著者
松村 葵 建内 宏重 中村 雅俊 市橋 則明
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11224, (Released:2016-11-26)
参考文献数
38

【目的】運動前後の棘下筋の即時的な筋断面積の変化を比較し,低負荷・低速度での肩関節外旋運動によって棘下筋に対してトレーニングによる刺激を与えることができるかどうかを明らかにすること。【方法】健常男性10 名を対象とし,負荷と運動速度をそれぞれ0.5 kg・5 秒条件,0.5 kg・1 秒条件,2.5 kg・1 秒条件の3 条件で肩関節外旋運動を行い,運動前後に棘下筋の筋断面積を超音波画像診断装置によって撮影した。また表面筋電図を用いて運動中の棘下筋と三角筋後部の筋活動を測定した。【結果】運動後の棘下筋の筋断面積は0.5 kg・5 秒条件で他の2 条件よりも有意に大きく増加した。棘下筋の運動中の平均筋活動量には条件間に有意な差はみられなかったが,運動1 セット中の棘下筋の筋活動量積分値は0.5 kg・5 秒条件で有意に大きかった。【結論】低負荷であっても運動速度を遅くすることで,棘下筋にトレーニング刺激を与えられることが明らかとなった。
著者
小栢 進也 建内 宏重 高島 慎吾 市橋 則明
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.97-104, 2011-04-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
25
被引用文献数
4

【目的】筋の作用は解剖学的肢位で考えられることが多いが,実際の運動では関節角度変化に伴い,筋の作用や発揮できる筋力が異なる。本研究では数学的モデルを用いて角度変化に伴う股関節周囲筋の屈伸トルクを検討した。【方法】股関節周囲筋を対象とし,生理学的断面積,羽状角,モーメントアーム,筋線維長から股関節屈曲角度を変化させた際に筋が発揮する屈伸トルクを求めた。なお,大殿筋下部線維,縫工筋,腸腰筋は走行変化点を考慮したモデルを用いた。【結果】大腿直筋は屈曲10〜30°で大きな屈曲トルクを有し,伸展域や深い屈曲域ではトルクが小さくなった。一方,腸腰筋は深い屈曲域で強い力を発揮し,伸展域でもトルクは維持された。また,ハムストリングスは屈曲域で大きな伸展トルクを発揮するが,伸展につれて急激に小さくなり,伸展域では大殿筋下部線維が主動筋となることがわかった。内転筋は伸展域で屈筋,屈曲域で伸筋になる筋が多かった。【結論】関節角度によって変化する筋の発揮トルク特性を考慮することで,弱化した筋の特定など筋力の詳細な評価が可能になると考えられる。
著者
八木 優英 建内 宏重 栗生 瑞己 水上 優 本村 芳樹 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0278, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】トーマステスト変法(MTT)は片側股関節屈曲により対側股関節を伸展位にし,その際に生じる股関節内外転運動や可動域制限を捉えることで,筋張力が優位に高い股関節屈筋を推定する評価方法である。この推定は各股関節屈筋が有する,解剖学的肢位での股関節屈曲以外の運動作用を基に行われる。しかし股関節伸展位では股関節内外転運動などで,どの股関節屈筋の筋張力が優位に増加するかは明確でないため,MTTの評価結果に科学的な裏付けがあるとは言い難い。そこで股関節伸展位での股関節運動時に筋張力が増加する股関節屈筋を明示し,MTTの解釈についてのエビデンスを得ることを目的として本研究を行った。【方法】対象は健常成人男性12名(23.8±2.7歳)であった。測定肢位は膝関節より遠位をベッドから垂らした背臥位で,骨盤を非弾性ベルトでベッドに固定した。腰椎の前弯が消失するまで非利き足の股関節を屈曲させ,その位置で被験者に両手で大腿部を保持させた。利き足を股関節伸展10°,外転0°,外旋0°,膝屈曲90°の肢位(基準条件)で検者が保持した。利き足股関節角度を基準条件から他動的に動かした外転条件(外転20°),内転条件(内転15°),外旋条件(外旋15°),内旋条件(内旋15°),伸展条件(伸展25°)の5条件と基準条件の計6条件で筋張力を測定した。測定筋は腸骨筋(IL),大腿直筋(RF),縫工筋(SA),大腿筋膜張筋(TFL),長内転筋(AL),中殿筋前部線維(GM)とした。筋へのストレッチ効果を除外するために,条件間に1時間以上休憩し,筋の測定順と測定条件順は無作為に決定した。硬さの指標である筋弾性率により筋張力を推定可能なせん断波エラストグラフィー機能(Super Sonic Imagine社製)を用いて各筋の筋張力を評価した。本研究では伸張による筋張力増加を評価した。そのため各条件で筋張力の増加した筋はMTT時に,測定条件と逆の運動方向に影響することを示す。統計解析は反復測定分散分析後,計画的検定として基準条件と他条件間でWilcoxonの符号付順位検定を用いて筋弾性率を比較した。有意水準は5%とし,計画的検定では筋毎にHolm法で補正した有意水準を用いた。【結果】一元配置分散分析の結果,全筋で条件間に有意差を認めた。ILでは基準条件(23.9:kPa)に比べ外転条件(41.6),外旋条件(35.8),伸展条件(43.0)で,TFLでは基準条件(18.7)に比べ内転条件(43.2)で,RFでは基準条件(30.1)に比べ内転条件(36.7),伸展条件(37.3)で,ALでは基準条件(12.7)に比べ外転条件(20.2)で筋弾性率が有意に高かった。【結論】本研究結果から,MTTでの伸展制限はIL,RFの,外転運動・内転制限はRF,TFLの,内転運動・外転制限はIL,ALの,内旋運動・外旋制限はILの筋緊張亢進または短縮を示す所見であることが示された。本結果は健常成人を対象とした研究ではあるが,MTTの解釈に有用な知見である。
著者
小栢 進也 建内 宏重 高島 慎吾 市橋 則明
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.97-104, 2011
参考文献数
25
被引用文献数
1

【目的】筋の作用は解剖学的肢位で考えられることが多いが,実際の運動では関節角度変化に伴い,筋の作用や発揮できる筋力が異なる。本研究では数学的モデルを用いて角度変化に伴う股関節周囲筋の屈伸トルクを検討した。【方法】股関節周囲筋を対象とし,生理学的断面積,羽状角,モーメントアーム,筋線維長から股関節屈曲角度を変化させた際に筋が発揮する屈伸トルクを求めた。なお,大殿筋下部線維,縫工筋,腸腰筋は走行変化点を考慮したモデルを用いた。【結果】大腿直筋は屈曲10〜30°で大きな屈曲トルクを有し,伸展域や深い屈曲域ではトルクが小さくなった。一方,腸腰筋は深い屈曲域で強い力を発揮し,伸展域でもトルクは維持された。また,ハムストリングスは屈曲域で大きな伸展トルクを発揮するが,伸展につれて急激に小さくなり,伸展域では大殿筋下部線維が主動筋となることがわかった。内転筋は伸展域で屈筋,屈曲域で伸筋になる筋が多かった。【結論】関節角度によって変化する筋の発揮トルク特性を考慮することで,弱化した筋の特定など筋力の詳細な評価が可能になると考えられる。
著者
正木 光裕 建内 宏重 武野 陽平 塚越 累 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ca0270, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 腰痛患者では脊柱の安定性に重要な役割をもつ多裂筋が萎縮していることが報告されている(Barker,2004)。また腰痛患者の多裂筋の断面積は脊柱起立筋と比較して選択的に減少していることが報告されている(Danneels,2000)。従って腰痛患者のリハビリテーションでは脊柱起立筋に対して多裂筋を選択的にトレーニングできる方法を検討していくことが必要である。腰痛患者の多裂筋トレーニングとして一般的に実施されている四つ這い位での一側上肢と反対側下肢の挙上運動は,下肢を挙上した側で脊柱起立筋よりも多裂筋の方が高い筋活動量を示すとされている(Ekstrom,2008)。この運動において,挙上した上下肢を外転位にすることや重錘負荷することで脊柱回旋モーメントが大きくなり,多裂筋と脊柱起立筋は回旋方向が異なるために,下肢を挙上した側の多裂筋の筋活動量がさらに選択的に増加する可能性がある。しかし,これまで挙上した上下肢の肢位を変化することや重錘負荷することによる影響について検討した報告はない。本研究の目的は四つ這い位での上下肢の挙上運動において肢位の変化や重錘負荷が,多裂筋および脊柱起立筋の筋活動に及ぼす影響について表面筋電図を用いて検討し,効果的な多裂筋の選択的トレーニング方法を明らかにすることである。【方法】 対象は健常若年男性13名(年齢22.4±1.3歳,身長173.3±3.6cm,体重64.5±12.3kg)とした。測定筋は左側の多裂筋,脊柱起立筋とし,電極を筋線維と平行に電極中心間隔20mmで貼付した。多裂筋の電極貼付位置は第5腰椎レベルで第1・2腰椎間と上後腸骨棘を結んだ線上,脊柱起立筋は第1腰椎棘突起から4cm外側とした。筋電図の測定にはNoraxon社製筋電計を使用した。測定課題は四つ這い位で右上肢と左下肢が水平になるまで挙上する運動とした。測定条件は右肩関節180°屈曲・左股関節0°伸展位(以下F-E),右肩関節90°外転・左股関節0°伸展位(以下A-E),右肩関節180°屈曲・左股関節45°外転位(以下F-A),右肩関節90°外転・左股関節45°外転位(以下A-A)とした。またF-Eにおいて右手関節部に体重の2.5%重錘負荷(以下F2.5-E),左足関節部に体重の5%重錘負荷(以下F-E5),右手関節部に体重の2.5%・左足関節部に5%重錘負荷(以下F2.5-E5)とした。各条件において姿勢が安定したことを確認した後,3秒間の筋活動を記録した。また最大等尺性収縮時の筋活動を100%として正規化し,各条件での筋活動を%MVCとして表した。さらに各条件で脊柱起立筋に対する多裂筋の筋活動量を多裂筋/脊柱起立筋比として表した。肢位を変化させた条件間(F-E, A-E, F-A, A-A),重錘負荷した条件間(F-E, F2.5-E, F-E5, F2.5-E5)における多裂筋・脊柱起立筋筋活動量および多裂筋/脊柱起立筋比をFriedman検定と多重比較法(Bonferroni)を用いて比較した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を十分に説明した上,書面にて同意を得た。【結果】 肢位を変化させた条件間で筋活動量を比較すると,多裂筋ではF-A(32.4±8.5%)がF-E(26.3±9.2%)とA-E(27.6±9.7%)に比べて有意に高く,A-A(31.9±8.6%)がF-E とA-Eに比べて有意に高かった。脊柱起立筋の筋活動量は条件間で有意な差がみられなかった。多裂筋/脊柱起立筋比はA-A(3.19±1.96)がF-E(2.23±1.20)に比べて有意に高かった。重錘負荷した条件間で筋活動量を比較すると,多裂筋ではF-E5(31.5±13.8%)がF-Eに比べて有意に高く,F2.5-E5(36.2±15.4%)がF-E, F2.5-E(30.1±9.8%), F-E5に比べて有意に高かった。脊柱起立筋ではF-E5(20.2±10.4%)がF-E(13.9±6.5%)に比べて有意に高く,F2.5-E5(23.8±9.3%)がF-EとF2.5-E(17.7±5.3%)に比べて有意に高かった。多裂筋/脊柱起立筋比はF2.5-E5(1.63±0.58)がF-Eに比べて有意に低かった。【考察】 挙上した上下肢を外転位にすることで,多裂筋の筋活動量のみが有意に増加し,多裂筋/脊柱起立筋比も増加する傾向にあった。これは右上肢・左下肢外転位により脊柱左回旋モーメントが増加し,脊柱左回旋作用のある左脊柱起立筋は筋活動を高めず,脊柱右回旋作用のある左多裂筋が筋活動を高めたためと考える。挙上した上下肢に重錘負荷することで,多裂筋とともに脊柱起立筋の筋活量も有意に増加し,多裂筋/脊柱起立筋比は有意に低下した。これは上下肢への重錘負荷により脊柱屈曲モーメントが増加し,脊柱伸展作用のある両筋において脊柱起立筋が多裂筋よりも活動を高めたためと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究により,四つ這い位での上下肢の挙上運動において,上下肢を外転位にすることでより効果的に多裂筋を選択的トレーニングできる可能性が示唆された。また重錘負荷すると逆に多裂筋/脊柱起立筋比が低下し,多裂筋の選択的トレーニングとしては不利になる可能性が示唆された。
著者
松村 葵 建内 宏重 中村 雅俊 市橋 則明
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.81-87, 2017 (Released:2017-04-20)
参考文献数
38

【目的】運動前後の棘下筋の即時的な筋断面積の変化を比較し,低負荷・低速度での肩関節外旋運動によって棘下筋に対してトレーニングによる刺激を与えることができるかどうかを明らかにすること。【方法】健常男性10 名を対象とし,負荷と運動速度をそれぞれ0.5 kg・5 秒条件,0.5 kg・1 秒条件,2.5 kg・1 秒条件の3 条件で肩関節外旋運動を行い,運動前後に棘下筋の筋断面積を超音波画像診断装置によって撮影した。また表面筋電図を用いて運動中の棘下筋と三角筋後部の筋活動を測定した。【結果】運動後の棘下筋の筋断面積は0.5 kg・5 秒条件で他の2 条件よりも有意に大きく増加した。棘下筋の運動中の平均筋活動量には条件間に有意な差はみられなかったが,運動1 セット中の棘下筋の筋活動量積分値は0.5 kg・5 秒条件で有意に大きかった。【結論】低負荷であっても運動速度を遅くすることで,棘下筋にトレーニング刺激を与えられることが明らかとなった。
著者
永井 宏達 建内 宏重 井上 拓也 太田 恵 森 由隆 坪山 直生 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C1390, 2008

【目的】これまで,筋機能の改善は,筋力増強に重きをおかれてきたが,近年,活動量だけでなく筋活動の開始時期が注目されている.先行研究では,腰痛の有無に着目し,腰痛群において主動作筋に対する体幹筋の筋活動開始時期が遅延するという報告もされているが,腰椎前彎の有無に着目して,筋活動開始時期への影響を調査した報告は見当たらない.本研究の目的は,腰椎前彎が下肢運動時における体幹筋の筋活動開始時期に及ぼす影響を明らかにすることである.<BR>【対象と方法】対象は健常成人男性9名(平均年齢23.1±2.9歳)とした.表面筋電図の測定にはNORAXON社製TeleMyo 2400を使用した.測定筋は,左側の内腹斜筋・腹横筋群(IO),腹直筋(RA),外腹斜筋(EO),多裂筋(MF),半膜様筋(SM),大殿筋(GM)とし,右SLR時の左体幹・下肢の筋電図を測定した.また,右SLRの主動作筋である大腿直筋(RF)も測定した.<BR>被検者の姿勢は仰臥位とし,LEDによる光刺激に対して,できるだけ速くSLRを行うように指示した.LEDは左右2光源あり,検者による口頭での合図の後,5秒以内に一方のライトを点灯させ,点灯した側の下肢を挙上するように指示した.挙上側は左右ランダムとした.条件は,安静臥位と他動的な腰椎前彎位の2条件とし,腰椎の前彎は,厚さ約4cmの砂嚢を腰椎とベッド間に挿入して設定した.各条件につき7回測定を行い,その内の5回のデータを採用した.各筋の筋活動が生じた時期は,ライト点灯以前での50msec間におけるRMS(Root Mean Square)の標準偏差の2倍の値を25msec間以上超えた時点とした.なお,SLRの主動作筋であるRFの筋活動開始時期を基準として,各筋の筋活動開始時期を算出した.統計処理には,反復測定分散分析,多重比較検定,対応のあるt検定を用いた.有意水準は5%未満とした.<BR>【結果と考察】<BR>分散分析の結果,各筋の筋活動開始時期には有意な差がみられた(p<0.01).安静位での筋活動開始の順番は,SM→EO=RF→RA=IO→MF→GMであった。腰椎前彎位ではSM→RF→EO=IO=RA→MF=GMであった.前彎条件にて,安静条件と比較してSMの筋活動開始時期が有意に早くなった(安静; -11.2±7.8msec,前彎; -18.2±11.4msec).またMFの筋活動開始時期が前彎条件にて有意に遅延した(安静; 22.6±15.5msec,前彎; 32.8±17.6msec).腹筋群では,前彎条件にて筋活動開始時期が遅延する傾向がみられた.本研究の結果より,腰椎が前彎位になることで,下肢運動時におけるMFの収縮が遅延することが示された.一方,SMは体幹筋群による骨盤の固定作用が遅延することの代償として,筋活動時期が早まる可能性が考えられた.したがって,腰椎の過度な前彎を呈している症例では,MFの動員が遅延して,脊柱の安定性に影響を及ぼしている可能性があることが示唆された.
著者
後藤 優育 建内 宏重 福元 喜啓 高木 優衣 大塚 直輝 小林 政史 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ca0219, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 変形性膝関節症(以下、膝OA)は、高齢者において高い有病率を示し、膝OA患者において、疼痛、筋力低下およびROM制限をはじめとする機能低下がみられ、さまざまな日常生活動作が障害される。膝OAの発症・進行は、歩行などの動作時に膝関節内で圧縮ストレスが引き起こされることが原因と考えられている。この圧縮ストレスを反映する指標とされるものには、外的膝屈曲モーメント(以下:KFM)や外的膝内反モーメント(以下:KAM)があり、特に先行研究では、歩行時のKAMについて検討しているものが多い。しかし、実際には膝OA患者は立ち上がり動作や階段昇降で症状を訴えることが多いにも関わらず、これらの各種動作でどの程度のモーメントが膝関節に加わっているのかは不明である。そこで、本研究は膝OA患者の歩行、立ち上がり動作、階段昇降動作に着目し,KFMとKAMの動作による違いを検討することを目的とした。【方法】 対象は地域在住の女性膝OA患者6名(年齢:55.3±4.33歳)とした。対象者の包含基準として、膝OAと診断され、独歩可能な者とした。測定課題は、歩行、椅子からの立ち上がり動作、昇段動作および降段動作とし、全て自由な速度で行った。反射マーカーをPlug in gaitモデルに準じて全身に貼付し、三次元動作解析装置VICON NEXUS(VICON社製,サンプリング周波数200Hz)および床反力計(Kistler社製,サンプリング周波数1000Hz)を使用して解析した。測定下肢はOA側としたが、両側性の膝OAの場合には、より症状の強い方をOA側と定義し測定した。立ち上がり動作時の椅子の高さは下腿(外果~膝関節裂隙)の長さとし、上肢は胸の前で組んで行った。昇段動作および降段動作には17cmの台を1段用い、OA側下肢からの昇段および非OA側下肢からの降段を行った。上肢は胸の前で組み、目線は前方を見るように指示した。各動作は十分な練習を行った後、3回測定した。データの解析区間は、歩行ではOA側の立脚相、立ち上がり動作では殿部が座面から離れてから立位までの間、昇段動作ではOA側下肢が台上についてから非OA側が台上につくまでの間、降段動作では非OA側下肢が台上から離れ、OA側下肢が台上から離れるまでの間とした。各動作時のKFMとKAMのピーク値を体重と身長で除した値(Nm/kg・m)を求め,3回の平均値を解析に使用した。統計検定には一元配置分散分析およびBonferroni法による多重比較を行い、KFMおよびKAMを動作間で比較した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は本学倫理委員会の承認を得て行われた。対象者には研究の内容を紙面上にて説明した上、同意書に署名を得た。【結果】 各動作におけるKFM(Nm/kg・m)は、歩行では0.32±0.09、立ち上がり動作では0.35±0.16、昇段動作では0.43±0.14、降段動作では0.52±0.18であった。統計処理の結果、降段動作のKFMは歩行、立ち上がり動作より有意に大きかった(p<0.05,p<0.01)。KAM(Nm/kg・m)は、歩行では 0.43±0.10、立ち上がり動作では0.16±0.13、昇段動作では0.50±0.14、降段動作では0.47±0.13であった。統計処理の結果、立ち上がり動作のKAMは歩行、昇段動作、降段動作より有意に小さかった(p<0.05)。また、歩行、昇段動作、降段動作の間には有意差は認めなかった。【考察】 本研究の結果より、KFMは降段動作が歩行や立ち上がり動作よりも大きいということ、また、KAMは、立ち上がり動作では小さく、歩行と階段昇降動作とでは差がないことが明らかとなった。降段動作においてKFMが歩行や立ち上がり動作よりも有意に大きかったことより、歩行や立ち上がり動作よりも降段動作で症状を訴える膝OA患者は、KFMの増大が症状を誘発している可能性が高いと考えらえる。また、KAMについては、一般的に歩行時のKAMが膝OAの進行と関連があると報告されているが、昇段動作および降段動作においても歩行時と同等のKAMが生じており、歩行のみならず階段昇降動作においても着目することの重要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究で行ったこれらの動作は、膝OA患者のリハビリプログラムや日常生活指導で広く行われる動作である。本研究は、これらの動作間でのKFMおよびKAMを比較しており、患者の訴えに合わせた訓練動作の選択や、動作指導の際に必要な知見になると考えられる。
著者
塚越 累 建内 宏重 福元 喜啓 奥村 秀雄 市橋 則明
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.363-369, 2009-12-20
参考文献数
32

【目的】本研究の目的は末期変形性股関節症患者の最大歩行速度に影響を及ぼす因子を明らかにすることである。【方法】片側性の末期変形性股関節症を罹患している女性39名を対象とし,10m最大歩行速度(MWS),患側の股関節可動域(ROM),両側股関節・膝関節周囲筋の最大等尺性筋力および歩行時の疼痛を測定した。MWSに影響を及ぼす因子を決定するために,MWSを従属変数,年齢,ROM,筋力,疼痛および杖使用の有無を独立変数としたステップワイズ重回帰分析を行った。【結果】健側膝関節伸展筋力,患側股関節外転筋力,疼痛および杖使用の有無がMWSを予測する有意な因子として抽出され,その寄与率は62%であった。【結論】健側膝関節伸展筋力は歩行推進力として患側の機能低下を補っていると考えられ,また,患側股関節外転筋力は患側立脚期の体幹・骨盤の安定作用として機能していると考えられる。これら2つの筋力因子および疼痛は末期変形性股関節症患者の歩行において特に重要であることが示唆された。
著者
本村 芳樹 建内 宏重 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】筋活動バランスの観点から,股関節疾患患者などでは大殿筋に対するハムストリングスの優位な活動などの筋活動不均衡がみられることが多く,また,変形性股関節症患者では大殿筋下部線維の優位な筋萎縮などの不均一な筋萎縮も報告されている。したがって,それらを改善するためには筋の選択的トレーニングが重要であるが,ハムストリングスと大殿筋,さらに大殿筋の上部・下部線維について,種々の運動時の筋活動バランスを調査した報告は少ない。本研究の目的は,トレーニングとして多用される股伸展運動とブリッジ運動を対象として,ハムストリングスと大殿筋上部・下部線維の筋活動バランスを分析し,筋が選択的かつ効果的に活動する運動を明らかにすることである。【方法】対象は,下肢に整形外科的疾患を有さない健常男性19名とした(年齢21.8±1.4歳)。課題は,腹臥位右股伸展(股伸展)と右片脚ブリッジ(ブリッジ)とした。股伸展では,ベッドの下半身部分を30°下方に傾斜させて骨盤をベルトで固定し,右股関節のみ伸展0°位(内外転,内外旋中間位),右膝屈曲90°位で保持させた。条件は,抵抗なし,外転抵抗(3 kg),内転抵抗(3 kg)の3種類とした。外転および内転抵抗は,伸張量を予め規定したセラバンドを用いて,両側の大腿遠位で外側および内側から抵抗を加えた。ブリッジでは,両上肢を胸の前で組み,両股伸展0°位(内外転,内外旋中間位)かつ右膝屈曲90°位,左膝伸展0°位で保持させた。条件は股伸展と同じく,抵抗なし,外転抵抗,内転抵抗の3種類とした。各課題について,測定前に十分に練習を行った。測定には,Noraxon社製表面筋電計を用いた。測定筋は,右側の大殿筋上部線維(UGM),大殿筋下部線維(LGM),大腿二頭筋長頭(BF),半腱様筋(ST)とした。各筋とも,各課題中の3秒間の平均筋活動量を求め,各筋の最大等尺性収縮時の筋活動量で正規化した。本研究では先行研究を参照し,二筋の筋活動量の比と分子となる筋の筋活動量との積を算出し,筋活動バランスと定義した。まず,正規化した筋活動量を用いて,UGMとLGMの筋活動量の和をGmax,BFとSTの筋活動量の和をHamとしてGmax/Ham(G/H)の比を,またUGM/LGM(U/L),LGM/UGM(L/U)の各比を算出し,それらと筋活動量との積として,Gmax×G/H(G<sup>*</sup>G/H),UGM×U/L(U<sup>*</sup>U/L),LGM×L/U(L<sup>*</sup>L/U)を算出した。股伸展とブリッジの計6課題(全て股伸展0°,膝屈曲90°)について,上記の各変数の課題間の差を対応のあるt検定およびShaffer法による修正を行った。【結果】筋活動量としては,UGMでは,股伸展・外転が他の課題より有意に大きく,股伸展・内転が最も筋活動量が小さい傾向にあった。LGMでは,股伸展・外転がブリッジ・内転より有意に大きかったが,その他の課題間では有意差は認めなかった。BF,STについては,どちらも股伸展の3課題に比べブリッジ3課題がいずれも有意に大きかった。筋活動バランスとしては,G<sup>*</sup>G/Hは,股伸展・外転のみがブリッジ3課題より有意に高かった。U<sup>*</sup>U/Lはブリッジ・抵抗なしよりも股伸展・外転およびブリッジ・外転が有意に高かった。また,L<sup>*</sup>L/Uは股伸展・内転とともに股伸展・抵抗なしも他の課題よりも有意に高値を示す傾向にあったが,この両者の間では有意差は認めなかった。【考察】本研究で用いた指標である筋活動バランスが高い課題は,比が高くかつ筋活動量も大きい運動を示している。6課題の中では,ハムストリングスに対する大殿筋の選択的トレーニングとしては,股伸展・外転が最も効果的と考えられる。大殿筋上部線維については,股伸展,片脚ブリッジともに外転抵抗での運動が効果的であると考えられる。一方,大殿筋下部線維は,筋活動量としては股伸展・外転が大きかったものの,筋活動バランスとしては,股伸展・内転や股伸展・抵抗なしが高値を示した。これらの運動では,大殿筋上部線維の筋活動が大きく減少したためと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,筋活動量の比と筋活動量の積から算出される筋活動バランスを分析することによって,ハムストリングスと大殿筋,そして大殿筋上部・下部線維を選択的にトレーニングするための重要な知見を提供するものである。
著者
季 翔 正木 光裕 梅垣 雄心 中村 雅俊 小林 拓也 山内 大士 建内 宏重 池添 冬芽 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0486, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】近年開発された超音波診断装置のせん断波エラストグラフィー機能で測定される弾性率は,筋の伸張性を反映することが報告されている(Maïsetti 2012, Koo 2013)。そのため,この弾性率を指標として個別の筋の伸張の程度を定量的に評価することが可能となった。臨床において筋・筋膜性腰痛や背部筋の過緊張に対する運動療法として,背部筋のストレッチングがよく用いられている。背部筋のなかで脊柱起立筋は脊柱の伸展,同側側屈,同側回旋,多裂筋は脊柱の伸展,同側側屈,反対側回旋の作用を有する。そのため,脊柱起立筋は脊柱の屈曲,反対側側屈,反対側回旋,多裂筋は脊柱の屈曲,反対側側屈,同側回旋で伸張される可能性が考えられる。しかし,どのような肢位で脊柱起立筋や多裂筋が最も効果的に伸張されるかについては明らかではない。本研究の目的は,せん断波エラストグラフィー機能で測定した弾性率を用いて,脊柱起立筋と多裂筋の効果的なストレッチング方法を明らかにすることである。【方法】対象は整形外科的および神経学的疾患を有さない健常若年男性10名(年齢22.9±2.3歳)とした。なお,腰痛を有する者は対象から除外した。筋の弾性率(kPa)の評価には,せん断波エラストグラフィー機能を有する超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)を用い,各筋の筋腹に設定した関心領域のせん断速度から弾性率を求めた。なお,弾性率の値が高いほど筋は硬く,伸張されていることを意味する。対象筋は左腰部の脊柱起立筋(腰腸肋筋)および右腰部の多裂筋とした。測定部位は脊柱起立筋が第3腰椎棘突起の7cm外側,多裂筋が第4腰椎棘突起の2cm外側とした。測定肢位は①安静腹臥位(以下,rest),②正座の姿勢から体幹を前傾し,胸腰推を40~45°屈曲した肢位(以下,屈曲),③ ②の胸腰推を40~45°屈曲した肢位からさらに胸腰推を30°右側屈した姿勢(以下,屈曲右側屈),④ ②の胸腰推を40~45°屈曲した肢位からさらに胸腰推を30°右回旋した姿勢(以下,屈曲右回旋)とした。なお,本研究においては多くのストレッチング肢位をとることで筋の柔軟性が増加し,弾性率に影響が生じる可能性を考慮し,ストレッチング肢位は上記②~④の3条件のみとし,測定の順序はランダムとした。また,②~④の肢位では,できるだけ安楽な姿勢をとらせるために腹部にストレッチポールを挟んだ。なお,胸腰推の角度は日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会による測定法に準じた。統計学的検定には,Bonferroni法による多重比較検定を用いて,測定肢位による弾性率の違いを分析した。なお,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究内容について十分な説明を行い,同意を得たうえで実施した。【結果】左脊柱起立筋の弾性率については,屈曲右側屈(20.8kPa),屈曲(13.7kPa)がrest(5.0kPa)よりも有意に高かった。また,屈曲右側屈が屈曲,屈曲右回旋(9.2kPa)よりも有意に高い値を示し,屈曲と屈曲右回旋との間に有意な差はなかった。右多裂筋の弾性率については,屈曲(30.7kPa),屈曲右回旋(30.2kPa)屈曲右側屈(17.6kPa)がrest(5.7kPa)よりも有意に高かった。また,屈曲右側屈が屈曲,屈曲右回旋よりも有意に低い値を示し,屈曲と屈曲右回旋との間に有意な差はなかった。【考察】せん断波エラストグラフィー機能による弾性率を用いて背部筋の伸張の程度を調べた結果,脊柱起立筋においては,脊柱屈曲位で反対側側屈することが最も効果的なストレッチング方法であることが明らかとなった。脊柱起立筋は,脊柱屈曲位,脊柱屈曲位で反対側側屈することで筋を伸張することができ,また,脊柱屈曲位で反対側側屈することは,脊柱屈曲位や脊柱屈曲位で反対側回旋することよりもより効果的に伸張することができることが示唆された。脊柱屈曲位で反対側回旋させるよりも反対側側屈させるほうが,脊柱起立筋を伸張させるのに効果的である理由としては,脊柱起立筋の側屈モーメントアームは回旋モーメントアームよりも大きいことが影響していると考えられる。また,多裂筋は特に脊柱屈曲位および脊柱屈曲位で同側回旋において伸張されることが示唆された。この脊柱屈曲位と脊柱屈曲位で同側回旋との間には有意差がみられなかったことから,同側回旋を加えなくても脊柱を屈曲するだけで多裂筋は効果的に伸張することができると考えられた。脊柱屈曲位で同側回旋を加えても多裂筋に影響を与えなかった理由として,多裂筋は回旋作用を有するが,回旋モーメントアームは小さいことによるものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究によって,脊柱起立筋は脊柱屈曲位でさらに反対側側屈を加えることで,多裂筋は脊柱を屈曲することで,より効果的に伸張できることが示唆された。
著者
遠藤 正樹 建内 宏重 永井 宏達 高島 慎吾 宮坂 淳介 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CcOF2078, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 ADLやスポーツでは、肩関節内・外旋運動が繰り返し行われており、内・外旋運動時の肩甲骨運動と肩関節障害との関連が指摘されている。2nd外旋では、肩甲骨の後傾・上方回旋・外旋、鎖骨の後方並進が生ずるとされているが、機能的な問題が生じやすい内・外旋最終域まで詳細に報告したものは少ない。また胸椎の屈曲・伸展は肩甲骨の運動に関連があると考えられているが、内・外旋運動において胸椎の運動を調査した研究はほとんどない。臨床的にも肩関節疾患において、内・外旋運動の障害は多く見られるため、内・外旋運動時の肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動や動態を明らかにできれば、効果的な治療が可能になると考える。よって本研究の目的は、1st、2nd、3rdポジションにおける内・外旋運動時の肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動を3次元的に明らかにすることとした。【方法】 対象は健常若年男性17名(23±3.9歳)とし、測定側は利き手上肢とした。測定には6自由度電磁センサーLiberty (Polhemus社製)を用いた。8つのセンサーを肩峰、三角筋粗部、前腕中央、胸骨、鎖骨中央、Th1、Th12、S2に貼付し、肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動学的データを収集した。測定課題は座位での1st、2nd、3rdポジションの内・外旋運動とし、最大内旋位から3秒で外旋し、最大外旋位で1秒静止保持させ、3秒で最大内旋位まで内旋する運動とした。測定回数は3回とし、その平均値を解析に用いた。解析区間は最大内旋位~最大外旋位までを100%として、解析区間内において5%毎の肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動学的データを算出した。なお、肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動角度は、胸郭セグメントに対する肩甲骨・鎖骨セグメント、および胸椎はTh12に対するTh1の相対的なオイラー角を算出した。運動軸の定義として、肩甲骨は内・外旋、上方・下方回旋、前・後傾、鎖骨は前方・後方並進、上・下制について解析を行った.統計分析では、解析区間における肩甲骨・鎖骨の動態、および同一角度における内旋運動時と外旋運動時の肩甲骨・鎖骨の動態の違いを分析するために、反復測定二元配置分散分析を用いた。有意水準は5%とした。【説明と同意】 対象者には研究の内容を紙面上にて説明した上、同意書に署名を得た。なお、本研究は本学倫理委員会の承認を得ている。【結果】 1stの外旋では肩甲骨は約17度外旋、約6度下方回旋、鎖骨は約5度後方並進、胸椎は約5度伸展した。2ndの外旋では肩甲骨は約14度外旋、約7度上方回旋、約19度後傾、鎖骨は約11度後方並進・下制、胸椎は約14度伸展した。3rdの外旋では肩甲骨は約12度外旋、約6度下方回旋、約12度後傾、鎖骨は約5度下制、胸椎は約7度伸展した。また、1st、2ndでは肩甲骨・鎖骨・胸椎の全ての運動で、3rdでは肩甲骨内・外旋、上・下方回旋、鎖骨の挙上・下制、胸椎の屈曲・伸展で交互作用が認められ(P<0.05)、同一角度においても内旋運動中と外旋運動中とでは肩甲骨・鎖骨・胸椎の動態が異なっていた。1st、2nd、3rdポジションの共通の傾向として、内・外旋運動の最終域付近において、肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動は急な増大を示した。【考察】 外旋運動において、1stでは肩甲骨の外旋・下方回旋、鎖骨の後方並進、胸椎の伸展、2ndでは肩甲骨の外旋・上方回旋・後傾、鎖骨の後方並進・下制、胸椎の伸展、3rdでは肩甲骨の外旋・下方回旋・後傾、鎖骨の下制、胸椎の伸展が同時に生じていた。内旋運動では逆の運動を同時に示した。胸椎は全てのポジションにおいて、外旋運動時に伸展し、内旋運動時に屈曲が生じており、内・外旋運動においても胸椎と肩甲骨の運動が協調していることが明らかとなった。また、3ポジション全てで外旋運動時に胸椎は伸展したが、特に2ndでの伸展角度が大きく、2nd外旋では胸椎の伸展がより重要であることが示唆された。さらに、同じ角度であっても内旋運動中と外旋運動中とでは肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動パターンが異なることが明らかとなった。例を挙げると、外旋最終域付近において、外旋運動中には肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動が大きくなるのに対して、内旋運動中には肩甲上腕関節の運動が大きくなる傾向にあった。肩甲骨・鎖骨・胸椎の動態は、内・外旋運動の運動方向を踏まえて理解することが必要である。【理学療法学研究としての意義】 肩関節疾患を有する多くの患者において、内・外旋運動時の肩甲上腕関節の可動域低下だけでなく、肩甲骨運動の異常も観察される。臨床的に問題が生じやすい内・外旋運動時の肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動や動態が明らかとなり、患者の治療戦略立案にとって有用な情報になると考える。
著者
松村 葵 建内 宏重 永井 宏達 中村 雅俊 大塚 直輝 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Aa0153, 2012

【はじめに、目的】 上肢拳上動作時の肩関節の機能的安定性のひとつに肩甲骨上方回旋における僧帽筋上部、下部線維と前鋸筋によるフォースカップル作用がある。これは僧帽筋上部、下部と前鋸筋がそれぞれ適切なタイミングでバランスよく作用することによって、スムーズな上方回旋を発生させて肩甲上腕関節の安定化を図る機能である。これらの筋が異常な順序で活動することによりフォースカップル作用が破綻し、肩甲骨の異常運動と肩関節の不安定性を高めることがこれまでに報告されている。しかし先行研究では主動作筋の筋活動の開始時点を基準として肩甲骨周囲筋の筋活動のタイミングを解析しており、実際の肩甲骨の上方回旋に対して肩甲骨周囲筋がどのようなタイミングで活動するかは明らかとなっていない。日常生活の場面では、さまざまな運動速度での上肢の拳上運動を行っている。先行研究において、拳上運動の肩甲骨運動は速度の影響を受けないと報告されている。しかし、運動速度が肩甲骨周囲筋の活動順序に与える影響については明らかになっておらず、これを明らかにすることは肩関節の運動を理解するうえで重要な情報となりうる。本研究の目的は、上肢拳上動作の運動速度の変化が肩甲骨上方回旋に対する肩甲骨周囲筋の活動順序に与える影響を検討することである。【方法】 対象は健常男性10名(平均年齢22.3±1.0歳)とした。表面筋電図測定装置(Telemyo2400, Noraxon社製)を用いて僧帽筋上部(UT)・中部(MT)・下部(LT)、前鋸筋(SA)、三角筋前部(AD)・三角筋中部(MD)の筋活動を導出した。また6自由度電磁センサー(Liberty, Polhemus社製)を肩峰と胸郭に貼付して三次元的に肩甲骨の運動学的データを測定した。動作課題は座位で両肩関節屈曲と外転を行った。測定側は利き腕側とした。運動速度は4秒で最大拳上し4秒で下制するslowと1秒で拳上し1秒で下制するfastの2条件とし、メトロノームによって規定した。各動作は5回ずつ行い、途中3回の拳上相を解析に用いた。表面筋電図と電磁センサーは同期させてデータ解析を行った。筋電図処理は50msの二乗平均平方根を求め、最大等尺性収縮時の筋活動を100%として正規化した。肩甲骨の上方回旋角度は胸郭に対する肩甲骨セグメントのオイラー角を算出することで求めた。肩甲骨上方回旋の運動開始時期は安静時の平均角度に標準偏差の3倍を加えた角度を連続して100ms以上超える時点とした。同様に筋活動開始時期は安静時平均筋活動に標準偏差の3倍を加えた値を連続して100ms以上超える時点とした。筋活動開始時期は雑音による影響を除外するために、筋電図データを確認しながら決定した。筋活動のタイミングは各筋の筋活動開始時期と肩甲骨上方回旋の運動開始時期の差を求めることで算出し、3回の平均値を解析に用いた。統計処理には各筋の筋活動開始時期と肩甲骨上方回旋の運動開始時期の差を従属変数とし、筋と運動速度を要因とする反復測定2元配置分散分析を用いた。事後検定として各筋についてのslowとfastの2条件をWilcoxon検定によって比較した。有意水準は0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を十分に説明し同意を得た。なお本研究は本学倫理委員会の承認を得ている。【結果】 屈曲動作において、slow条件ではAD、UT、SAが肩甲骨上方回旋よりも早く活動を開始していた。一方でfast条件では全ての筋が上方回旋よりも早く活動を開始していた。分散分析の結果、筋と運動速度の間に有意な交互作用が得られ(p<0.01)、事後検定の結果、運動速度が速くなることでMTの筋活動は有意に早く開始していた。外転動作において、slowではMD、UT、MT、SAが肩甲骨上方回旋よりも早く活動を開始していた。一方でfastでは全ての筋が上方回旋よりも早く活動を開始していた。分散分析の結果、筋と運動速度の間に有意な交互作用が得られた(p<0.05)。事後検定の結果、運動速度が速くなることでMTとLTの筋活動が有意に早く開始していた。【考察】 本研究の結果、運動速度を速くすることで屈曲動作においてMTが、また外転動作においてはMTとLTの筋活動のタイミングが早くなることが明らかとなった。また運動速度を速くすると、肩甲骨の上方回旋の開始時期よりもすべての肩甲骨固定筋が早い時期に活動し始めていた。これは運動速度が肩甲骨固定筋の活動順序に影響を及ぼすことを示唆している。拳上動作の運動速度を増加させたことにより、速い上腕骨の運動に対応するためにより肩甲骨の固定性を増大させるような戦略をとることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果、運動速度に応じて肩甲骨固定筋に求められる筋活動が異なることが示唆され、速い速度での拳上動作では、肩甲骨の固定性を高めるために僧帽筋中部・下部の活動のタイミングに注目する必要があると考えられる。
著者
塚越 累 建内 宏重 大畑 光司 江口 悟 奥村 秀雄 市橋 則明
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.41-48, 2009-04-20
被引用文献数
6

【目的】人工股関節全置換術(THA)後早期の股関節と膝関節筋力の推移を比較し,術後に最も回復の遅延する筋を明らかにすること。【方法】変形性股関節症によりTHAを施行した女性53名を対象とし,術側と非術側の股関節外転,伸展,屈曲,膝関節伸展および屈曲の最大等尺性筋力を術前と術後2週,4週,6週時点で測定した。【結果】術側の股関節筋力は術後2週で術前より有意に低く,術後4週および6週では術前値と有意な差は認められなかった。一方,術側膝関節伸展筋力は術後2週,4週,6週の全測定時期において術前値より低い値を示した。術後の筋力推移を術前比で比較した場合,術後6週では術側の股関節筋力および膝関節屈曲筋力の術前比は114〜124%で有意な差は無かったが,膝関節伸展筋力は術前比86%と他の4つの筋力と比べて有意に低い値を示した。【結論】THA後には股関節周囲筋力および膝関節屈曲筋力に比べて,膝関節伸展筋力の回復が遅延することが判明した。
著者
和田 治 建内 宏重 市橋 則明
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第49回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.9, 2009 (Released:2009-09-11)

【目的】 身体回旋動作は,日常生活やスポーツにおいて頻回に用いられる。身体回旋動作では,骨盤や脊柱に回旋以外の運動が運動連鎖として生じるとともに,回旋側に重心が移動すると考えられている。したがって,重心位置に近い骨盤や脊柱の運動連鎖は重心移動に大きな影響を与えることが予想される。しかし,身体回旋動作における骨盤や脊柱の運動と重心移動の関連性に関する報告は認められない。本研究の目的は,身体回旋動作における骨盤および脊柱の運動連鎖と側方重心移動量の関連性を明らかにすることである。 【方法】 対象は,書面にて本研究への参加に同意の得られた健常成人男性17名(23.3±2.9歳, 全例右利き)とした。測定課題は立位での身体回旋動作とした。開始肢位は,両足部踵骨中心間を対象者の足長とし,足角は10゜に規定した。また,動作中は両手を腹部の前で組ませた。対象者には,3秒間の静止立位の後,3秒間で後方へ身体を回旋し3秒間で正面に戻る動作を左右交互に3回ずつ行わせ、左回旋3回の平均値を解析に用いた。計測には三次元動作解析装置 (VICON社製)を用い,身体回旋動作時の側方重心移動量(+; 回旋側)を算出し,各被験者の足長で正規化した。次に,対象者の側方重心移動量の平均値を求め,その平均値より側方重心移動の大きい群(以下; L群)と小さい群(以下; S群)に分けた。また,動作時の骨盤と脊柱(胸郭と骨盤の角度変化量の差)の矢状面/前額面/水平面での角度を求め,各々について静止立位時から最大身体回旋時の角度変化量を算出した。対応のないt検定を用いて,骨盤および脊柱の角度変化量を2群間で比較した。有意水準は5%とした。 【結果】 身体回旋動作時の側方重心移動量は平均11.3±12.7%であり,L群は19.2±11.6%,S群は2.5±6.9%であった。骨盤の運動では,L群はS群と比較して,前傾角度変化量が有意に大きかった(L群;3.0±3.9°, S群;-1.1±3.3°, p < 0.05)。前額面・水平面では有意な差は認められなかった。また脊柱の運動では,L群はS群と比較し,屈曲角度変化量が有意に小さく(L群;1.4±6.2°,S群;8.5±4.5°, p < 0.05),回旋角度変化量が有意に大きい結果となった(L群;34.9±4.8°, S群;28.5±7.4°, p < 0.05)。前額面では有意な差は認められなかった。 【考察】 今回の結果より,身体回旋動作時に側方重心移動量の大きい群では,小さい群と比較して,脊柱回旋角度が大きく、同時に骨盤前傾が大きく脊柱屈曲が少ないことが明らかとなった。回旋側への大きな重心移動を伴う回旋動作では,運動連鎖として,骨盤前傾が脊柱屈曲を減少させ回旋可動性を増大させていると考えられる。一方,骨盤後傾を伴う回旋動作では,回旋に伴う脊柱屈曲の増加により脊柱への力学的ストレスが増大し,障害発生につながる可能性があると考えられる。以上より,身体回旋動作を伴う動作において回旋側への重心移動を促すためには,骨盤を適度な前傾位で保持し,脊柱の屈曲を少なくしながら回旋させることが重要であると考えられる。
著者
松村 葵 建内 宏重 中村 雅俊 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100407, 2013

【はじめに、目的】 一般に棘下筋を含め腱板筋の筋力トレーニングは,三角筋などによる代償を防ぐために低負荷で行うことが推奨されている.しかし低負荷での棘下筋に対するトレーニング介入研究において,わずかに筋力増強が生じたという報告はあるが筋肥大が生じたという報告はなく,棘下筋に十分な運動ストレスを与えられているとは考えにくい. 近年,下肢筋を中心に低負荷であっても低速度で運動を行うことで,筋力増強や筋肥大がおこると報告されている.また運動の筋収縮時間が筋力トレーニング効果と関連するという報告もされている.よって運動速度を遅くすることで筋の収縮時間を長くすれば,より筋に運動ストレスを与えられると考えられる.実際に,我々は低負荷であっても低速度で持続的な運動を行えば,棘下筋は通常負荷・通常速度での運動よりも持続的な筋収縮によって筋活動量積分値が大きくなり,棘下筋に大きな運動ストレスを与えられることを報告している(日本体力医学会 2012年).しかし,低負荷・低速度肩外旋トレーニングが,棘下筋の筋断面積や筋力に与える影響は明確ではない. 本研究の目的は,低負荷・低速度での8週間の肩外旋筋力トレーニングが棘下筋の筋断面積と外旋筋力に及ぼす効果を明らかにすることである.【方法】 対象は健常男性14名とした.介入前に等尺性肩関節体側位(1st位)外旋筋力,棘下筋の筋断面積を測定した.対象者を低負荷・低速度トレーニング群(500gの重錘を負荷し側臥位肩関節1st位で5秒で外旋,5秒で内旋,1秒保持を10回,3セット)と通常負荷・通常速度トレーニング群(2.5kgの重錘を負荷し側臥位肩関節1st位で1秒で外旋,1秒で内旋,1秒安静を10回,3セット)の2群にランダムに群分けした.両群ともに運動は週3回8週間継続した.介入期間の途中に負荷量の増大はせず,介入4週までは研究者が運動を正しく実施できているか確認した.介入4週と8週終了時点で介入前と同様の項目を評価した.チェック表にて運動を実施した日を記録した. 棘下筋の筋断面積は超音波画像診断装置を用いて,肩峰後角と下角を結ぶ線に対して肩甲棘内側縁を通る垂直線上にプローブをあてて画像を撮影した.筋断面積は被験者の介入内容と評価時期がわからないように盲検化して算出した.等尺性外旋筋力は徒手筋力計を用いて3秒間の筋力発揮を2回行い,ピーク値を解析に使用した. 統計解析は棘下筋の筋断面積と外旋筋力に関して,トレーニング群と評価時期を2要因とする反復測定2元配置分散分析を用いて比較した.有意な交互作用が得られた場合には,事後検定としてHolm法補正による対応のあるt‐検定を用いて介入前に対して介入4週,8週を群内比較した.各統計の有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を十分に説明し同意を得た.本研究は本学倫理委員会の承認を得て実施した.【結果】 介入終了時点で両群とも脱落者はなく,トレーニング実施回数には高いコンプライアンスが得られた. 棘下筋の筋断面積に関して,評価時期に有意な主効果とトレーニング群と評価時期と間に有意な交互作用が得られた.事後検定の結果,低負荷・低速度トレーニング群では介入8週で介入前よりも有意に筋断面積が増加した(7.6%増加).通常負荷・通常速度トレーニング群では有意な差は得られなかった. 外旋筋力に関して,有意な主効果と交互作用は得られなかった.【考察】 本研究の結果,低負荷であっても低速度で持続的な筋収縮によって,棘下筋の筋肥大が生じることが明らかになった.低速度で行うことで筋活動積分値が大きくなり,棘下筋により大きな運動ストレスを与えられる.また低負荷でも低速度で運動を行うことによって,低負荷・通常速度での運動よりも筋タンパク質の合成が高まるとされている.これらの影響によって,低負荷・低速度トレーニング群で筋肥大が生じたと考えられる. 低負荷・低速度トレーニング群では棘下筋の筋肥大は生じたが外旋筋力は増加しなかった.また,より高負荷である通常負荷・通常速度トレーニング群でも,外旋筋力の増加は生じなかった.本研究で用いた負荷量は低負荷・低速度で約4%MVC,通常負荷・通常速度で約20%MVCと神経性要因を高めるには十分な大きさではなかったことが,筋力が増加しなかった原因と考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果,低負荷であっても低速度で運動を行うことで棘下筋を肥大させられることが明らかとなり,低負荷トレーニングにおいて運動速度を考慮する必要があることが示唆された.本研究は,棘下筋の筋萎縮があり,受傷初期や術後などで負荷を大きくできない場合に,低負荷でも低速度でトレーニングを実施することで筋肥大を起こす可能性を示した報告として意義がある.
著者
松村 葵 建内 宏重 永井 宏達 中村 雅俊 大塚 直輝 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Aa0153, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 上肢拳上動作時の肩関節の機能的安定性のひとつに肩甲骨上方回旋における僧帽筋上部、下部線維と前鋸筋によるフォースカップル作用がある。これは僧帽筋上部、下部と前鋸筋がそれぞれ適切なタイミングでバランスよく作用することによって、スムーズな上方回旋を発生させて肩甲上腕関節の安定化を図る機能である。これらの筋が異常な順序で活動することによりフォースカップル作用が破綻し、肩甲骨の異常運動と肩関節の不安定性を高めることがこれまでに報告されている。しかし先行研究では主動作筋の筋活動の開始時点を基準として肩甲骨周囲筋の筋活動のタイミングを解析しており、実際の肩甲骨の上方回旋に対して肩甲骨周囲筋がどのようなタイミングで活動するかは明らかとなっていない。日常生活の場面では、さまざまな運動速度での上肢の拳上運動を行っている。先行研究において、拳上運動の肩甲骨運動は速度の影響を受けないと報告されている。しかし、運動速度が肩甲骨周囲筋の活動順序に与える影響については明らかになっておらず、これを明らかにすることは肩関節の運動を理解するうえで重要な情報となりうる。本研究の目的は、上肢拳上動作の運動速度の変化が肩甲骨上方回旋に対する肩甲骨周囲筋の活動順序に与える影響を検討することである。【方法】 対象は健常男性10名(平均年齢22.3±1.0歳)とした。表面筋電図測定装置(Telemyo2400, Noraxon社製)を用いて僧帽筋上部(UT)・中部(MT)・下部(LT)、前鋸筋(SA)、三角筋前部(AD)・三角筋中部(MD)の筋活動を導出した。また6自由度電磁センサー(Liberty, Polhemus社製)を肩峰と胸郭に貼付して三次元的に肩甲骨の運動学的データを測定した。動作課題は座位で両肩関節屈曲と外転を行った。測定側は利き腕側とした。運動速度は4秒で最大拳上し4秒で下制するslowと1秒で拳上し1秒で下制するfastの2条件とし、メトロノームによって規定した。各動作は5回ずつ行い、途中3回の拳上相を解析に用いた。表面筋電図と電磁センサーは同期させてデータ解析を行った。筋電図処理は50msの二乗平均平方根を求め、最大等尺性収縮時の筋活動を100%として正規化した。肩甲骨の上方回旋角度は胸郭に対する肩甲骨セグメントのオイラー角を算出することで求めた。肩甲骨上方回旋の運動開始時期は安静時の平均角度に標準偏差の3倍を加えた角度を連続して100ms以上超える時点とした。同様に筋活動開始時期は安静時平均筋活動に標準偏差の3倍を加えた値を連続して100ms以上超える時点とした。筋活動開始時期は雑音による影響を除外するために、筋電図データを確認しながら決定した。筋活動のタイミングは各筋の筋活動開始時期と肩甲骨上方回旋の運動開始時期の差を求めることで算出し、3回の平均値を解析に用いた。統計処理には各筋の筋活動開始時期と肩甲骨上方回旋の運動開始時期の差を従属変数とし、筋と運動速度を要因とする反復測定2元配置分散分析を用いた。事後検定として各筋についてのslowとfastの2条件をWilcoxon検定によって比較した。有意水準は0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を十分に説明し同意を得た。なお本研究は本学倫理委員会の承認を得ている。【結果】 屈曲動作において、slow条件ではAD、UT、SAが肩甲骨上方回旋よりも早く活動を開始していた。一方でfast条件では全ての筋が上方回旋よりも早く活動を開始していた。分散分析の結果、筋と運動速度の間に有意な交互作用が得られ(p<0.01)、事後検定の結果、運動速度が速くなることでMTの筋活動は有意に早く開始していた。外転動作において、slowではMD、UT、MT、SAが肩甲骨上方回旋よりも早く活動を開始していた。一方でfastでは全ての筋が上方回旋よりも早く活動を開始していた。分散分析の結果、筋と運動速度の間に有意な交互作用が得られた(p<0.05)。事後検定の結果、運動速度が速くなることでMTとLTの筋活動が有意に早く開始していた。【考察】 本研究の結果、運動速度を速くすることで屈曲動作においてMTが、また外転動作においてはMTとLTの筋活動のタイミングが早くなることが明らかとなった。また運動速度を速くすると、肩甲骨の上方回旋の開始時期よりもすべての肩甲骨固定筋が早い時期に活動し始めていた。これは運動速度が肩甲骨固定筋の活動順序に影響を及ぼすことを示唆している。拳上動作の運動速度を増加させたことにより、速い上腕骨の運動に対応するためにより肩甲骨の固定性を増大させるような戦略をとることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果、運動速度に応じて肩甲骨固定筋に求められる筋活動が異なることが示唆され、速い速度での拳上動作では、肩甲骨の固定性を高めるために僧帽筋中部・下部の活動のタイミングに注目する必要があると考えられる。
著者
谷口 匡史 建内 宏重 森 奈津子 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0198, 2012

【目的】 腰痛発生要因の約60%が体幹回旋と関連しており、腰痛と回旋動作には深い関係がある。腰痛患者では、体幹回旋時に骨盤回旋に対して脊柱回旋による回旋の割合が増加しており、相対的な脊柱回旋可動性の増加と腰痛が関連することが示されている。また、体幹回旋中の筋活動量に関する研究では、脊柱起立筋や外腹斜筋の異常筋活動が報告されており、この異常な筋活動状態で繰り返される回旋動作が腰痛を引き起こす可能性があるが、脊柱可動性と筋活動の関連は明らかではない。本研究の目的は、腰痛患者における脊柱可動性と筋活動の関連を明らかにすることである。【方法】 対象は、健常群15名(男性9名、女性6名:年齢25.2±5.5歳)および腰痛群15名(男性9名、女性6名:年齢22.5±2.4歳)とした。腰痛群は、Visual Analogue Scale(以下VAS)で30mm以上の腰痛が過去に3カ月以上続いた者とし、測定課題実施時には痛みのない者とした。神経症状を伴う腰痛や内部疾患および精神疾患による腰痛は、除外した。腰痛群における最近1カ月の疼痛は、VAS:平均35.6±23.3mm、腰痛群の健康関連QOL(Oswestry Disability Index)は平均15.1±10.5%であった。測定課題は、立位での体幹回旋動作とした。開始肢位は、両踵骨間距離を被験者の足長および足角10度とし、上肢は腹部の前で組んだ姿勢とした。対象者には、約2m前方で目線の高さに置かれたLEDランプを注視させ、LED点灯の合図にできるだけ速く回旋を開始するよう指示し、約1秒で最大回旋角度の75%以上体幹を回旋させ、その終了肢位で3秒間静止させた。数回の練習後、左右ランダムにそれぞれ5回ずつ実施し、非利き手側への回旋動作を解析に用いた。回旋角度の測定には、三次元動作解析装置VICON NEXUS(VICON社製)を使用し、サンプリング周波数200Hzにて実施した。体幹回旋角度は胸郭セグメントの回旋、脊柱回旋角度は胸郭セグメントと骨盤セグメントの回旋差により算出した。これより最大体幹回旋時における脊柱回旋可動性は、脊柱回旋角度を体幹回旋角度で除した脊柱回旋比として求めた。また、筋電図測定には、表面筋電図TeleMyo2400(Noraxon社製)を使用し、サンプリング周波数1000Hzにて三次元動作解析装置とLED信号を同期したパソコンに記録させた。3秒間の最大等尺性収縮時(MVC)より得られた筋電図波形は、全波整流平滑化し、この値を100%として各課題実施時における筋活動量(%MVC)を求めた。測定筋は、左右両側の脊柱起立筋腰部、多裂筋、腹横筋(内腹斜筋)、外腹斜筋、腹直筋、広背筋上部・下部線維、大殿筋上部線維の計16筋とした。解析区間は回旋開始から終了までとし、体幹回旋角度により規定した。なお、これらの分析にはMathWorks社製MATLABを使用した。統計学的検定は、群間比較にはMann-Whitney検定、腰痛群における脊柱回旋比と筋活動の関連はSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。有意水準は5%とした。【説明と同意】 本研究は、倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には本研究の目的を十分に説明し、書面にて同意を得た。【結果】 最大回旋時における脊柱回旋比は健常群28.6±5.9%に対し、腰痛群32.9±4.6%と腰痛群で有意に増加していた。また、筋活動量は、非回旋側外腹斜筋が腰痛群4.92±2.19%に対して健常群では3.42±1.69%であり、腰痛群の筋活動量が有意に増加(p=0.04、効果量: 0.77)し、非回旋側多裂筋の筋活動量が減少する傾向(p=0.09、効果量: 0.64)にあった。腰痛群における脊柱回旋比と筋活動の関連は、両側多裂筋(非回旋側: r=-0.732、p<0.01、回旋側: r=-0.604、p=0.02)と脊柱起立筋(非回旋側: r=-0.514、p=0.04、回旋側: r=-0.557、p=0.03)で有意な負の相関関係が認められた。【考察】 腰痛群では健常群に比べ、相対的な脊柱回旋可動性が増加し、外腹斜筋の筋活動量増加がみられた。また、腰痛群では脊柱回旋比と多裂筋・脊柱起立筋に有意な負の相関関係が得られたことから、回旋時の脊柱回旋可動性が高いほど多裂筋や脊柱起立筋の筋活動が低下していることが示唆された。腰痛群では外腹斜筋の筋活動量増加がみられたが、脊柱回旋比と関連を示さなかったことから、この筋活動増加は脊柱安定化筋の機能低下を代償し、回旋主動作筋としてだけではなく脊柱を安定させる固定補助筋として作用している可能性がある。以上より、腰痛患者の脊柱可動性増加は、主動作筋の過活動ではなく、多裂筋や脊柱起立筋の脊柱安定化作用の機能低下によって生じている可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 腰痛患者における脊柱回旋可動性と体幹筋活動の特性を明らかにした研究であり、臨床場面における評価・治療の一助となる。