- 著者
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森瀬 脩平
村木 孝行
関口 雄介
石川 博明
出江 紳一
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2011, pp.Ca0933, 2012
【はじめに、目的】 日常生活における肩関節運動量の評価は理学療法の効果判定や疫学調査において有益な評価項目であると考えられるが、従来用いられている測定機器や評価方法では長時間の計測や活動量の定量化は困難である。肩関節運動量を測定できる可能性があるものに加速度センサーが挙げられる。過去の研究では片麻痺患者などで加速度計を手関節に装着し上肢運動量の計測が行われているが、肘関節や身体全体の運動も検知するため肩関節運動量に特化した方法とはいえない。このような問題点を解決するため加速度計を胸郭と上腕に2つ装着することが適切であることが考えられた。本研究の目的は長時間のデータ蓄積が可能な加速度計を用い、肩関節運動量を評価するのに2つの加速度センサーを使用する方法を提案し、3次元動作解析装置のデータとの比較や異なる動作間の比較によりその妥当性について検証を行うことである。【方法】 被験者は健常成人10名(男性5名、女性5名、平均年齢26.5±4.5歳)で、2軸性加速度センサー(Mini Mitter社製 Actical)を右肘後面、体動による影響を除去するため剣状突起前面にそれぞれ1個ずつ、計2個装着し測定した。今回用いた加速度センサーは重さ約16g、サンプリング周波数32Hz、加速度分解能0.05G~2.0Gである。実験1:測定動作は肩関節屈曲動作、外転動作、回旋動作とし、座位にて全可動域の運動を1Hzの運動速度で3回行った。加速度センサーによる計測とともに三次元動作解析装置(Motion Analysis社製 MAC3D)を用い動作解析を行った。動作解析用マーカーは肘後面に装着した加速度センサーの直下、剣状突起前面に装着した加速度センサーの直上に装着し、マーカーの移動距離と平均加速度を算出した。統計解析にはピアソンの相関係数を用い、加速度センサーデータと3次元動作解析データとの相関を調べた。実験2:測定動作は前後方向の歩行中、サイドステップ中、立ち上がり中3種類の条件下で肩関節屈曲動作とした。運動速度と範囲、回数は実験1と同様に1Hzでの全可動域運動を3回とした。実験2では、動作中に得られた肩関節屈曲時の肘後面の加速度センサーデータ(体動除去無しデータ)、肘後面の加速度センサーデータから剣状突起前面の加速度センサーデータを減算したデータ(体動除去データ)、そして実験1で加速度センサーから得られた座位時の肩関節屈曲データ(肩関節屈曲データ)の3群に分け、剣状突起前面に装着した加速度センサーのデータを基に運動中の体動を除去できるか検討した。統計解析には一元配置分散分析、多重比較(Bonferroni法)を用い、有意水準は5%以下とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は被験者に対して研究目的を説明の上、同意を得てから測定を行った。【結果】 実験1:肩関節屈曲・外転動作時の加速度センサーの活動量と肘関節に装着したマーカーの移動距離(r=0.79-0.89, p<0.01)と平均加速度(r=0.92-0.93, p<0.001)はそれぞれ有意な正の相関を示した。回旋動作では加速度センサの活動量は0であったため、相関係数を求めることが出来なかった。実験2:体動除去無しデータ、体動除去データ、肩関節屈曲データの3群間に有意差が見られた(p<0.01)。また、体動除去無しデータと肩関節屈曲データ間では有意差が見られたが(p<0.01)、体動除去データと肩関節屈曲データ間では有意差が見られなかった(p=0.055)。【考察】 実験1の結果より今回用いた加速度センサーで測定した肩関節屈曲と外転動作時の活動量は肩関節の移動距離と平均加速度を反映していた。しかし回旋動作では加速度が45cm/s2と加速度センサーの最小感度49cm/s2より小さかったため、加速度センサーが感知できなかったと考えられる。日常生活での肩関節の運動は肩関節屈曲や外転のような挙上動作が占める割合が多いため、今回使用した加速度センサーで多くの日常生活の肩関節活動量を測定できる可能性が示唆された。また実験2の結果より運動中の肩関節屈曲動作は、肘後面に装着した加速度センサーのデータから剣状突起前面に装着した加速度センサーのデータを減算すると肩関節のみの活動量に近い値になることが示唆された。肩関節のみの活動量を評価可能となったのは2つの加速度センサーを用いることで運動中の肩以外の運動量を除去出来たことも要因として考えられる。今回使用した測定方法は日常生活場面など動きながら肩関節を動かす際の活動量を正確に測定できる可能性を示唆している。【理学療法学研究としての意義】 今回検討した日常生活における肩関節運動量の評価は理学療法の効果判定や疫学調査において有益な評価項目であると考えられる。