、B群:73.1±7.2kg)に有意差は認められなかった。片脚パフォーマンステストでは、Side HopはA群3.55±0.41秒、B群3.66±0.52秒で、A群はB群と比較して有意に速い値を示した(p<0.05)。6m HopはA群1.92±0.22秒、B群2.04±0.20秒であり、A群はB群と比較して有意に速い値を示した(p<0.05)。垂直跳び(A群:39.9±4.7cm、B群:40.3±8.3cm、p=0.82)、幅跳び(A群:181.6±18.3cm、B群:188.6±16.6cm、p=0.15)では両群間に有意差は認められなかった。三段跳びはA群607.3±61.6cm、B群572.8±52.9cmであり、A群はB群と比較して有意に高い値を示した(p<0.05)。下肢筋力では、膝伸展筋力は全ての角速度において2群間で有意な差は認められなかった。膝屈曲筋力は60deg/secでは有意な差は認められなかったものの、180deg/sec(A群:1.58±0.21Nm/kg、B群:1.44±0.27Nm/kg、p<0.05)および300deg/sec(A群:1.37±0.21Nm/kg、B群:1.18±0.22Nm/kg、p<0.01)ではA群はB群と比較して有意に高い値を示した。<BR>【考察】幅跳びと三段跳びの跳躍距離から算出した指標よりSSC能力が高いと判断した群においては、6m HopやSide Hopといった敏捷性を要する能力が高く、中・高速度での膝関節屈曲筋力が大きい値を示した。客観的にSSC能力を評価できる機器を用いた先行研究では、SSC能力が高いと敏捷性能力が高く、また高速度での膝関節屈曲筋力が大きくなると報告されており、本研究の結果と一致する。以上から、幅跳びと三段跳びの跳躍距離から算出した指標は、SSC能力を反映していると考えられ、スポーツ現場で簡便に利用できる評価法として有用であることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から、スポーツ現場で簡便に行える幅跳びおよび三段跳びの跳躍距離からSSC能力を評価できることが示唆され、理学療法研究として意義があるものと考えられた。