- 著者
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谷口 匡史
建内 宏重
森 奈津子
市橋 則明
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2011, pp.Ca0198, 2012
【目的】 腰痛発生要因の約60%が体幹回旋と関連しており、腰痛と回旋動作には深い関係がある。腰痛患者では、体幹回旋時に骨盤回旋に対して脊柱回旋による回旋の割合が増加しており、相対的な脊柱回旋可動性の増加と腰痛が関連することが示されている。また、体幹回旋中の筋活動量に関する研究では、脊柱起立筋や外腹斜筋の異常筋活動が報告されており、この異常な筋活動状態で繰り返される回旋動作が腰痛を引き起こす可能性があるが、脊柱可動性と筋活動の関連は明らかではない。本研究の目的は、腰痛患者における脊柱可動性と筋活動の関連を明らかにすることである。【方法】 対象は、健常群15名(男性9名、女性6名:年齢25.2±5.5歳)および腰痛群15名(男性9名、女性6名:年齢22.5±2.4歳)とした。腰痛群は、Visual Analogue Scale(以下VAS)で30mm以上の腰痛が過去に3カ月以上続いた者とし、測定課題実施時には痛みのない者とした。神経症状を伴う腰痛や内部疾患および精神疾患による腰痛は、除外した。腰痛群における最近1カ月の疼痛は、VAS:平均35.6±23.3mm、腰痛群の健康関連QOL(Oswestry Disability Index)は平均15.1±10.5%であった。測定課題は、立位での体幹回旋動作とした。開始肢位は、両踵骨間距離を被験者の足長および足角10度とし、上肢は腹部の前で組んだ姿勢とした。対象者には、約2m前方で目線の高さに置かれたLEDランプを注視させ、LED点灯の合図にできるだけ速く回旋を開始するよう指示し、約1秒で最大回旋角度の75%以上体幹を回旋させ、その終了肢位で3秒間静止させた。数回の練習後、左右ランダムにそれぞれ5回ずつ実施し、非利き手側への回旋動作を解析に用いた。回旋角度の測定には、三次元動作解析装置VICON NEXUS(VICON社製)を使用し、サンプリング周波数200Hzにて実施した。体幹回旋角度は胸郭セグメントの回旋、脊柱回旋角度は胸郭セグメントと骨盤セグメントの回旋差により算出した。これより最大体幹回旋時における脊柱回旋可動性は、脊柱回旋角度を体幹回旋角度で除した脊柱回旋比として求めた。また、筋電図測定には、表面筋電図TeleMyo2400(Noraxon社製)を使用し、サンプリング周波数1000Hzにて三次元動作解析装置とLED信号を同期したパソコンに記録させた。3秒間の最大等尺性収縮時(MVC)より得られた筋電図波形は、全波整流平滑化し、この値を100%として各課題実施時における筋活動量(%MVC)を求めた。測定筋は、左右両側の脊柱起立筋腰部、多裂筋、腹横筋(内腹斜筋)、外腹斜筋、腹直筋、広背筋上部・下部線維、大殿筋上部線維の計16筋とした。解析区間は回旋開始から終了までとし、体幹回旋角度により規定した。なお、これらの分析にはMathWorks社製MATLABを使用した。統計学的検定は、群間比較にはMann-Whitney検定、腰痛群における脊柱回旋比と筋活動の関連はSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。有意水準は5%とした。【説明と同意】 本研究は、倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には本研究の目的を十分に説明し、書面にて同意を得た。【結果】 最大回旋時における脊柱回旋比は健常群28.6±5.9%に対し、腰痛群32.9±4.6%と腰痛群で有意に増加していた。また、筋活動量は、非回旋側外腹斜筋が腰痛群4.92±2.19%に対して健常群では3.42±1.69%であり、腰痛群の筋活動量が有意に増加(p=0.04、効果量: 0.77)し、非回旋側多裂筋の筋活動量が減少する傾向(p=0.09、効果量: 0.64)にあった。腰痛群における脊柱回旋比と筋活動の関連は、両側多裂筋(非回旋側: r=-0.732、p<0.01、回旋側: r=-0.604、p=0.02)と脊柱起立筋(非回旋側: r=-0.514、p=0.04、回旋側: r=-0.557、p=0.03)で有意な負の相関関係が認められた。【考察】 腰痛群では健常群に比べ、相対的な脊柱回旋可動性が増加し、外腹斜筋の筋活動量増加がみられた。また、腰痛群では脊柱回旋比と多裂筋・脊柱起立筋に有意な負の相関関係が得られたことから、回旋時の脊柱回旋可動性が高いほど多裂筋や脊柱起立筋の筋活動が低下していることが示唆された。腰痛群では外腹斜筋の筋活動量増加がみられたが、脊柱回旋比と関連を示さなかったことから、この筋活動増加は脊柱安定化筋の機能低下を代償し、回旋主動作筋としてだけではなく脊柱を安定させる固定補助筋として作用している可能性がある。以上より、腰痛患者の脊柱可動性増加は、主動作筋の過活動ではなく、多裂筋や脊柱起立筋の脊柱安定化作用の機能低下によって生じている可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 腰痛患者における脊柱回旋可動性と体幹筋活動の特性を明らかにした研究であり、臨床場面における評価・治療の一助となる。