著者
鶴卷 俊江 清水 朋枝 石川 公久 江口 清
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Eb0605, 2012

【はじめに】 障害児の就学においては、就学指導委員会にて障害児への特別な教育ニーズを把握し、個々の障害児の教育的ニーズを具体化することが望まれるが、委員会単独で障害を評価し、就学先を決定することに限界があると言われている。今回、重度肢体不自由および知的障害の重複障害のあるに二分脊椎児の特別支援学校への転校を、長期的に関わっている医療者が中心となり、両親・教育委員会・小学校・行政と共に検討する機会を得た。ここに、その経過とともに就学前関係機関の一つである医療者として、就学支援の在り方について考察する。【方法】 9歳女児。普通小学校3年生。第9胸髄から第11腰髄の脊髄髄膜瘤。キアリII型。閉鎖術およびV-Pシャント術施行。身体機能レベルをSharrard分類、改訂HOFFER分類、生活能力レベルをPEDIにて評価。特別支援学校への転校を決定するまでを、両親の思い、学校側の対応、医療者としての対応についてまとめた。【説明と同意】 趣旨、権利保障、匿名性、プライバシー保護について口頭で説明し同意の得られた症例である。【結果】 Sharrard分類I、改訂HOFFER分類はNon Ambulatoryであり主な移動能力は車いすである。生活能力レベルはPEDIの尺度化スコアにて、セルフケア56.8、移動29.0、社会的機能61.5。特にセルフケアで更衣・排泄の後処理で減点を認めた。また社会生活での自立度の低さが明らかとなり、将来を見据え長期的に介入が必要な状況と推察された。進路に対しては、児の希望を尊重した両親は普通小学校入学を決定。介助員の配置、昇降機・スロープ・導尿室の設置など施設・設備面への配慮はなされたが、重度の肢体不自由児の扱いに戸惑い、学校側は医療との連携を模索していた。しかし、主治医から現在の教育環境を配慮するような意見・指導が得られず苦慮していた。また両親も学校側の過剰な対応に不満を抱き、年々学校と家族との関係は混迷を呈していた。このままでは児や家族にとって望ましい療育とならないと考え、リハビリテーション部が中心となり問題を整理することをはじめた。まず、医療者より両親へ身体機能・認知等の障害特性から推察する児の将来像を提示。現在の教育環境での限界、今後の課題等に向け、能力を勘案した上で児に適切な教育が受けられることが望ましいという意見を提案したところ、両親から同意が得られた。そこで、医療者が学校へ訪問し、教育環境へ配慮したカリキュラムの検討、身体機能に合わせた介助指導、福祉用具の取り扱い方などを適宜検討した。また児を中心とした支援体制を構築し、教育的ニーズを具体化した。その結果、小学校での人的・物的環境の限界が再確認でき、児の教育環境整備を主と考え、両親・教育委員会・小学校・行政と共に1年間の猶予を持ち、次年度の特別支援学校への転校を決定した。【考察】 小池は、教育機関選択時の支援として重要なことは、個々の子どもの教育ニーズを適切に評価し、保護者と確認・合意し、就学相談に臨めることが望ましいと述べている。本症例を通して、就学支援における理学療法士の役割を検討する。就学前では、将来を見据えたプログラムを実施、学齢期以降の療育を保護者と相談・検討出来る人間関係を築く、求められれば就学指導委員会への情報を提供する。就学後は、学校集団生活がスムースに行えるよう、介助方法や学校環境整備についての助言を行う、が挙げられる。特別支援学校が中心となる障害児教育に対する地域支援システムは教育では既に実施されている。しかし、今回のように、医療ケア度の高い児では、医療チームによる支援が必要と推察する。そこで、我々は医療チームの窓口に、児の全体像を広く把握しているリハビリテーション部、理学療法士が就くことを提案する。茨城県では地域の中で小児リハビリテーションを普及促進するために県内で当院を含め9施設を小児リハ・ステーションとしている。今回はこのシステムの枠組みもあり院内院外活動を円滑に行うことができた。このような地域小児リハシステムが拡大し、児の将来を見据えた療育が多職種協働のもとで為されることが期待される。【理学療法学研究としての意義】 地域で行われる就学相談においては、多様で複雑な障害像がある重複障害児のニーズを明確にするには多面的・総合的な評価が必要である。理学療法士としての介入意義は大きく、今後の就学支援における当院の役割を小児リハ・ステーションとして、就学前後および地域の小学校に在籍する障害児の支援に向け、児・療育者、教育・行政機関等への支援体制の構築も視野に入れ研究を進めて行きたいと考える。

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