著者
岩渕 慎也 鈴木 康裕 加藤 秀典 田邉 裕基 遠藤 悠介 石川 公久 羽田 康司
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11206, (Released:2017-02-06)
参考文献数
25
被引用文献数
4

【目的】姿勢安定度評価指標(index of postural stability:以下,IPS),修正IPS(modified index of postural stability:以下,MIPS)を測定し,MIPS,MIPS/IPS の再現性,MIPS の有用性を検討すること。【方法】若年健常者80 名を対象にMIPS,MIPS/IPS の再現性を系統誤差,偶然誤差より検討した。MIPS の有用性はShapiro-Wilk 検定にて閉眼片脚立位検査との比較を行った。【結果】再現性についてMIPS,MIPS/IPS は加算誤差を認めた。MIPS,MIPS/IPS のICC(1.1)は0.725,0.616 であった。また,有用性についてMIPS はp = 0.859 であり,有意に正規分布にしたがう結果となった。【考察】MIPS は臨床応用可能な評価指標であり,幅広い対象者の動的バランス評価に有効な手段であると考える。
著者
丸山 剛 鈴木 康裕 石川 公久 江口 清 正田 純一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Db0578, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 近年、肥満や運動不足に伴い非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が増加しており肝硬変から肝細胞がんへと進展し得ることが指摘されている。NAFLDに対する有効治療のひとつとして運動療法の効果はすでに実証されているが随意収縮と電気刺激を組み合わせたハイブリッド訓練法による治療効果も報告されている。治療効果の検証としてインスリン抵抗性(HOMA-R)の改善が肝機能の改善にもつながりえることが明らかになっている。一方、インスリン分泌能(HOMA-β)を指標とした検証はあまりみられていない。本研究の目的はNAFLD患者を対象としたハイブリッド訓練法の介入をHOMA-βを指標として検証することである。【方法】 対象は当院消化器内科に通院するNAFLD患者の中から空腹時血糖値130mg/dl以下で就労していない患者6名(男性1名、女性5名)、BMI 28.7±1.9、平均年齢59.3±10.3歳、HbA1c6.07±0.89である。電気刺激装置はハイブリッド訓練器(アクティブリンク株式会社)を使用し、両大腿前後面に各2枚電極を貼付し椅子座位で膝関節屈伸運動を実施。通電時間は1分間で拮抗筋に電気刺激を与え膝関節屈伸運動を休憩することなく15回(伸展2秒、屈曲2秒)、セット間の休憩は1分とする。一側ずつ3セットごとに左右交代し左右各6セット、計23分の訓練を週2回の頻度で計30回(15週間)の訓練を行った。電気刺激強度は耐えうる限りの最大電圧(訓練器最大電位50V)とした。評価項目はBIODEX system3(酒井医療株式会社製)で膝関節60度屈曲位での5秒間の最大等尺性筋力:最大トルク平均/体重(%)で大腿四頭筋、ハムストリングスそれぞれ左右の平均を採用。血液生化学検査はAST、ALT、HOMA-R:空腹時インスリン値×空腹時血糖値/405、HOMA-β:空腹時インスリン値×360/(空腹時血糖値-63)、HbA1cの5項目とし運動介入前後で比較を行った。介入前後の比較にはWilcoxonの符号付順位検定を用い、また有意差を認めた項目に関してはHOMA-βを従属変数とし各パラメータとの単相関をSpearmanの順位相関係数を用いて統計解析を行った。使用統計ソフトはSPSS(ver19)を用い、すべての統計的有意判定基準は5%未満とした。【説明と同意】 充分なインフォームド・コンセントを施行し文章にて同意が得られた症例のみを本研究の検討対象とする。【結果】 介入前後において生化学はAST(57.3±16.1vs 42.0±8.5,p<0.027)、ALT(64.2±21.7vs47.0±16.5,p<0.028)、HOMA-R(4.12 ±1.12vs3.15±0.69,p<0.046)、HOMA-β(120.71±43.08vs96.81±29.26,p<0.046)でいずれも有意に低下を認めた。HbA1cに関しては有意な差は認めなかった。一方、下肢筋力は大腿四頭筋(159.3±50.8vs186.4±55.5,p<0.028)は有意な改善を認めたがハムストリングスでは有意な差を認めなかった。またHOMA-βとALTの変化率の間には有意な相関(r=0.829、p=0.042)を認めた。【考察】 今回のハイブリッド訓練法の介入により肝機能(AST、ALT)、HOMA-R、HOMA-βにおいて有意な減少、大腿四頭筋で有意な改善が認められた。このことはハイブリッド訓練法による筋力トレーニングが有酸素運動で得られる効果と同等の効果が得られたものと考え、結果的にインスリン感受性が改善したことでインスリン分泌、すなわちHOMA-βの抑制が図られたと考えられた。また、HOMA-βとALTの変化率の間には有意に相関があることでインスリン分泌量が脂肪肝に影響を与えることが示唆された。一方、糖代謝の改善がみられるのにもかかわらずHbA1cに変化がみられなかったことに関しては、HOMA-R、HOMA-βの改善では食後血糖上昇に影響を与えず耐糖能の効果に対する限界を示唆するものであった。【理学療法学研究としての意義】 NAFLDに対する運動療法はジョギング・水中運動といった有酸素運動が代表的であるが肥満による関節負荷や運動時間を考えると長期的かつ継続的に行うには努力を要す。今回のハイブリッド訓練法では有酸素運動で得られる効果を座位で得られ、運動時間・頻度についての検討が必要と思われるが予防・改善の観点で有効な運動療法として有用である可能性が考えられる。
著者
鶴卷 俊江 丸山 剛 前島 のり子 岸本 圭司 清水 朋枝 石川 公久 江口 清 落合 直之 井原 哲 鮎澤 聡
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P3208-E4P3208, 2010

【目的】近年重度痙縮に対し、中枢性筋弛緩薬であるバクロフェンを脊髄腔内に持続投与する髄腔内バクロフェン投与(ITB)療法が行われている。当院においても脊髄障害や脳卒中患者、脳性麻痺に対し行われている。今回、重度身体障害者に対し介護負担軽減を目的にセラピストが医師と連携し、ITB療法導入を検討する機会を得た。ここに、ITB療法が介護負担に及ぼす影響について若干の考察を得たので報告する。<BR>【方法】ITB療法開始前後で、以下の3項目について評価、検討した。1.四肢筋緊張の程度をAshworth Scaleを用いた。 2.カナダ作業遂行測定(COPM)の10段階評価を利用し、日常生活動作の中で介護者にとって重要度が高い10項目について遂行度と満足度を聴取した。3.介護負担度の尺度としてZarit介護負担度尺度日本語版(J-ZBI)を用いた。対象は、当部で理学療法を受けている2名の患者である。症例1は四つ子の第四子として在胎26週720gで出生した22歳男性。身長152.0cm、体重50.0kg。成長と共に側彎の進行および四肢筋緊張亢進したが、18歳時に顕著な増悪を認めた。ADLはほぼ全介助の状態だが、コミュニケーション能力は良好。主介護者は両親、副介護者は兄である。平成21年7月8日バクロフェン髄腔内持続注入用ポンプ植込み術実施。症例2は生後7ヶ月につかまり立ち時に転倒。急性硬膜下血腫、脳挫傷受傷。術後に低酸素脳症および難治性てんかん合併。その後転居に伴い当院でフォローされている13歳男児。身長131.0cm、体重25.7kg。平成18年頃より側彎の進行および四肢筋緊張亢進の急激な変化あり、平成21年2月経口摂取も困難となり胃廔造設。主介護者は母親、副介護者は父親である。平成21年9月25日バクロフェン髄腔内持続注入用ポンプ植込み術実施。<BR>【説明と同意】趣旨、権利保障、匿名性、プライバシー保護について口頭で説明し同意の得られた症例である。<BR>【結果】症例1は、Ashworth Scaleは平均点で術前下肢3.38、上肢4.25。術後下肢1、上肢2.5の減点。ADLは平均点で術前が遂行度6.9、満足度6.8。術後が遂行度8.1、満足度8.1と変化あり。J-ZBIは母親は術前5点、術後4点。父親は術前12点、術後8点と変化が見られた。症例2は、Ashworth Scaleは平均点で術前下肢3.25、上肢2.25。術後は下肢1.75、上肢1.25の減点。ADLは平均点で術前が遂行度7.4、満足度7.4。術後が遂行度7.7、満足度7.4。J-ZBIは術前23点、術後13点と減点あり。「全体を通してみると、介護をするということはどれくらい自分に負担になっていると思いますか」との問いでは、術前「世間並」が、術後「多少」と介護負担が軽減した結果が得られた。また問診から、「自力で食事をするペースが早くなった」「シャワーが楽になった」とあり、問題意識を持たなかった点でも変化が見られた。<BR>【考察】介護負担度の評価尺度として用いたJ-ZBIは、「介護負担感とは親族を介護した結果、介護者が情緒的、身体的健康、社会的生活および経済状態に関して被った被害の程度」と定義されている。2例ともに術前後で得点の減少はみられたが、もともとか「低負担感」の点数でありこの分類に術前後で相違はなかった。このことは、介護者が親である場合は、生下時より障害と共に成長してきた子の介護を負担と感じるには至らない点や症例1のようにマンパワーが満たされているケース、症例2のようにまだ母親一人で介助が出来る子の体格であるケース等、J-ZBIの介護負担感の概念に必ずしも合致しないためと推察する。しかし、このような場合も介護が長期化することで、介護負担感が高くなることは容易に想像できる。ITB療法の有用性は筋緊張を低下させることで、1.活動性(運動性)の改善が図れる、2.変形の予防・改善をねらえると考えられる。我々は新たに「介護者の負担を減らせる」効果があると提案したい。そこで、セラピストの役割として、医学的側面からケア・サポートが必要である症例を見落とさず、治療方法の選択を介護者および医師と共に検討していくことが重要であると思われる。今回各種評価方法を用い介護負担について検討した結果、介護者の主観的満足度は大きく介護負担軽減を目的としたITB療法は有用であると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】重度身体障害者に対してはITB療法の有用性を評価するためには介護者側の評価が必要であることからも、評価方法については今後さらに検討していく必要があると考える。
著者
前島 のりこ 丸山 剛 岸本 圭司 鶴巻 俊江 清水 朋枝 石川 公久 吉田 太郎 江口 清
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E3P3178, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】脊髄は脳に比べ、血管の構造上梗塞は起こりにくいとされている.当院では、ここ2年で4例の脊髄梗塞症例を経験した.1例は、現在入院中である.当院で経験した症例と過去の文献を検討し、予後予測の妥当性と予後に向けたPTとしての対応を検討する.【対象】2007年4月~2008年10月の期間の脊髄梗塞症例4例.症例1(入院中症例):60歳、男性.胸部下行大動脈瘤人工血管置換術後に発症.病変はTh8-11、脊髄灰白質前方(左優位).左優位の対麻痺.MMT IP2/1、Quad3-/2-、TA3/2.車椅子移乗中等度介助レベル.現時点でリハ期間2か月.症例2:68歳、男性.腹部大動脈瘤人工血管置換術後に発症.病変はTh11/12以下脊髄円錐部、対麻痺.下肢筋力MMT2.車椅子移乗自立で自宅退院.リハ期間は8か月.症例3:63歳、女性.大動脈弁閉鎖不全術後4日目、約1時間に渡る心停止後に発症.病変はTh8-12、脊髄前方1/2.対麻痺.下肢筋力MMT1-2.車椅子移乗一部介助レベルで他院へ転院.当院リハ期間は5か月.症例4:72歳、女性.特発性、後脊髄動脈症候群、Brown-Sequard型.病変はTh11-L1、左後索.感覚性失調症状を主とした左下肢麻痺.発症時は下肢筋力MMT2-3、発症後5カ月でMMT4以上.深部感覚障害は改善傾向も、失調症残存.屋内両松葉杖歩行、屋外車椅子駆動自立にて、自宅退院.入院リハ期間は約2か月半、現在は週1回当院で外来フォロー中.独歩も数mであれば見守りで可.【考察】文献では、脊髄梗塞において予後不良となる因子として大動脈疾患由来、両側性の障害、発症時の麻痺が重度、女性、梗塞巣が灰白質と白質に拡がっていることなどが挙げられている.また、予後良好因子は、片側性で梗塞巣が前角に限局していること、発症時のまひが軽度に加え、Brown-Sequard型であることが挙げられている.症例2,3ともに予後不良因子のうち2つ以上該当しており、車椅子レベルであった.症例4は、Brown-Sequard型で文献通り予後は良好に推移している.症例1は、予後良好因子と予後不良因子を併せ持つ症例である.過去の報告より、大動脈疾患由来の前脊髄動脈症候群の症例では、4例中3例が車椅子レベルとなっている.以上から、機能的には何らかの形で歩行可能となるが、実用的には車椅子レベルであると予測する.プログラムとしては、歩行練習を実施しながら、車椅子移乗練習などの車椅子動作練習を中心に立案し、自宅改修等の環境調整についても検討の必要が考えられる.【まとめ】脊髄梗塞の病因や病変部位、発症時の状態から、ある程度の予後予測ができる可能性が示唆された.PTとして予後を適切に判断し、予後に応じたプログラムの立案・実施と、早期から他職種と連携し環境調整を進めていくことができればと考える.
著者
鶴卷 俊江 清水 朋枝 石川 公久 江口 清
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Eb0605, 2012

【はじめに】 障害児の就学においては、就学指導委員会にて障害児への特別な教育ニーズを把握し、個々の障害児の教育的ニーズを具体化することが望まれるが、委員会単独で障害を評価し、就学先を決定することに限界があると言われている。今回、重度肢体不自由および知的障害の重複障害のあるに二分脊椎児の特別支援学校への転校を、長期的に関わっている医療者が中心となり、両親・教育委員会・小学校・行政と共に検討する機会を得た。ここに、その経過とともに就学前関係機関の一つである医療者として、就学支援の在り方について考察する。【方法】 9歳女児。普通小学校3年生。第9胸髄から第11腰髄の脊髄髄膜瘤。キアリII型。閉鎖術およびV-Pシャント術施行。身体機能レベルをSharrard分類、改訂HOFFER分類、生活能力レベルをPEDIにて評価。特別支援学校への転校を決定するまでを、両親の思い、学校側の対応、医療者としての対応についてまとめた。【説明と同意】 趣旨、権利保障、匿名性、プライバシー保護について口頭で説明し同意の得られた症例である。【結果】 Sharrard分類I、改訂HOFFER分類はNon Ambulatoryであり主な移動能力は車いすである。生活能力レベルはPEDIの尺度化スコアにて、セルフケア56.8、移動29.0、社会的機能61.5。特にセルフケアで更衣・排泄の後処理で減点を認めた。また社会生活での自立度の低さが明らかとなり、将来を見据え長期的に介入が必要な状況と推察された。進路に対しては、児の希望を尊重した両親は普通小学校入学を決定。介助員の配置、昇降機・スロープ・導尿室の設置など施設・設備面への配慮はなされたが、重度の肢体不自由児の扱いに戸惑い、学校側は医療との連携を模索していた。しかし、主治医から現在の教育環境を配慮するような意見・指導が得られず苦慮していた。また両親も学校側の過剰な対応に不満を抱き、年々学校と家族との関係は混迷を呈していた。このままでは児や家族にとって望ましい療育とならないと考え、リハビリテーション部が中心となり問題を整理することをはじめた。まず、医療者より両親へ身体機能・認知等の障害特性から推察する児の将来像を提示。現在の教育環境での限界、今後の課題等に向け、能力を勘案した上で児に適切な教育が受けられることが望ましいという意見を提案したところ、両親から同意が得られた。そこで、医療者が学校へ訪問し、教育環境へ配慮したカリキュラムの検討、身体機能に合わせた介助指導、福祉用具の取り扱い方などを適宜検討した。また児を中心とした支援体制を構築し、教育的ニーズを具体化した。その結果、小学校での人的・物的環境の限界が再確認でき、児の教育環境整備を主と考え、両親・教育委員会・小学校・行政と共に1年間の猶予を持ち、次年度の特別支援学校への転校を決定した。【考察】 小池は、教育機関選択時の支援として重要なことは、個々の子どもの教育ニーズを適切に評価し、保護者と確認・合意し、就学相談に臨めることが望ましいと述べている。本症例を通して、就学支援における理学療法士の役割を検討する。就学前では、将来を見据えたプログラムを実施、学齢期以降の療育を保護者と相談・検討出来る人間関係を築く、求められれば就学指導委員会への情報を提供する。就学後は、学校集団生活がスムースに行えるよう、介助方法や学校環境整備についての助言を行う、が挙げられる。特別支援学校が中心となる障害児教育に対する地域支援システムは教育では既に実施されている。しかし、今回のように、医療ケア度の高い児では、医療チームによる支援が必要と推察する。そこで、我々は医療チームの窓口に、児の全体像を広く把握しているリハビリテーション部、理学療法士が就くことを提案する。茨城県では地域の中で小児リハビリテーションを普及促進するために県内で当院を含め9施設を小児リハ・ステーションとしている。今回はこのシステムの枠組みもあり院内院外活動を円滑に行うことができた。このような地域小児リハシステムが拡大し、児の将来を見据えた療育が多職種協働のもとで為されることが期待される。【理学療法学研究としての意義】 地域で行われる就学相談においては、多様で複雑な障害像がある重複障害児のニーズを明確にするには多面的・総合的な評価が必要である。理学療法士としての介入意義は大きく、今後の就学支援における当院の役割を小児リハ・ステーションとして、就学前後および地域の小学校に在籍する障害児の支援に向け、児・療育者、教育・行政機関等への支援体制の構築も視野に入れ研究を進めて行きたいと考える。
著者
鶴卷 俊江 前島 のりこ 丸山 剛 岸本 圭司 清水 朋枝 石川 公久 吉田 太郎 江口 清
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P1298-B3P1298, 2009

【はじめに】現在、脳性麻痺失調型の診断でフォローしているが、幾多の臨床所見より進行性疾患が疑われる患者を担当している.今回、麻痺性側彎症の術後リハビリテーション(以下リハ)を経験する機会を得たので、若干の考察を加え以下に報告する.<BR>【症例】14歳 女児 特別支援学校寄宿舎生活中.身体機能は側彎症、鷲手様変形、Joint Laxityあり.GMFCSレベルIII.移動は施設内外車いす自走、自宅内では殿部いざり.両側感音性難聴のため、コミュニケーションは手話および読唇法にて実施.<BR>【現病歴】1歳3か月、発達遅滞指摘され来院.脳性麻痺失調型の診断にて理学療法開始.独歩3歳.小学4年生で凹足に対し手術施行.以後介助歩行レベルとなり車いす併用.中学2年まで歩行器見守りまたは一側腋窩介助での歩行レベルであったが、徐々に歩行能力低下および脊柱側彎増悪.本年2月側彎症の手術実施.<BR>【経過】FIMで術前94点、術後53点、現在91点とセルフケア・移乗・移動で変動がみられた.中でも最大の問題点は、退院後の学校・寄宿舎生活での介助量増大であった.そこで連絡ノートや訪問による環境調整などで教員と連携をとり動作および介助方法の変更を検討・指導した.今回、術後一時的に動作能力は低下したが、退院後週3回の外来リハの継続により動作の再獲得に至った.また、生活の中心である学校・寄宿舎生活を支援する教員・介助員等との連携によりスムースに日常生活に復帰することが出来た.しかし、その反面歩行能力の改善に時間を要し、術後8カ月現在においても介助歩行は困難.訓練レベルの歩行であるため、学校内での安全性を考慮し歩行器をメイウォークに変更した.なお、13年間の経過をカルテより後方視的にGMFMを用い比較すると、9歳時58.09点から現在44.79点、GMFCSレベルも_II?III_へ悪化していた.<BR>【考察】経過からFriedreich失調症が疑われる症例である.脊髄小脳変性症など失調症に対するリハは機能維持だけではなく改善効果もあることが報告されている.本症例も術前生活と同程度まで改善が認められた.しかし、症状は徐々に増悪し、安全に学校生活を送ることは困難となってきている.今回は学校との連携により、リハと同一方法で日常生活動作を行うことで動作再獲得の時間は短縮出来、さらには日常生活の汎化につながったと推察する.教育との連携により達成できたと思われる.さらに、本児が進行性疾患であれば、今後どのように本人家族を支援していくかが課題となる.学校という集団生活の中でどこまで活動させることが良いことなのか、学校での支援体制、本人家族の願い、客観的機能および環境評価を考慮した上で現在の連携をすすめていくことが肝要と推察する.
著者
鈴木 康裕 田邉 裕基 船越 香苗 塩見 耕平 石川 公久 江口 清
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】バランスとは支持基底面内に重心を投影するために必要な平衡にかかわる機能がその重要な要素の一つと考えられており,定量的なバランス能力や姿勢の安定性の評価には重心(足圧中心)動揺計を用いた測定(以下重心動揺検査)が多用されている。望月らは重心動揺検査を用いた評価として,身体の揺らぎの程度を表す重心動揺の大きさ,および一定の支持基底面内で重心線を随意的に動かせる程度である安定域の大きさの2つの変数に着目し姿勢安定度評価指標(Index of Postural Stability:以下IPS)を考案しその有用性を提唱している。IPSは,重心動揺測定値を多角的に組み合わせることで,より臨床的なバランス能力の評価といえる。一方IPSは,評価自体の難易度は高くなく広い対象者に行える長所はあるが,潜在的な軽度のバランス不良の抽出には難しい側面もある。そこで我々は,従来から用いられているIPSに加え閉眼および軟面での立位環境面からもバランスタスクをかけ,難易度を上げた筑波大式修正IPS(以下修正IPS)を考案した。本研究の目的は,修正IPSの信頼性を確認し,またその有用性を従来から用いられているIPSとの比較を行うことで検討することである。【方法】対象は健常者52名(男性29名,女性23名,年齢26.6±5.9歳),測定には重心動揺計(アニマ社製グラビコーダGS-10)およびバランスパッド・エリート(エアレックス社製:横47cm×縦38cm,厚さ6cm:以下軟面)を用いて行った。本研究の一連の検査手順を被験者に対して,以下の通り行った。①両側でそれぞれ閉眼片足立ち検査を2回実施し,長い時間を代表値とする。②十分な休息を与えた後に,通常の重心動揺計の検査台上にて,IPSを行う。③一度検査台から降ろし,検査台上に軟面をセットする。被検者に十分な休息を与えた後に,検査台上の軟面上にて閉眼・直立させ修正IPSを行う。それぞれの計測は初回1回のみとする。④日時を変え,①②③同様の検査を実施する。閉眼片足立ち検査を行うことで,どちらか片側が10秒未満である場合をバランス不良とし,それ以外をバランス非不良と定義し,2群に分類した。IPSは,望月による報告に則り実施した。修正IPSの測定方法については,望月による報告に準じて実施した。通常の重心動揺検査の検査台の上に軟面を敷き,被検者の立ち位置については,足底内側を平行に10cm離した軽度開脚立位の足位とした。被検者には測定内容を説明し,測定台上で前後・左右への重心移動を行わせ,足底の要領を得た後に測定を開始した。統計解析は,修正IPSの信頼性について級内相関係数ICC(1.1)を用いて算出した。また修正IPSの有用性を確認するため,バランス非不良群と不良群をIPSおよび修正IPSの2指標にてMann-Whitney U検定を用いて比較を行い,検討を行った。同様に両群の属性についても検定を用いて比較を行った。使用統計ソフトはSPSS(ver21)を用い,全ての統計的有意判定基準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には,研究の内容と目的を説明し,同意を得た後に測定を実施した。【結果】修正IPSの測定値は1回目0.77±0.38,2回目0.84±0.17であり,ICC(1.1)は0.619であった。バランス非不良群(39名)と不良群(13名)両群の属性に有意な差は認められず,両群のバランス能力の比較ではIPSでは有意な差を示さなかったが(2.13±0.19vs2.01±0.19,p=0.062),修正IPSでは有意な差を示した(0.82±0.17vs0.66±0.19,p=0.007)。【考察】今回の結果において,修正IPSはICC(1.1)=0.619と中等度の信頼性が認められ,臨床応用は可能と考えられた。また修正IPSは,従来のIPSでは困難であったバランス不良を抽出できる可能性が示された。直立姿勢における身体の平衡は,視覚・前庭・下肢の体性感覚からの入力が中枢神経系で処理され,四肢体幹の骨格筋に出力されることで維持される。本研究の対象は,前庭感覚に問題のない若年健常者であり,閉眼・軟面上での立位では視覚情報が遮断され下肢の深部知覚からの入力が制限されてしまうため,バランスを維持するため僅かな深部知覚からの情報に依存した可能性がある。さらに修正IPSは,随意的に最大限に重心を移動するタスクがかけられるため,さらに鋭敏な深部知覚を必要とする。これらのことから若年健常者を対象とした本研究の結果として,IPSでは現れず修正IPSに反映されたバランス能力の差は,深部知覚の感度差が鋭敏に反映された可能性が考えられた。【理学療法学研究としての意義】修正IPSは一定の信頼性を認め,また従来のIPSでは困難であったバランス不良を抽出できる可能性が示された。修正IPSは有効なバランス評価の方法になりうると考えられた。