著者
髙谷 幸
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.531-548, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
50
被引用文献数
3 3

本稿では, 1980年代以降の日本における在留資格のない移住者をめぐるカテゴリーの変遷を跡づけることによって, 「不法滞在者」カテゴリーが支配的なカテゴリーとして定着する過程およびその帰結を明らかにする.新しい移住者の来日が増加した1980年代, 彼・彼女らは, 在留資格の有無ではなくジェンダーや職業の区別にもとづき「ジャパゆきさん」や「外国人労働者」と呼ばれた. しかし, 1990年の入管法改定によって, 外国人労働者のなかに合法/不法という区分が持ち込まれた. くわえて「不法滞在者」という区分が警察によって生み出され, 「不法」と名指された者は「犯罪者」としての意味を帯びるようになった. その後, この「犯罪者」としての「不法滞在者」というカテゴリーは, 対抗的カテゴリーとのせめぎ合いをともないつつもさまざまな領域に浸透し, 正統化され, 自明性を帯びるようになった. こうして今や, このカテゴリーの自明性は, 「不法滞在者」排除の実践を支える一方で, その排除が当該カテゴリーの自明性をより強化するという形で相互規定している.同時に, こうした「不法滞在者」カテゴリーの普及は, 「外国人労働者の増加による治安悪化」という根拠なき不安を増幅させ, それが結果として移民政策の確立を困難にさせるという帰結をもたらしてきた.
著者
髙谷 幸
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.554-570, 2012

本稿の目的は, 在日フィリピン人女性のDV被害者支援を行ってきたNGOを, 家族とは異なるオルタナティブな親密圏として位置づけ, 家族との関係からその実践を分析することである.<br>近年, 近代家族とは異なるかたちの, 生の基盤となる関係性, 「具体的な他者の配慮/関心にもとづく」親密圏をめぐる議論が活発になされている. それらは, 近代家族にたいする批判を踏まえつつも, そこで育まれる関係性や役割を積極的に再考するものといえる. しかし一方で, これらの議論では, 家族とそれ以外の親密圏がいかなる関係にあるかは論じられてこなかった.<br>これに対し, 本稿が取り上げたNGOでは, 暴力的な「家族からの自由」を, フィリピン人女性と子どもたちに保障すると同時に, 母子世帯というケア関係を核とした「家族への自由」を保障する活動を行っていた. またワークショップによる経験の共有を通じて, 家族の期待と責任を相対化し, そこでの葛藤を「ニーズ」として解釈する活動を行っていた.<br>つまりこの<親密圏>は, 家族にとって代わるというよりも, 家族が負担してきたケア責任を分有し, また家族規範を相対化し, 他の信頼しうる<親密圏>をつくり出す実践として捉えることができる. その戦略は, それ自体が<親密圏>として, 女性や子どもたちに複数の親密圏への帰属を可能にし, それによって家族への自由が保障されることを目指すものである.
著者
中村 修 山本 哲也 上野 和之 髙谷 幸司
出版者
一般社団法人 日本鉄鋼協会
雑誌
鉄と鋼 (ISSN:00211575)
巻号頁・発行日
vol.101, no.2, pp.88-92, 2015 (Released:2015-01-31)
参考文献数
10
被引用文献数
6

Numerical simulation of lance-jet impinging on a liquid free surface was carried out and validated against the experimental data of Ueno et al. [Tetsu-to-Hagané, 101 (2015), 74]. Computational domain was separated to lance domain and water-bath domain. Lance domain was solved as single phase of compressible gas and the result was used to inlet boundary condition of water-bath domain by volume of fluid method (VOF) solver. Large eddy simulation (LES) was used and both solver are a part of OpenFOAM, open source CFD toolkit. The time average of depth and diameter of cavity was almost consistent with the experiment. The standard deviation was 10-20% of the time average and slightly larger than that of the experiment. Simulation showed that sloshing of water surface might enhance the spitting phenomena.
著者
大曲 由起子 鍛治 致 稲葉 奈々子 樋口 直人 髙谷 幸
出版者
大阪経済法科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、国勢調査オーダーメイド集計を用いて、1980~2010年までの在日外国人の社会経済的地位の動態を分析した。その結果、在日コリアンに関して1950~60年代生まれコーホートに置いて職業ニッチの変化が生じていること、民族経済が脱産業化したという説は過大評価である可能性が高いことを明らかにした。同時に、ニューカマーについては進学格差が縮まりつつあるが、これはリーマンショックによる帰国の影響が強いことも示唆された。また、中国籍に関しては学歴の高い新中間層と技能実習生に分化しており、出生コーホートごとに日本への包摂様式がかなり異なる。
著者
神奈川 芳行 赤羽 学 今村 知明 長谷川 専 山口 健太郎 鬼武 一夫 髙谷 幸 山本 茂貴
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.100-109, 2014 (Released:2014-04-16)
参考文献数
16

目的 世界的に人為的な食品汚染についての関心が高まるに伴い,G8 では専門家会合が開催されたり,米国では多くの対策•方針案等が策定されている。しかし,日本では,食品企業の食品テロに対する認識が低く,その脆弱性が危惧されている。今回我々は,日本の食品企業に食品防御対策を普及させるためのガイドライン等を作成した。方法 すでに作成されている食品工場用チェックリストに示されている食品防御対策について,費用対効果を考慮した「推奨度」を整理した。その推奨度(費用対効果の高い対策順)を基に,「食品防御対策ガイドライン(案)」を作成し,食品工場に対して聞き取り調査を実施した。また,食品防御の観点から,食品工場用チェックリストやガイドラインと「総合衛生管理製造過程承認制度実施要領(日本版 HACCP)」を比較した。結果 推奨度を基に試作したガイドライン(案)に対する食品工場への聞き取り調査を踏まえて,「食品防御対策ガイドライン(食品製造工場向け)」とその解説を作成した。また,食品企業に普及させるために,HACCP における食品防御の観点からの留意事項を作成した。結論 食品防御対策を普及させるためには,食品事業者が使用しやすいガイドラインが有用と考えられた。