著者
会津 直樹 鈴木 栄三郎 大内田 裕 須藤 珠水 出江 紳一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0635, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome以下CRPS)は,主に外傷後に起こる四肢の遷延する疼痛疾患であり交感神経機能の異常を伴い,リハビリテーションにおいて治療に難渋する。近年,CRPS患者の身体性や空間注意に介入し疼痛を軽減する新規手法がそれぞれ報告されている。しかしながら,CRPS患者では患肢自体に対する注意(身体性注意)が低下していること,一方で,患側空間への注意が過剰になっていることがそれぞれ報告されているため,効果的な治療法を選択する際に患者ごとに身体性注意と空間注意の両者の変化を捉える必要が考えられる。そこで,本研究では心理物理学的手法を用い,身体性注意と空間注意を同一環境で客観的に測定し,CRPS患者の身体性注意と空間注意の変化を明らかにする評価法を確立することを目的とする。【方法】健常者27名,手に症状を有するCRPS患者3名を対象にした。身体性注意を測定するために,患者は机の前の椅子に座り机上の左右のいずれかの位置に患側手を置き,もう一方に手の形をした模造手を置いた。PCにて反応時間課題を作成し,頭上のプロジェクターから視覚刺激を患側手上または模造手上のいずれかに提示させ,できるだけ早く健側手でボタンを押し,反応時間を記録した。健常者では左手の上に視覚刺激を提示させ,右手でボタン押しを行った。模造手上の反応時間から患側手の反応時間を引いた値を患側手の身体性注意量と定義した。さらに,空間注意を測定するために,机の上に患側手と模造手を位置させず,机上の左右空間に視覚刺激を提示させ反応時間を記録し,左右空間の反応時間の差を計算した。統計はone sample t-testを用い患者ごとに健常者と比較した。【結果】健常者において,身体性注意測定では,自己手上よりも模造手上の視覚刺激に対する反応時間が有意に早くなり,手の身体性注意量は22.2±11.9ms(平均±標準偏差)であった。さらに,空間注意測定では,左右空間への反応時間に差は認められず,空間注意の左右差は2.59±21.6msであった。患者では,健常者と比較して,患側手への身体性注意量(1.3ms)が有意に低下し,空間注意(2ms)には差が認められない1例,逆に,患側手への身体性注意量(17.2ms)には差が認められないが,患側への空間注意(30.9ms)が有意に低下していた1例,さらに,患側手への身体性注意量(11.7ms)も患側への空間注意(30.9ms)も有意に低下している1例を認めた。【結論】健常者において身体性注意と空間注意を同一環境で測定する手法を確立し,CRPS患者に対して身体性注意と空間注意を測定した。患者ごとに身体性注意と空間注意の変化が異なることを明らかとした。身体性と空間注意に介入する手法がそれぞれ存在するため,あらかじめ身体性注意と空間注意の変化を捉えておくことはCRPS患者に対する効果的な治療法の選択に有益な情報を与えてくれる可能性がある。
著者
相川 慎也 芦原 貴司 天野 晃 有末 伊織 安藤 譲二 伊井 仁志 出江 紳一 伊東 保志 稲田 慎 井上 雅仁 今井 健 岩下 篤司 上村 和紀 内野 詠一郎 宇野 友貴 江村 拓人 大内田 研宙 大城 理 太田 淳 太田 岳 大谷 智仁 大家 渓 岡 崇史 岡崎 哲三 岡本 和也 岡山 慶太 小倉 正恒 小山 大介 海住 太郎 片山 統裕 勝田 稔三 加藤 雄樹 加納 慎一郎 鎌倉 令 亀田 成司 河添 悦昌 河野 喬仁 紀ノ定 保臣 木村 映善 木村 真之 粂 直人 藏富 壮留 黒田 知宏 小島 諒介 小西 有人 此内 緑 小林 哲生 坂田 泰史 朔 啓太 篠原 一彦 白記 達也 代田 悠一郎 杉山 治 鈴木 隆文 鈴木 英夫 外海 洋平 高橋 宏和 田代 洋行 田村 寛 寺澤 靖雄 飛松 省三 戸伏 倫之 中沢 一雄 中村 大輔 西川 拓也 西本 伸志 野村 泰伸 羽山 陽介 原口 亮 日比野 浩 平木 秀輔 平野 諒司 深山 理 稲岡 秀検 堀江 亮太 松村 泰志 松本 繁巳 溝手 勇 向井 正和 牟田口 淳 門司 恵介 百瀬 桂子 八木 哲也 柳原 一照 山口 陽平 山田 直生 山本 希美子 湯本 真人 横田 慎一郎 吉原 博幸 江藤 正俊 大城 理 岡山 慶太 川田 徹 紀ノ岡 正博 黒田 知宏 坂田 泰史 杉町 勝 中沢 一雄 中島 一樹 成瀬 恵治 橋爪 誠 原口 亮 平田 雅之 福岡 豊 不二門 尚 村田 正治 守本 祐司 横澤 宏一 吉田 正樹 和田 成生
出版者
公益社団法人 日本生体医工学会
雑誌
生体医工学 (ISSN:1347443X)
巻号頁・発行日
vol.Dictionary.1, pp.1-603, 2022 (Released:2022-03-31)
著者
佐藤 豊展 近藤 健男 柴本 勇 出江 紳一
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.3-10, 2021-04-30 (Released:2021-08-31)
参考文献数
28

【はじめに】舌挙上は舌骨上筋群の筋力を強化する訓練として適用されることが報告されている.筋力を強化する際,運動負荷量を適切に設定する必要があるが,舌骨上筋群の筋力を強化するための舌圧の強度は明らかになってはいない.そこで本研究は,健常若年者と健常高齢者を対象に,1)舌圧と舌骨上筋群の筋活動の関連性,2)舌骨上筋群を筋力強化するための舌圧強度について明らかにすることを目的に行った.【方法】対象は健常若年者15 名(27.1±2.6 歳,平均±標準偏差;以下同様),健常高齢者12 名(76.0±3.0 歳)とした.測定課題は頭部挙上と舌挙上の全6 課題とした.舌挙上は最大舌圧,舌圧80%,舌圧60%,舌圧40%,舌圧20%の5 課題を行った.測定装置は舌圧測定器と表面筋電図を使用した.被験筋は舌骨上筋群とした.統計解析は舌圧と舌骨上筋群の筋活動の関連についてピアソンの積率相関係数を行った.また,舌骨上筋群を筋力強化するための舌圧強度について,線形単回帰分析を行った.【結果】健常若年群と健常高齢群ともに,舌圧と舌骨上筋群の筋活動に強い正の相関を認めた.健常若年者では65%,健常高齢者では50% の強度で舌圧発揮を行うと,頭部挙上時の舌骨上筋群の筋活動と同程度の筋活動が得られた.【考察】健常高齢者において,50% の強度で舌圧発揮を行うと,舌骨上筋群の筋力を強化できる可能性が示唆された.今後,持続時間や頻度などの運動負荷量,舌前方部や舌後方部などの位置について検討が必要と考えられる.
著者
小幡 紘輝 鈴鴨 よしみ 宮武 ミドリ 出江 紳一
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.407-414, 2021-08-15 (Released:2021-08-15)
参考文献数
34

要旨:ロービジョンとは,見えにくいために生活上の困難を生じている状態を総称した概念である.作業療法士によるロービジョンの評価や介入の実践を文献検索にて調査した.システマティックレビュー,ランダム化比較試験などを対象とし,医学中央雑誌とPubMedのデータベースを用いて検索を行い,66件の論文が抽出された.評価には,視機能や運転適性や住環境調査が含まれ,介入には,個別に対応する問題解決戦略や住環境調整やデバイス処方が含まれた.ロービジョンに対する作業療法の効果を調査している研究はまだ少ない.今後,ロービジョンについて作業療法士への啓発を行うとともに,作業療法の効果を科学的に検証していく必要がある.
著者
森 仁 八島 建樹 小助川 博之 出江 紳一 高木 敏行
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.79-88, 2018 (Released:2019-09-01)
参考文献数
18
被引用文献数
2 2

現在, 多くの脳血管障害患者や高齢者が, 嚥下障害により食物の経口摂取に困難を抱えている. 著者らは, 末梢神経磁気刺激により舌骨上筋群を反復的に収縮させることが, 嚥下機能の回復につながると考えている. 現在, 市販されている磁気刺激コイルは, 刺激範囲が広範なため, 舌骨上筋群刺激時に下歯槽神経などの不要な部位まで刺激してしまう問題がある. そこで, 著者らは, 磁性体コアを用いた構造を採用することにより, 磁気刺激時に局所的な渦電流分布が得られる狭い範囲の刺激に最適化したコイルの設計・試作を行った. また, 試作されたコイルを用いた磁気刺激により, 下歯槽神経を刺激することなく大きな舌骨上筋群の収縮が得られることを確認した.
著者
佐藤 豊展 近藤 健男 柴本 勇 出江 紳一
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.12-19, 2018-04-30 (Released:2019-03-07)
参考文献数
28

【はじめに】頭部挙上訓練は,舌骨上筋群の筋力強化訓練として広く用いられているが,胸鎖乳突筋の筋活動が高く,早期に筋疲労を起こすことから施行することが困難な場合が多い.舌挙上は頭部挙上訓練に代わる喉頭挙上の訓練として有用であることが報告されているが,健常若年者を対象とした報告であり,健常高齢者を対象とした報告は筆者らが検索しうる限りみられない.そこで本研究では,舌挙上が喉頭挙上の改善を目指した訓練として用いることができるか,表面筋電図を用いて検討した.【方法】対象は健常若年者 15名(27.1±2.6歳),健常高齢者 12名(76.0±3.0歳)とした.測定課題は,最大舌圧での舌挙上,頭部挙上,メンデルソン手技とした.表面筋電図を使用し,舌骨上筋群,舌骨下筋群,胸鎖乳突筋の電位変化を記録した.【結果】舌骨上筋群の筋活動は,健常若年者,健常高齢者ともに舌挙上が頭部挙上,メンデルソン手技より有意に高かった(p< 0.01).舌骨下筋群,胸鎖乳突筋の筋活動は,舌挙上が頭部挙上より有意に低かった(p< 0.01).【考察】舌挙上は頭部挙上と比較して,胸鎖乳突筋や舌骨下筋群の筋活動が低く,舌骨上筋群をより効果的に活動させることができ,健常高齢者においても喉頭挙上の改善を目指した訓練として用いることができる可能性が示唆された.
著者
石川 博明 村木 孝行 森瀬 脩平 関口 雄介 黒川 大介 山本 宣幸 出江 紳一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ca0935, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 野球選手において、投球側の肩関節内旋制限は特徴的な所見であり、投球障害に関連する一要因であると言われている。このような背景から、投球側と非投球側の肩関節内旋可動域を測定し、左右差を比較したものが過去に多く報告されている。しかし、これらの報告の多くは肩関節外転90°位で測定しており、単一肢位での比較となっている。肩関節内旋の制限因子としては、上腕骨後捻角の増大による骨性の因子、筋、靱帯、関節包などの軟部組織性の因子、さらに軟部組織性の因子は伸張性低下による他動因子と筋の収縮による自動因子に分けられ、多岐にわたる。したがって、単一肢位の測定では制限因子をより詳細に知ることができない。そこで、本研究では投球側と非投球側の肩関節内旋可動域の差を様々な肢位で比較することにより、野球選手に特徴的な肩関節内旋制限の因子を検討することを目的とした。【方法】 シーズン前に検診を行った硬式野球部に所属する高校生選手46名(投手:13名、捕手:6名、内野手:16名、外野手11名)を対象とした。測定項目は各4肢位(肩関節外転30°位、外転90°位、屈曲90°位、伸展30°位)での内旋可動域とし、肢位ごとに投球側と非投球側との間の内旋可動域差(投球側-非投球側)を算出した。また、すべての測定は背臥位で、3名の検者によって行われた。各検者は他動的運動、肩甲骨の固定および最終可動域の確認、デジタル傾斜計およびゴニオメーターを用いた角度測定のいずれかを担当した。解析はすべての選手を対象に肢位の違いによる内旋可動域差を比較した。また、疼痛の有無との関連を調べるため、投手と捕手を含むバッテリー(19名)を肩関節痛あり群(投手:5名、捕手:4名、計9名)となし群(10名)の2群に分け、各肢位での内旋可動域差を2群間で比較した。肩関節痛を有した選手全員は外転外旋位でインターナルインピンジメントの所見を認め、これらが原因による痛みが疑われた。統計解析には、一元配置分散分析およびGames-Howellの多重比較検定、対応のないt検定を用い、有意水準はすべて5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は高校野球部指導者および選手に対して検診の目的、内容を文書および口頭で説明し、同意を得られた上で実施した。【結果】 投球側と非投球側との間の内旋可動域差は、外転30°位(1.2±8.6°)、外転90°位(-6.0±12.4°)、屈曲90°位(-9.8±7.5°)、伸展30°位(-11.1±14.9°)の順に大きくなった。また、外転30°位とその他3肢位との間でそれぞれ有意差を認めた(p<0.01)。肩関節痛あり群となし群の比較では、伸展30°位において肩関節痛あり群(-21.1±6.5°)がなし群(-9.0±16.0°)と比較して、内旋可動域差が有意に大きかった(p<0.05)。【考察】 本研究の結果より、高校野球選手の肩関節内旋制限は測定肢位により異なることが明らかになった。骨性の制限因子は肢位によって変わらないため、測定肢位によって軟部組織の制限因子としての影響度が異なることが考えられる。また、本研究では外転30°位にて左右差が最も小さく、伸展30°位にて左右差が最も大きいという結果であった。MurakiらやIzumiらによると、外転30°位と伸展30°位での内旋は、ともに後方関節包と棘下筋が伸張される肢位であると報告されている。本研究では、外転30°位と伸展30°位との間で内旋可動域差に有意差を認めたことから、内旋制限が後方軟部組織の伸張性低下のみによるものとは考えにくい。また、肩関節痛の有無による比較を行ったところ、肩関節痛あり群では伸展30°位で左右差が有意に大きいという結果であった。Yamamotoらの報告によると、肩関節伸展により肩峰下接触圧が高くなるとされている。したがって、伸展30°位での測定はインターナルインピンジメントによって損傷される腱板と肩峰下の接触ストレスを高め、筋による防御性収縮を生じさせる可能性がある。そして内旋に対する防御性収縮が生じた場合、伸展位での内旋は棘下筋の大きな伸張が必要となるため、内旋可動域への影響が大きくなると考えられる。今後は、これらのストレスと防御性収縮などの自動因子による内旋制限との関係について、更に検討を進める必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は、必ずしも後方軟部組織の伸張性低下のみが原因ではなく、筋による自動因子が大きく関与している可能性を示した点で意義深い。関節可動域の改善において制限因子の把握は必要不可欠であり、本研究の結果は治療法を選択する上で有用となる。
著者
中野渡 達哉 鈴鴨 よしみ 神先 秀人 沖井 明 菅 俊光 出江 紳一
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.30-37, 2016 (Released:2016-02-20)
参考文献数
41

【目的】本研究の目的は,人工股関節置換術(以下,THA)後の健康関連QOLに対して機能的脚長差が影響を及ぼすまでの一連の障害構造モデルについてパス解析を用い検討することである。【方法】THA 後患者42名を対象に,術後3週の構造的脚長差と機能的脚長差,術後6ヵ月後の主観的脚長差,SF-36のサマリースコアを評価した。モデルへ投入する項目を選択するために単変量解析を行い,その後にパス係数とモデルの適合度を求めるためにパス解析を行った。【結果】モデルには機能的脚長差,主観的脚長差,身体的コンポーネント・サマリースコア(以下,PCS)が選択された。パス解析の結果,機能的脚長差は主観的脚長差に影響し,主観的脚長差はPCSに影響していることが示された。このモデルは十分な適合度を示した。【結論】THA後主観的脚長差をもち身体的健康関連QOLが低下した患者に対して,機能的脚長差に対する治療的介入が重要であることが示唆された。
著者
森瀬 脩平 村木 孝行 関口 雄介 石川 博明 出江 紳一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0933, 2012

【はじめに、目的】 日常生活における肩関節運動量の評価は理学療法の効果判定や疫学調査において有益な評価項目であると考えられるが、従来用いられている測定機器や評価方法では長時間の計測や活動量の定量化は困難である。肩関節運動量を測定できる可能性があるものに加速度センサーが挙げられる。過去の研究では片麻痺患者などで加速度計を手関節に装着し上肢運動量の計測が行われているが、肘関節や身体全体の運動も検知するため肩関節運動量に特化した方法とはいえない。このような問題点を解決するため加速度計を胸郭と上腕に2つ装着することが適切であることが考えられた。本研究の目的は長時間のデータ蓄積が可能な加速度計を用い、肩関節運動量を評価するのに2つの加速度センサーを使用する方法を提案し、3次元動作解析装置のデータとの比較や異なる動作間の比較によりその妥当性について検証を行うことである。【方法】 被験者は健常成人10名(男性5名、女性5名、平均年齢26.5±4.5歳)で、2軸性加速度センサー(Mini Mitter社製 Actical)を右肘後面、体動による影響を除去するため剣状突起前面にそれぞれ1個ずつ、計2個装着し測定した。今回用いた加速度センサーは重さ約16g、サンプリング周波数32Hz、加速度分解能0.05G~2.0Gである。実験1:測定動作は肩関節屈曲動作、外転動作、回旋動作とし、座位にて全可動域の運動を1Hzの運動速度で3回行った。加速度センサーによる計測とともに三次元動作解析装置(Motion Analysis社製 MAC3D)を用い動作解析を行った。動作解析用マーカーは肘後面に装着した加速度センサーの直下、剣状突起前面に装着した加速度センサーの直上に装着し、マーカーの移動距離と平均加速度を算出した。統計解析にはピアソンの相関係数を用い、加速度センサーデータと3次元動作解析データとの相関を調べた。実験2:測定動作は前後方向の歩行中、サイドステップ中、立ち上がり中3種類の条件下で肩関節屈曲動作とした。運動速度と範囲、回数は実験1と同様に1Hzでの全可動域運動を3回とした。実験2では、動作中に得られた肩関節屈曲時の肘後面の加速度センサーデータ(体動除去無しデータ)、肘後面の加速度センサーデータから剣状突起前面の加速度センサーデータを減算したデータ(体動除去データ)、そして実験1で加速度センサーから得られた座位時の肩関節屈曲データ(肩関節屈曲データ)の3群に分け、剣状突起前面に装着した加速度センサーのデータを基に運動中の体動を除去できるか検討した。統計解析には一元配置分散分析、多重比較(Bonferroni法)を用い、有意水準は5%以下とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は被験者に対して研究目的を説明の上、同意を得てから測定を行った。【結果】 実験1:肩関節屈曲・外転動作時の加速度センサーの活動量と肘関節に装着したマーカーの移動距離(r=0.79-0.89, p<0.01)と平均加速度(r=0.92-0.93, p<0.001)はそれぞれ有意な正の相関を示した。回旋動作では加速度センサの活動量は0であったため、相関係数を求めることが出来なかった。実験2:体動除去無しデータ、体動除去データ、肩関節屈曲データの3群間に有意差が見られた(p<0.01)。また、体動除去無しデータと肩関節屈曲データ間では有意差が見られたが(p<0.01)、体動除去データと肩関節屈曲データ間では有意差が見られなかった(p=0.055)。【考察】 実験1の結果より今回用いた加速度センサーで測定した肩関節屈曲と外転動作時の活動量は肩関節の移動距離と平均加速度を反映していた。しかし回旋動作では加速度が45cm/s2と加速度センサーの最小感度49cm/s2より小さかったため、加速度センサーが感知できなかったと考えられる。日常生活での肩関節の運動は肩関節屈曲や外転のような挙上動作が占める割合が多いため、今回使用した加速度センサーで多くの日常生活の肩関節活動量を測定できる可能性が示唆された。また実験2の結果より運動中の肩関節屈曲動作は、肘後面に装着した加速度センサーのデータから剣状突起前面に装着した加速度センサーのデータを減算すると肩関節のみの活動量に近い値になることが示唆された。肩関節のみの活動量を評価可能となったのは2つの加速度センサーを用いることで運動中の肩以外の運動量を除去出来たことも要因として考えられる。今回使用した測定方法は日常生活場面など動きながら肩関節を動かす際の活動量を正確に測定できる可能性を示唆している。【理学療法学研究としての意義】 今回検討した日常生活における肩関節運動量の評価は理学療法の効果判定や疫学調査において有益な評価項目であると考えられる。
著者
園田 茂 椿原 彰夫 出江 紳一 高橋 守正 辻内 和人 横井 正博 斎藤 正也 千野 直一
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.637-639, 1991-06-10

はじめに 近年,非典型的な筋力低下を呈する症例がリハビリテーション科に依頼され,治療に当たることが少なくない.そして,患者は簡単に「心因性」と診断される傾向があり,そのような代表的疾患として重症筋無力症があげられる. 重症筋無力症はその症状の動揺性から時に転換ヒステリーと誤診されやすい1,2).また,この疾患の特徴として,発症や増悪の契機に心理的要因が大きく関与しているため3),患者や医療者に与える誤診の影響は少なくない. 我々は「心因性」歩行障害と診断され,リハビリテーション医療が必要であるとして紹介された重症筋無力症患者を経験し,安易に「心因性」,「ヒステリー」と断定することの危険性を痛感した.そしてリハビリテーション医学の分野における診断学の重要性を再確認したので,若干の考察とあわせて報告する.
著者
才藤 栄一 木村 彰男 矢守 茂 森 ひろみ 出江 紳一 千野 直一
出版者
社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.121-124, 1986-05-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
15
被引用文献数
8 8

嚥下障害の治療指向的評価法としてvideofluorography検査を26例の機能的嚥下障害が疑われた患者に施行し,嚥下障害のリハビリアプローチ上,重要な-むせの意義,体位の影響,食物形態の影響-について検討した.誤嚥とむせは,約3分の1の症例で相関せず,むせのないことが安全な嚥下とはいえなかった.体位では従来,体幹垂直位が推奨されてきたが,体幹後屈位の方が誤嚥の程度が軽く,より嚥下しやすい体位であった.食物形態については,固形物は口腔期障害を増悪し,咽頭期障害(誤嚥)を軽減した.
著者
出江 紳一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会宮城県理学療法士会
雑誌
理学療法の歩み (ISSN:09172688)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.2-4, 2005 (Released:2005-04-27)
参考文献数
9

診療技術は臨床意志決定とスキルとに分けられる。症例報告は高度の診療スキルの上に成り立つものであり,その積み重ねによって臨床意志決定の能力が向上する。本稿ではリハビリテーション医学研究における症例報告の意義を,希少症例の治験,介入「無効」例から学ぶこと,介入の多様性の側面から述べ,さらに質的研究の重要性を強調した。
著者
才藤 栄一 木村 彰男 矢守 茂 森 ひろみ 出江 紳一 千野 直一
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 : 日本リハビリテーション医学会誌 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.121-124, 1986-05-18
被引用文献数
15

嚥下障害の治療指向的評価法としてvideofluorography 検査を26例の機能的嚥下障害が疑われた患者に施行し, 嚥下障害のリハビリアプローチ上, 重要な-むせの意義, 体位の影響, 食物形態の影響-について検討した.誤嚥とむせは, 約3分の1の症例で相関せず, むせのないことが安全な嚥下とはいえなかった.体位では従来, 体幹垂直位が推奨されてきたが, 体幹後屈位の方が誤嚥の程度が軽く, より嚥下しやすい体位であった.食物形態については, 固形物は口腔期障害を増悪し、咽頭期障害(誤嚥)を軽減した.
著者
出江 紳一 安崎 文子 石田 暉
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 : 日本リハビリテーション医学会誌 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.405-409, 1999-06-18

発語の誤りを分析し,Wernicke(W)失語における発語障害の機序が日本語でも音韻選択の障害であることを検証した.対象は脳梗塞によるW失語3例で,標準失語症検査,Token test,語音弁別検査,音節分解検査により,軽度・中度・重度とそれぞれ評価された.発語検査は,1〜6音節の単語の絵カード呼称・復唱・仮名漢字単語音読を行った.その結果,軽・中度例では音韻性錯語と音の修正接近が多く,重度例では新造語が多かった.音韻性錯語の殆どを占めた置き換えと転置の誤りを分析すると,重症であるほど子音の誤りが多かった.この結果から,日本語のW失語の発語障害に子音の選択障害が重要な位置を占めると示唆された.