- 著者
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津田 茂子
田中 芳幸
津田 彰
- 出版者
- 日本行動医学会
- 雑誌
- 行動医学研究 (ISSN:13416790)
- 巻号頁・発行日
- vol.10, no.2, pp.81-92, 2004
- 被引用文献数
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2
妊娠後期 (妊娠36週以降) の妊婦79名 (平均年齢30.0歳、19~41歳) を対象として、妊娠後期の心理的健康感と出産後のマタニティブルーズとの関連性を調べるとともに、マタニティブルーズに及ぼす産科的要因 (母体合併症の有無、出産経験、新生児の状態、分娩時の異常) と世帯形態、年齢などの影響を検討した。妊婦の心理的健康感は自記式のWHO Subjective Well-being Inventory (SUBI)、すなわち「心の健康度」と「心の疲労度の少なさ」の2つの下位尺度から構成された質問紙によって測定し、マタニティブルーズはSteinのマタニティブルーズ自己質問表によって出産後5日目に評価した。<br>SUBIの標準化された得点区分に従えば、対象者の妊娠後期の心理的健康感は、心の健康度と心の疲労度の少なさ、いずれも高く自覚されていた。臨床上、マタニティブルーズと判定されるマタニティブルーズ高得点者 (8点以上) は16.2%であり、先行研究と比較すると、若干低い発症率であった。出産後5日目のマタニティブルーズ症状は妊娠後期の心理的健康感と有意な負の相関を示した。すなわち、妊娠後期の心の健康度が高いほど、マタニティブルーズの全症状と4つの下位症状 (情動易変性、抑うつ感、精神運動制止、自律神経系症状) は軽度であり、同様に、心の疲労度が少ないほどこれらマタニティブルーズの症状も少なかった。また、マタニティブルーズ症状と関連する産科的要因として、年齢の高さ、母体合併症、新生児の異常などが示された。さらに、心の健康度と心の疲労度の少なさの関数として、マタニティブルーズ症状得点は有意もしくは有意傾向をもって減少した。重回帰分析の結果は、出産後5日目のマタニティブルーズを予測するSUBI下位尺度項目として、身体的不健康感の少なさ、近親者の支え、社会的な支え、達成感、人生に対する失望感の少なさなどが、説明変数として有意であることを明らかにした。さらに、ロジスティック回帰分析の結果より、臨床的なマタニティブルーズの発症を予測する要因は妊娠後期の心の疲労度の少なさであることが示された。<br>これらの知見より、出産後のマタニティブルーズの影響を軽減するための方策として、妊娠後期の心理的健康感、とりわけ心の疲労度を少なくすることが重要であること、さらに、管理する必要のある産科的要因として母体合併症の有無や新生児の異常が明示され、介入の方向性が明確になった。