- 著者
-
髙谷 幸
- 出版者
- The Japan Sociological Society
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.62, no.4, pp.554-570, 2012
本稿の目的は, 在日フィリピン人女性のDV被害者支援を行ってきたNGOを, 家族とは異なるオルタナティブな親密圏として位置づけ, 家族との関係からその実践を分析することである.<br>近年, 近代家族とは異なるかたちの, 生の基盤となる関係性, 「具体的な他者の配慮/関心にもとづく」親密圏をめぐる議論が活発になされている. それらは, 近代家族にたいする批判を踏まえつつも, そこで育まれる関係性や役割を積極的に再考するものといえる. しかし一方で, これらの議論では, 家族とそれ以外の親密圏がいかなる関係にあるかは論じられてこなかった.<br>これに対し, 本稿が取り上げたNGOでは, 暴力的な「家族からの自由」を, フィリピン人女性と子どもたちに保障すると同時に, 母子世帯というケア関係を核とした「家族への自由」を保障する活動を行っていた. またワークショップによる経験の共有を通じて, 家族の期待と責任を相対化し, そこでの葛藤を「ニーズ」として解釈する活動を行っていた.<br>つまりこの<親密圏>は, 家族にとって代わるというよりも, 家族が負担してきたケア責任を分有し, また家族規範を相対化し, 他の信頼しうる<親密圏>をつくり出す実践として捉えることができる. その戦略は, それ自体が<親密圏>として, 女性や子どもたちに複数の親密圏への帰属を可能にし, それによって家族への自由が保障されることを目指すものである.