著者
津田 彰 牧田 潔 津田 茂子
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.91-96, 2001 (Released:2014-07-03)
参考文献数
40

今日、ストレスは重要な問題である。ここ数年、ストレスが病気の発症に重大な役割を担っていることが論じられている。しかしながら、ストレス反応が身体的疾患や心身障害にどのような影響を及ぼすのかについては、あまり理解されていない。本論文では、病気を左右する要因として、どのようにストレスは重要なのか考察した。また、ストレスは健康-病気の結果をどのように左右するのか、さらにストレスの体験と身体的変化ならびに病理的反応を結ぶプロセスについても検討を加えた。ストレス-コーピング病気罹患性モデルに従い、身体的及び心身疾患の発症における心理社会生物学的要因の役割を明らかにすることを試みた。結論として、健康-病気の結果を繋ぐ主要な2つの過程―すなわち、心理生理学的ならびに認知的-行動的経路―の関与が明らかとなった。今後、さらにこれらの関連性についての検討が望まれる。
著者
津田 茂子 田中 芳幸 津田 彰
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.81-92, 2004
被引用文献数
2

妊娠後期 (妊娠36週以降) の妊婦79名 (平均年齢30.0歳、19~41歳) を対象として、妊娠後期の心理的健康感と出産後のマタニティブルーズとの関連性を調べるとともに、マタニティブルーズに及ぼす産科的要因 (母体合併症の有無、出産経験、新生児の状態、分娩時の異常) と世帯形態、年齢などの影響を検討した。妊婦の心理的健康感は自記式のWHO Subjective Well-being Inventory (SUBI)、すなわち「心の健康度」と「心の疲労度の少なさ」の2つの下位尺度から構成された質問紙によって測定し、マタニティブルーズはSteinのマタニティブルーズ自己質問表によって出産後5日目に評価した。<br>SUBIの標準化された得点区分に従えば、対象者の妊娠後期の心理的健康感は、心の健康度と心の疲労度の少なさ、いずれも高く自覚されていた。臨床上、マタニティブルーズと判定されるマタニティブルーズ高得点者 (8点以上) は16.2%であり、先行研究と比較すると、若干低い発症率であった。出産後5日目のマタニティブルーズ症状は妊娠後期の心理的健康感と有意な負の相関を示した。すなわち、妊娠後期の心の健康度が高いほど、マタニティブルーズの全症状と4つの下位症状 (情動易変性、抑うつ感、精神運動制止、自律神経系症状) は軽度であり、同様に、心の疲労度が少ないほどこれらマタニティブルーズの症状も少なかった。また、マタニティブルーズ症状と関連する産科的要因として、年齢の高さ、母体合併症、新生児の異常などが示された。さらに、心の健康度と心の疲労度の少なさの関数として、マタニティブルーズ症状得点は有意もしくは有意傾向をもって減少した。重回帰分析の結果は、出産後5日目のマタニティブルーズを予測するSUBI下位尺度項目として、身体的不健康感の少なさ、近親者の支え、社会的な支え、達成感、人生に対する失望感の少なさなどが、説明変数として有意であることを明らかにした。さらに、ロジスティック回帰分析の結果より、臨床的なマタニティブルーズの発症を予測する要因は妊娠後期の心の疲労度の少なさであることが示された。<br>これらの知見より、出産後のマタニティブルーズの影響を軽減するための方策として、妊娠後期の心理的健康感、とりわけ心の疲労度を少なくすることが重要であること、さらに、管理する必要のある産科的要因として母体合併症の有無や新生児の異常が明示され、介入の方向性が明確になった。
著者
津田 彰 堀内 聡 金 ウィ淵 鄧 科 森田 徹 岡村 尚昌 矢島 潤平 尾形 尚子 河野 愛生 田中 芳幸 外川 あゆみ 津田 茂子 Shigeko Tsuda
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.77-88, 2010-03-31

ストレスへの対応といった受身的な対策を越えて,よりよく生きるための健康開発につながる効果的なストレスマネジメント行動変容を促すプログラムが求められている。とくに対費用効果を考えた場合には,集団戦略として,大勢の人たちを対象にしながら個々人の行動変容に対する準備性に応じたアプローチが必要となる。これらのニーズに応える行動科学的視点に立つ理論と実践モデルとして,行動変容ステージ別に行動変容のためのやり方(変容のプロセスと称する)を教示し,動機づけを高める意思決定のバランスに働きかけながら,行動変容に対する自己効力感を高め,行動変容のステージを上げていく多理論統合モデル(transtheoretical model, TTM)にもとづくアプローチが注目されている。筆者らは,TTM にもとづくインターネットによるストレスマネジメント行動変容の介入研究において,対象者が自ら効果的なストレスマネジメント行動に取り組むためのセルフヘルプ型のワークブックを作成し,その有効性を検証している。本稿では,効果的なストレスマネジメント行動を促すために,これらのワークブックをより有効に活用するための実践ガイドについて解説を加える。
著者
津田 彰 森田 喜一郎 高橋 裕子 磯 博行 矢島 潤平 辻丸 秀策 津田 茂子 福山 祐夫 稲谷 ふみ枝 森田 徹 岡村 尚昌子
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究では,多理論統合モデル(TTM)をストレスマネジメント行動(1日20分以上健康的な活動を行う)の変容に適用して,大学生集団を対象とする介入を行うことを目的とした。TTMをストレスマネジメント行動に適用するために,まず日本語版TTM尺度を開発した。次いで,ワークブックとエキスパート・システム(アセスメントに応じてストレスマネジメント行動を獲得維持するためのアドバイスを与える)を開発して,その効果をランダム化比較試験により比較検討したところ,個別最適化アプローチによりストレスの自覚が緩和し,ストレスマネジメント行動の実行者の割合が増加することが示された。
著者
津田 彰 津田 茂子 山田 茂人
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、実験的-フィールド研究の方法論に基づいて、ストレスの状態と心理生物学的ストレス反応との関連性について検討を加えたものである.3年間の研究を通じて、以下に列挙するような知見を最終的に得ることができた。1.唾液中MHPGの測定と不安の指標としての妥当性について男女大学生221名を対象に、唾液3-mthoxy-4-hydroxyphenylglycol(MHPG)(ノルアドレナリンの代謝産物)濃度と気分(STAIならびにPOMSによって測定)、精神的健康度(GHQ-28で評価)との関連性を検討したところ、男子学生の場合、不安、緊張、抑うつ、怒り、敵意の気分ならびに特性不安とMHPG濃度との間に有意な相関が認められた。しかしながら、女子学生では、このような関係がまったく認められなかった。女子の場合、性周期がMHPG濃度の交絡要因になったためと思われる。2.唾液中MHPG濃度の減少と抗不安薬によるストレス症状改善との相関不安障害患者25名を対象に、抗不安薬(alprazolam 0.8-1.2mgまたはtandospirone 30mg)を投与し、ストレス症状の改善と唾液中MHPG濃度の減少が相関するかどうか検討を加えた。ストレス症状はいずれの薬物においても有意に減少したが、その程度はalprazolamの方で著明であった。Alprazoiam投与を受けた患者のMHGP濃度は投与1適間後に有意に低下したが、tandospirone投与では、とくに関連性を認めなかった。これらの知見より、唾液MHPG濃度はストレス状態を敏感に反映する指標であること、また抗不安薬の効力を臨床的に評価するための客観的な指標になり得ることが明らかとなった。