著者
鶴卷 俊江 丸山 剛 前島 のり子 岸本 圭司 清水 朋枝 石川 公久 江口 清 落合 直之 井原 哲 鮎澤 聡
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P3208-E4P3208, 2010

【目的】近年重度痙縮に対し、中枢性筋弛緩薬であるバクロフェンを脊髄腔内に持続投与する髄腔内バクロフェン投与(ITB)療法が行われている。当院においても脊髄障害や脳卒中患者、脳性麻痺に対し行われている。今回、重度身体障害者に対し介護負担軽減を目的にセラピストが医師と連携し、ITB療法導入を検討する機会を得た。ここに、ITB療法が介護負担に及ぼす影響について若干の考察を得たので報告する。<BR>【方法】ITB療法開始前後で、以下の3項目について評価、検討した。1.四肢筋緊張の程度をAshworth Scaleを用いた。 2.カナダ作業遂行測定(COPM)の10段階評価を利用し、日常生活動作の中で介護者にとって重要度が高い10項目について遂行度と満足度を聴取した。3.介護負担度の尺度としてZarit介護負担度尺度日本語版(J-ZBI)を用いた。対象は、当部で理学療法を受けている2名の患者である。症例1は四つ子の第四子として在胎26週720gで出生した22歳男性。身長152.0cm、体重50.0kg。成長と共に側彎の進行および四肢筋緊張亢進したが、18歳時に顕著な増悪を認めた。ADLはほぼ全介助の状態だが、コミュニケーション能力は良好。主介護者は両親、副介護者は兄である。平成21年7月8日バクロフェン髄腔内持続注入用ポンプ植込み術実施。症例2は生後7ヶ月につかまり立ち時に転倒。急性硬膜下血腫、脳挫傷受傷。術後に低酸素脳症および難治性てんかん合併。その後転居に伴い当院でフォローされている13歳男児。身長131.0cm、体重25.7kg。平成18年頃より側彎の進行および四肢筋緊張亢進の急激な変化あり、平成21年2月経口摂取も困難となり胃廔造設。主介護者は母親、副介護者は父親である。平成21年9月25日バクロフェン髄腔内持続注入用ポンプ植込み術実施。<BR>【説明と同意】趣旨、権利保障、匿名性、プライバシー保護について口頭で説明し同意の得られた症例である。<BR>【結果】症例1は、Ashworth Scaleは平均点で術前下肢3.38、上肢4.25。術後下肢1、上肢2.5の減点。ADLは平均点で術前が遂行度6.9、満足度6.8。術後が遂行度8.1、満足度8.1と変化あり。J-ZBIは母親は術前5点、術後4点。父親は術前12点、術後8点と変化が見られた。症例2は、Ashworth Scaleは平均点で術前下肢3.25、上肢2.25。術後は下肢1.75、上肢1.25の減点。ADLは平均点で術前が遂行度7.4、満足度7.4。術後が遂行度7.7、満足度7.4。J-ZBIは術前23点、術後13点と減点あり。「全体を通してみると、介護をするということはどれくらい自分に負担になっていると思いますか」との問いでは、術前「世間並」が、術後「多少」と介護負担が軽減した結果が得られた。また問診から、「自力で食事をするペースが早くなった」「シャワーが楽になった」とあり、問題意識を持たなかった点でも変化が見られた。<BR>【考察】介護負担度の評価尺度として用いたJ-ZBIは、「介護負担感とは親族を介護した結果、介護者が情緒的、身体的健康、社会的生活および経済状態に関して被った被害の程度」と定義されている。2例ともに術前後で得点の減少はみられたが、もともとか「低負担感」の点数でありこの分類に術前後で相違はなかった。このことは、介護者が親である場合は、生下時より障害と共に成長してきた子の介護を負担と感じるには至らない点や症例1のようにマンパワーが満たされているケース、症例2のようにまだ母親一人で介助が出来る子の体格であるケース等、J-ZBIの介護負担感の概念に必ずしも合致しないためと推察する。しかし、このような場合も介護が長期化することで、介護負担感が高くなることは容易に想像できる。ITB療法の有用性は筋緊張を低下させることで、1.活動性(運動性)の改善が図れる、2.変形の予防・改善をねらえると考えられる。我々は新たに「介護者の負担を減らせる」効果があると提案したい。そこで、セラピストの役割として、医学的側面からケア・サポートが必要である症例を見落とさず、治療方法の選択を介護者および医師と共に検討していくことが重要であると思われる。今回各種評価方法を用い介護負担について検討した結果、介護者の主観的満足度は大きく介護負担軽減を目的としたITB療法は有用であると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】重度身体障害者に対してはITB療法の有用性を評価するためには介護者側の評価が必要であることからも、評価方法については今後さらに検討していく必要があると考える。
著者
鶴卷 俊江 清水 朋枝 石川 公久 江口 清
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Eb0605, 2012

【はじめに】 障害児の就学においては、就学指導委員会にて障害児への特別な教育ニーズを把握し、個々の障害児の教育的ニーズを具体化することが望まれるが、委員会単独で障害を評価し、就学先を決定することに限界があると言われている。今回、重度肢体不自由および知的障害の重複障害のあるに二分脊椎児の特別支援学校への転校を、長期的に関わっている医療者が中心となり、両親・教育委員会・小学校・行政と共に検討する機会を得た。ここに、その経過とともに就学前関係機関の一つである医療者として、就学支援の在り方について考察する。【方法】 9歳女児。普通小学校3年生。第9胸髄から第11腰髄の脊髄髄膜瘤。キアリII型。閉鎖術およびV-Pシャント術施行。身体機能レベルをSharrard分類、改訂HOFFER分類、生活能力レベルをPEDIにて評価。特別支援学校への転校を決定するまでを、両親の思い、学校側の対応、医療者としての対応についてまとめた。【説明と同意】 趣旨、権利保障、匿名性、プライバシー保護について口頭で説明し同意の得られた症例である。【結果】 Sharrard分類I、改訂HOFFER分類はNon Ambulatoryであり主な移動能力は車いすである。生活能力レベルはPEDIの尺度化スコアにて、セルフケア56.8、移動29.0、社会的機能61.5。特にセルフケアで更衣・排泄の後処理で減点を認めた。また社会生活での自立度の低さが明らかとなり、将来を見据え長期的に介入が必要な状況と推察された。進路に対しては、児の希望を尊重した両親は普通小学校入学を決定。介助員の配置、昇降機・スロープ・導尿室の設置など施設・設備面への配慮はなされたが、重度の肢体不自由児の扱いに戸惑い、学校側は医療との連携を模索していた。しかし、主治医から現在の教育環境を配慮するような意見・指導が得られず苦慮していた。また両親も学校側の過剰な対応に不満を抱き、年々学校と家族との関係は混迷を呈していた。このままでは児や家族にとって望ましい療育とならないと考え、リハビリテーション部が中心となり問題を整理することをはじめた。まず、医療者より両親へ身体機能・認知等の障害特性から推察する児の将来像を提示。現在の教育環境での限界、今後の課題等に向け、能力を勘案した上で児に適切な教育が受けられることが望ましいという意見を提案したところ、両親から同意が得られた。そこで、医療者が学校へ訪問し、教育環境へ配慮したカリキュラムの検討、身体機能に合わせた介助指導、福祉用具の取り扱い方などを適宜検討した。また児を中心とした支援体制を構築し、教育的ニーズを具体化した。その結果、小学校での人的・物的環境の限界が再確認でき、児の教育環境整備を主と考え、両親・教育委員会・小学校・行政と共に1年間の猶予を持ち、次年度の特別支援学校への転校を決定した。【考察】 小池は、教育機関選択時の支援として重要なことは、個々の子どもの教育ニーズを適切に評価し、保護者と確認・合意し、就学相談に臨めることが望ましいと述べている。本症例を通して、就学支援における理学療法士の役割を検討する。就学前では、将来を見据えたプログラムを実施、学齢期以降の療育を保護者と相談・検討出来る人間関係を築く、求められれば就学指導委員会への情報を提供する。就学後は、学校集団生活がスムースに行えるよう、介助方法や学校環境整備についての助言を行う、が挙げられる。特別支援学校が中心となる障害児教育に対する地域支援システムは教育では既に実施されている。しかし、今回のように、医療ケア度の高い児では、医療チームによる支援が必要と推察する。そこで、我々は医療チームの窓口に、児の全体像を広く把握しているリハビリテーション部、理学療法士が就くことを提案する。茨城県では地域の中で小児リハビリテーションを普及促進するために県内で当院を含め9施設を小児リハ・ステーションとしている。今回はこのシステムの枠組みもあり院内院外活動を円滑に行うことができた。このような地域小児リハシステムが拡大し、児の将来を見据えた療育が多職種協働のもとで為されることが期待される。【理学療法学研究としての意義】 地域で行われる就学相談においては、多様で複雑な障害像がある重複障害児のニーズを明確にするには多面的・総合的な評価が必要である。理学療法士としての介入意義は大きく、今後の就学支援における当院の役割を小児リハ・ステーションとして、就学前後および地域の小学校に在籍する障害児の支援に向け、児・療育者、教育・行政機関等への支援体制の構築も視野に入れ研究を進めて行きたいと考える。
著者
鶴卷 俊江 前島 のりこ 丸山 剛 岸本 圭司 清水 朋枝 石川 公久 吉田 太郎 江口 清
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P1298-B3P1298, 2009

【はじめに】現在、脳性麻痺失調型の診断でフォローしているが、幾多の臨床所見より進行性疾患が疑われる患者を担当している.今回、麻痺性側彎症の術後リハビリテーション(以下リハ)を経験する機会を得たので、若干の考察を加え以下に報告する.<BR>【症例】14歳 女児 特別支援学校寄宿舎生活中.身体機能は側彎症、鷲手様変形、Joint Laxityあり.GMFCSレベルIII.移動は施設内外車いす自走、自宅内では殿部いざり.両側感音性難聴のため、コミュニケーションは手話および読唇法にて実施.<BR>【現病歴】1歳3か月、発達遅滞指摘され来院.脳性麻痺失調型の診断にて理学療法開始.独歩3歳.小学4年生で凹足に対し手術施行.以後介助歩行レベルとなり車いす併用.中学2年まで歩行器見守りまたは一側腋窩介助での歩行レベルであったが、徐々に歩行能力低下および脊柱側彎増悪.本年2月側彎症の手術実施.<BR>【経過】FIMで術前94点、術後53点、現在91点とセルフケア・移乗・移動で変動がみられた.中でも最大の問題点は、退院後の学校・寄宿舎生活での介助量増大であった.そこで連絡ノートや訪問による環境調整などで教員と連携をとり動作および介助方法の変更を検討・指導した.今回、術後一時的に動作能力は低下したが、退院後週3回の外来リハの継続により動作の再獲得に至った.また、生活の中心である学校・寄宿舎生活を支援する教員・介助員等との連携によりスムースに日常生活に復帰することが出来た.しかし、その反面歩行能力の改善に時間を要し、術後8カ月現在においても介助歩行は困難.訓練レベルの歩行であるため、学校内での安全性を考慮し歩行器をメイウォークに変更した.なお、13年間の経過をカルテより後方視的にGMFMを用い比較すると、9歳時58.09点から現在44.79点、GMFCSレベルも_II?III_へ悪化していた.<BR>【考察】経過からFriedreich失調症が疑われる症例である.脊髄小脳変性症など失調症に対するリハは機能維持だけではなく改善効果もあることが報告されている.本症例も術前生活と同程度まで改善が認められた.しかし、症状は徐々に増悪し、安全に学校生活を送ることは困難となってきている.今回は学校との連携により、リハと同一方法で日常生活動作を行うことで動作再獲得の時間は短縮出来、さらには日常生活の汎化につながったと推察する.教育との連携により達成できたと思われる.さらに、本児が進行性疾患であれば、今後どのように本人家族を支援していくかが課題となる.学校という集団生活の中でどこまで活動させることが良いことなのか、学校での支援体制、本人家族の願い、客観的機能および環境評価を考慮した上で現在の連携をすすめていくことが肝要と推察する.