著者
関根 康浩 河原 常郎 土居 健次朗 大森 茂樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】我々は第48回日本理学療法学術大会で下位胸郭の動きが体幹動作に影響する可能性を報告した。生体内では腹腔内圧を高める事で体幹が固定され上下肢筋力発揮は高まるとされる。意図的に腹腔内圧を高めやすくするものとして骨盤コルセットがあるが,自動で腹腔内圧を高める一つのパターンとして横隔膜を上昇させ肋骨下角を減少させる事がある。肋骨下角とは左右の肋骨弓の間にできる角度である。肋骨下角減少・下位胸郭の動きを制限するものとしてDainae Leeが提唱したChest Gripping(以下,CG)があり,これは上部腹筋の過緊張により肋骨下角が減少している(下位胸郭横径拡張不全)状態である。しかし前記の通り自動で肋骨下角を減少させる事で腹腔内圧は高まる事から,CGではなく骨盤コルセットのように他動で肋骨下角を減少させる事で腹腔内圧を高めやすくする事が可能ではないかと考えた。本研究の目的は,肋骨下角を他動および自動で減少させる事による上肢の筋発揮に対する影響を明らかにし,肋骨下角を減少させる事の意義を見出す事とした。【方法】対象は,整形外科的疾患がなく,呼吸器疾患を有さない,非喫煙者である健常成人男性11名(年齢23.4±2.1歳,BMI22.1±1.5)とした。肋骨下角は胸骨下端と両側の乳頭からの垂線と下位肋骨の交点がなす角度と定義した。計測は上肢は体側に下垂した立位にて安静時・最大吸気時・最大呼気時の角度をゴニオメーター(OG技研)にて計測した。筋力測定は肩関節外旋筋力を採用した。測定は,徒手筋力測定器IsoforceGT-310(OG技研)を用いた。端座位で測定側肩関節中間位・肘関節90°屈曲位・前腕90°回外位にて橈骨茎状突起にセンサーパッドが当たるようにした。被験者の正面には床に垂直なテープを貼った全身鏡を用意し,代償を抑制した。測定肢位は安静呼吸での正常群(以下,N群),バンドにて肋骨下角を他動で減少させた群(以下,P群),努力呼気とdrow-inにて肋骨下角を自動で減少させた群(以下,A群)の3肢位とした。P群では強制呼気最終での最小肋骨下角まで減少させた肢位で締め付けた。A群では努力呼気により胸椎が後弯しないよう指示をした。計測は5秒間かけて行い,各肢位で3回ずつ計測(休憩30秒間)を行った。各群間の差の有無は対応のある一元配置分散分析を用いて検証し,多重比較はBonferroni法を用いた。有意水準は5%未満とした。【結果】肋骨下角角度は安静時で87.9±7.9度,最大吸気で101.6±11.1度,最大呼気で79.8±7.8度であった。被験者の肩関節外旋筋力の平均値はN群で66.1±6.2N/kg,P群で62.1±11.0N/kg,A群で69.4±9.6N/kgであり,P群とA群との間で有意差を認めた(p=0.0089)。【考察】腹腔内圧を高めるには腹横筋,骨盤底筋群,横隔膜,多裂筋等が協調して働く必要がある。骨盤コルセットにより腹部を締め付ける事で主に体幹前後の筋(腹横筋・多裂筋)の代わりをし,圧迫された腹腔内圧は垂直方向へ逃げようとし骨盤底筋群・横隔膜を刺激する事で効率よく腹腔内圧を高める事ができる。また脊柱の良肢位の保持をする事でも腹腔内圧を高めやすくしていると考えられる。本研究でのP群は肋骨下角を減少させる事で胸椎後弯位になりやすく,横隔膜が弛緩しやすい状態であった為,腹腔内圧が高まりにくく肩関節外旋筋力発揮も有意に低下したのではないかと考える。A群では被験者に努力呼気の際に胸椎が後弯しないよう指示をしていたが,P群にはそのような指示をしていなかった事からも胸椎後弯姿勢になりやすかったと推察される。逆にP群で胸椎伸展を意識させて行わせる事で背部の多裂筋への刺激が高まり腹腔内圧の上昇が見られたのではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究により肋骨下角を他動で減少させる事は腹腔内圧を高める事を制限する可能性があり骨盤コルセットのような効果は得られない事が示唆された。肋骨下角を指標とした事については体表からのマニュアル計測とレントゲン画像上での計測結果でマニュアル計測での有意性を出す必要がある。

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肩甲骨と脊柱間の間の距離の参考値を知っておくのは大事。思わずメモメモ。 胸椎の過度の後弯の方には少ないかもですが、一見、肩甲骨が外転してなくても、肋骨下角が広がっている(正常は90度、参考文献

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