- 著者
-
片山 悠樹
- 出版者
- 日本教育社会学会
- 雑誌
- 教育社会学研究 (ISSN:03873145)
- 巻号頁・発行日
- vol.95, pp.25-46, 2014
<p> 本稿の目的は「ものづくり」言説が工業教育にいかに受容されたのか,また「ものづくり」言説にどのような理念や価値が付与されてきたのか,その経緯を分析することである。<BR> 現在,多くの工業高校では教育目標として「ものづくり」が掲げられており,「ものづくり」教育は高い評価を受けている。工業教育≒「ものづくり」という認識は教師たちに共有されているといえる。ところが,こうした認識は最近まで自明ではなかった。というのも,かつて教師たちは「ものづくり」に批判的であったためである。なぜ現在の教師の認識と,過去の認識に違いが生じているのか。本稿では工業教育で「ものづくり」がいつ「自明」となり,その背後要因には何があるのかを明らかにする。<BR> 1970年から1980年代,工業高校の社会的地位は低下していたものの,教師は「科学的/批判的能力」の養成を重視し,「技能教育」に否定的であった。だが,1980年代後半以降,工業教育の専門性はさらに弱体化し,多くの教師は工業教育の専門性を教える自信を失っていく。<BR> このような状況のなか,工学教育の再考のため,教師は地域の中小企業との連携を模索しはじめる。1990年代後半,「ものづくり」の受容は中小企業の密集地帯で顕著にみられたが,2000年代に入ると,「ものづくり」言説に「教育的」価値が付与されることで,他の地域にも浸透していく。こうした過程を通して,工業教育のなかで「ものづくり」の「自明化」が進展したと推察される。</p>