著者
中村 基彦 土居 健次朗 河原 常郎 大森 茂樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0226, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】歩行は日常生活でもっとも使用される移動手段である。歩行が自立することにより,様々な利点があるため,歩行自立の判断の重要性は高い。しかし,臨床現場において,歩行自立の判定には療法士の主観に頼ることが大きい。そのため,病院では転倒リスクや歩行自立の指標に対し,10m歩行,6分間歩行,Berg Balance Scale(以下BBS),Timed up & go test(以下TUG)などの検査項目を用いた報告が多くされているが,使用補助具,施設内環境などにばらつきが見られることが問題点として挙げられる。本研究は,10m歩行,6分間歩行にて歩行能力,BBS,TUGにてバランス能力を検討し,当院における歩行自立度を客観的に判定することを目的とした。10m歩行,6分間歩行,BBS,TUGとFunctional Independence Measure(以下FIM)の移動項目との関連性を検討し,各項目におけるカットオフ値を算出し,当院における歩行自立度の指標を確立する。【方法】対象は平成26年7月から平成26年10月まで季美の森リハビリテーション病院に入院した回復期脳卒中片麻痺患者のうち,10m歩行,6分間歩行,TUG,BBSの検査項目が実施可能な35名(男性22名,女性13名,平均年齢66.0±11.0歳)であった。検査の実施が困難となる高次脳機能障害や認知症を著しく伴うものは除外した。疾患の内訳は脳出血14名,脳梗塞21名であった。歩行自立度の評価は,FIMの移動項目を参考に,以下の検討をした。(1)歩行自立度は,自立群(FIM移動項目6レベル以上),非自立群(FIM移動項目5レベル以下の2群とし,歩行自立度と10m歩行,6分間歩行,TUG,BBSの平均値の差の有無を一元配置分散分析,Bonferroniの多重比較を用いて分析した。有意水準を5%未満とした。(2)歩行自立度を判断する10m歩行,6分間歩行,TUG,BBSそれぞれをReceiver Operating Characteristic Curve(以下ROC曲線)を用いてカットオフ値,ROC曲線下の面積,オッズ比を算出した。【結果】(1)歩行自立群は20名,FIM移動項目6.7±0.4点,10m歩行7.9±3.1秒,6分間歩行350.0±105.0m,TUG10.2±4.1秒,BBS54.2±2.9点,非自立群は15名,FIM移動項目4.3±15点,10m歩行29.7±25.5秒,6分間歩行143.0±79.0m,TUG29.6±21.0秒,BBS38.6±10.9点であった。10m歩行,6分間歩行,TUG,BBSの全ての項目において両群の有意差を認めた。(2)歩行自立におけるカットオフ値は,10m歩行:12.2秒(ROC曲線下の面積:0.947オッズ比:102.0),6分間歩行:200m(ROC曲線下の面積:0.929,オッズ比:60.0),TUG:18.8秒(ROC曲線下の面積:0.955,オッズ比:99.0),BBS:47点(ROC曲線下の面積:0.986,オッズ比:216.0)であった。【考察】本研究は回復期脳卒中片麻痺患者を対象として,歩行自立度を客観的に判断することを目的に検討した。本研究において,10m歩行,6分間歩行,TUG,BBS全ての項目が,歩行自立度を判断する機能評価項目として有効性を確認した。村永らは,回復期における歩行自立度のカットオフ値を,それぞれ10m歩行:11.6秒,6分間歩行:213m,TUG:13.5秒,BBS:45点と報告していた。本研究結果も類似する結果を得た。上記の項目の中で,BBSが他の3項目と比較し妥当性が高かった。丹羽らは,歩行自立度の改善は支持基底面での安定した重心移動の獲得により得られると述べており,バランス能力の改善の重要性を示唆している。BBSは計14項目からなり,静的バランス,動的バランスが組み合わさった複合的なバランス評価である。これは10m歩行,TUG,6分間歩行など単一の能力を検討する評価に比べ,歩行自立における重要な要素だと考えた。回復期脳卒中片麻痺患者において10m歩行,6分間歩行,TUG,BBSは歩行自立度を客観的に判断する評価基準として有効であると考えた。【理学療法学研究としての意義】本研究より回復期脳卒中片麻痺患者において,10m歩行,6分間歩行,TUG,BBSは歩行自立度を客観的に判断する上で有効な評価項目であることが示唆された。上記の4項目は,簡便に評価できるため,臨床現場に適した判断基準といえる。適切な歩行自立度を判断する基準として活用することで,院内における転倒事故や過剰な活動制限を減らすことに繋がり,臨床的意義は高いものと考えられる。当院には外出環境に配慮した施設も保有しており,今後は在宅復帰により近づけた屋外歩行自立度を測定する評価も加えていきたい。
著者
清田 有希 大森 茂樹 河原 常郎 土居 健次朗 倉林 準 門馬 博 八並 光信
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101860-48101860, 2013

【はじめに、目的】臨床では、Electrical Muscle Stimulation(以下EMS)を使用する機会は多い。EMSは、電気刺激によって筋収縮を起こし、筋ポンプ作用を働かせ、疲労物質の貯留が解消されることで、疲労が回復することが予想される。筋血管内の疲労物質は、この筋ポンプ作用により貯留が解消される。筋疲労は、最適な周波数と最適な刺激間間隔を定めることにより、筋ポンプ作用が促進され、筋疲労を回復させると考えられる。しかしEMSは、異なる周波数や刺激間間隔の違いにより筋疲労の回復に差が生じるかは不明な点が多い。本研究では、筋疲労を回復する最適周波数と最適刺激間間隔を比較し、筋疲労回復の電気治療の有効性について検討した。【方法】対象は、整形外科的、神経学的に問題のない健常成人24名、年齢27.2歳±4.0、BMI21.9±2.2であった。対象筋は、大腿直筋とした(電極:大腿四頭筋の筋腱移行部と大腿直筋のモーターポイント)。各療法の刺激間間隔は、1:1(5sec on:5sec off)、1:5(10sec on:50sec off)の2パターンとした。周波数は、1Hz、5Hz、10Hzの3パターンを行った。筋力測定は、対象の肢位をLeg Extension-Curl(HUR社製)の装置に股関節屈曲50°、膝関節屈曲60°、足関節背屈0°で固定した。最大筋力は、計測器PERFORMANCE RECORDER 9100(HUR社製)をLeg Extension-Curlに取り付け、大腿四頭筋の等尺性収縮での最大筋力を計測した。運動課題は、最大筋力測定時の膝伸展角度を制限として、最大筋力の40%の負荷量で膝関節の屈伸運動を行わせた。運動課題中は、メトロノーム(110bpm、4拍子)を使用し、4拍子目を最大伸展位となるように運動を行わせた。運動課題の終了は最大伸展位まで運動が行えない場合が2回続いた場合、運動課題中メトロノームのリズムから逸脱した場合とした。運動終了後、直ちに計測器で筋力の計測を行った。その後、マルチ電気治療器インテレクト アドバンス・コンポ2762CC(CHATTANOOGA GROUP社製)でEMSを各パラメータで20分間行った。電気刺激強度は、運動閾値の2倍の強度で行った。電気治療後、計測器により筋力の計測を行った。コントロール群は、EMSを施行せず、パッドを貼ったのみの施行を6人に行った。最大筋力を回復筋力で除したものを疲労回復率とし、統計処理は、コントロール群と各周波数の刺激間間隔群を比較した。有意水準は、5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】所属施設における倫理委員会の許可を得た。対象には、ヘルシンキ宣言をもとに、保護・権利の優先、参加・中止の自由、研究内容、身体への影響などを口頭および文書にて説明した。同意が得られた者のみを対象に計測を行った。【結果】刺激周波数別に疲労回復率を比較すると、疲労回復率は、1Hzの1:1は120.0%、1Hzの1:5は134.0%、5Hzの1:1は103.0%、5Hzの1:5は116.7%、10Hzの1:1は115.4%、10Hzの1:5は117.4%となった。コントロール群の回復率は102.0%となった。コントロール群と各周波数別の比較では、コントロール群と1Hzの1:5の群のみに有意な差(P<0.02)を認めた。【考察】疲労回復の度合いをみると、EMSを施行した場合とコントロール群では、EMSを施行した場合の方が疲労回復率は高かった。EMSを行うことで、筋肉の収縮が起こり、筋肉内の疲労物質である乳酸の流動が生じ、疲労回復が促進されたと考えられる。Lindstromらは、活動筋における血液循環が低下することによって、筋中に産生された乳酸が除去されにくくなったことにより筋疲労が起こるとある。市橋らは、主運動後に軽い運動を行なうと血液循環が改善され体内の化学反応が促進されて回復が高まることや運動後の血中乳酸の除去率をクーリングダウンと安静で比較すると軽い運動をした方が、除去率が高いことが報告されている。このことから、EMSにより筋収縮が起こることで疲労の除去が行えると考える。コントロール群と比較し、EMSの各パラメータでは、周波数1Hz、刺激間間隔1:5のものが疲労回復に大きく貢献していた。Bentonらは、電気刺激による筋収縮は生理的収縮より疲労しやすく、長めの休息を設定する必要があるといっている。刺激間間隔は、1:1よりも1:5のパラメータでEMSを施行した方が、有意に差が生じたと考える。【理学療法学研究としての意義】現在、電気療法のパラメータの違いによる筋に与える影響についての研究や疲労回復に関して電気療法を行った研究はまだまだ少ない状態である。本研究により、電気療法のパラメータの適切な選択や電気療法が筋疲労の回復にも影響があることを証明し、理学療法やスポーツ場面の治療法の一助となると考える。
著者
清田 有希 大森 茂樹 河原 常郎 土居 健次朗 倉林 準 門馬 博 八並 光信
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101860, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】臨床では、Electrical Muscle Stimulation(以下EMS)を使用する機会は多い。EMSは、電気刺激によって筋収縮を起こし、筋ポンプ作用を働かせ、疲労物質の貯留が解消されることで、疲労が回復することが予想される。筋血管内の疲労物質は、この筋ポンプ作用により貯留が解消される。筋疲労は、最適な周波数と最適な刺激間間隔を定めることにより、筋ポンプ作用が促進され、筋疲労を回復させると考えられる。しかしEMSは、異なる周波数や刺激間間隔の違いにより筋疲労の回復に差が生じるかは不明な点が多い。本研究では、筋疲労を回復する最適周波数と最適刺激間間隔を比較し、筋疲労回復の電気治療の有効性について検討した。【方法】対象は、整形外科的、神経学的に問題のない健常成人24名、年齢27.2歳±4.0、BMI21.9±2.2であった。対象筋は、大腿直筋とした(電極:大腿四頭筋の筋腱移行部と大腿直筋のモーターポイント)。各療法の刺激間間隔は、1:1(5sec on:5sec off)、1:5(10sec on:50sec off)の2パターンとした。周波数は、1Hz、5Hz、10Hzの3パターンを行った。筋力測定は、対象の肢位をLeg Extension-Curl(HUR社製)の装置に股関節屈曲50°、膝関節屈曲60°、足関節背屈0°で固定した。最大筋力は、計測器PERFORMANCE RECORDER 9100(HUR社製)をLeg Extension-Curlに取り付け、大腿四頭筋の等尺性収縮での最大筋力を計測した。運動課題は、最大筋力測定時の膝伸展角度を制限として、最大筋力の40%の負荷量で膝関節の屈伸運動を行わせた。運動課題中は、メトロノーム(110bpm、4拍子)を使用し、4拍子目を最大伸展位となるように運動を行わせた。運動課題の終了は最大伸展位まで運動が行えない場合が2回続いた場合、運動課題中メトロノームのリズムから逸脱した場合とした。運動終了後、直ちに計測器で筋力の計測を行った。その後、マルチ電気治療器インテレクト アドバンス・コンポ2762CC(CHATTANOOGA GROUP社製)でEMSを各パラメータで20分間行った。電気刺激強度は、運動閾値の2倍の強度で行った。電気治療後、計測器により筋力の計測を行った。コントロール群は、EMSを施行せず、パッドを貼ったのみの施行を6人に行った。最大筋力を回復筋力で除したものを疲労回復率とし、統計処理は、コントロール群と各周波数の刺激間間隔群を比較した。有意水準は、5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】所属施設における倫理委員会の許可を得た。対象には、ヘルシンキ宣言をもとに、保護・権利の優先、参加・中止の自由、研究内容、身体への影響などを口頭および文書にて説明した。同意が得られた者のみを対象に計測を行った。【結果】刺激周波数別に疲労回復率を比較すると、疲労回復率は、1Hzの1:1は120.0%、1Hzの1:5は134.0%、5Hzの1:1は103.0%、5Hzの1:5は116.7%、10Hzの1:1は115.4%、10Hzの1:5は117.4%となった。コントロール群の回復率は102.0%となった。コントロール群と各周波数別の比較では、コントロール群と1Hzの1:5の群のみに有意な差(P<0.02)を認めた。【考察】疲労回復の度合いをみると、EMSを施行した場合とコントロール群では、EMSを施行した場合の方が疲労回復率は高かった。EMSを行うことで、筋肉の収縮が起こり、筋肉内の疲労物質である乳酸の流動が生じ、疲労回復が促進されたと考えられる。Lindstromらは、活動筋における血液循環が低下することによって、筋中に産生された乳酸が除去されにくくなったことにより筋疲労が起こるとある。市橋らは、主運動後に軽い運動を行なうと血液循環が改善され体内の化学反応が促進されて回復が高まることや運動後の血中乳酸の除去率をクーリングダウンと安静で比較すると軽い運動をした方が、除去率が高いことが報告されている。このことから、EMSにより筋収縮が起こることで疲労の除去が行えると考える。コントロール群と比較し、EMSの各パラメータでは、周波数1Hz、刺激間間隔1:5のものが疲労回復に大きく貢献していた。Bentonらは、電気刺激による筋収縮は生理的収縮より疲労しやすく、長めの休息を設定する必要があるといっている。刺激間間隔は、1:1よりも1:5のパラメータでEMSを施行した方が、有意に差が生じたと考える。【理学療法学研究としての意義】現在、電気療法のパラメータの違いによる筋に与える影響についての研究や疲労回復に関して電気療法を行った研究はまだまだ少ない状態である。本研究により、電気療法のパラメータの適切な選択や電気療法が筋疲労の回復にも影響があることを証明し、理学療法やスポーツ場面の治療法の一助となると考える。
著者
河原 常郎 土居 健次朗 大森 茂樹 倉林 準
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0320, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】変形性膝関節症や半月板損傷による歩行は,膝関節の疼痛を訴えるケースが多い。このような症例に対して,歩隔を大きくした歩行(以下,WB歩行)は,膝関節における疼痛の軽減につながることが多くあった。本研究は,WB歩行を運動学的に解析し,その有用性を検討することを目的とした。【方法】対象は整形外科的,神経学的疾患の無い健常成人男性11名(年齢25.6±2.8歳)とした。使用機器は,VICON MXシステム(Vicon Motion System:カメラ7台,200Hz),床反力計(AMTI2枚,1,000Hz),使用ソフトはVICON NEXUS 1.7.1とした。運動課題は歩行動作とし,両踵骨間の距離を,①N:規定なし,②W:左右上前腸骨棘間距離,③WH:②の1.5倍の3パターンとした。マーカは,15体節(頭部,体幹,骨盤,左右の上腕,前腕,手部,大腿,下腿,足部)の剛体リンクモデルを用い,35点を貼付した。解析項目は,歩隔,足角,歩幅,歩行速度,ケイデンス,下肢(股関節,膝関節,足関節)関節角度,関節モーメント,身体重心(COG)位置とした。計測は右脚立脚期に行った。計測時間は,自然3次スプライン補間を用いて,各データのサンプル系列から,全データのサンプル数が同じ長さになるようにデータを正規化した。統計処理は,一元配置の分散分析後,有意差を認めたものに対して多重比較Bonferroni法にて検証した。【結果】1)歩隔:歩隔は,N:93.7±31.0mm,W:288.5±33.3mm,WH:429.0±47.1mmであり,各歩行パターン間に有意差を認めた。2)歩行速度:歩行速度は,N:72.1±5.3m/min,W:70.1±6.4m/min,WH:72.6±7.2m/minであり,各歩行パターンに有意差を認めなかった。3)歩幅,足角,ケイデンス:歩幅は,N:596.0±36.1mm,W:575.4±49.9mm,WH:644.0±31.3mm,足角は,N:5.8±5.1°, W:4.0±2.9°, WH:10.1±3.0°であった。WHはN,Wに対して有意に大きい値を示した。ケイデンスはN:121.1±7.4steps/min,W:122.0±6.2steps/min,WH:112.5±8.2steps/minであった。WHはN,Wに対して有意に小さい値を示した。4)関節角度,モーメント:股関節における関節角度は,立脚期を通して,歩隔の増大に伴い,外転角度増大,外旋角度減少を示した。関節モーメントは,立脚期を通して,歩隔の増大に伴い,股関節内転モーメント(N:760.5±17.9Nmm,W:563.2±53.9Nmm,WH:342.1±84.2Nmm)・膝関節内反モーメント(N:668.3±61.1Nmm,W:599.5±54.2Nmm,WH:555.1±119.2Nmm)減少,足関節内反モーメント(N:34.6±8.5Nmm,W:108.8±22.1Nmm,WH:211.4±16.1Nmm)増大を示した。歩行周期において,WHは,初期接地から荷重応答期にN,Wと比較して股関節内転・内旋モーメント,膝関節内反モーメント減少を示した。その他の関節角度,関節モーメントは,各歩行パターン間において有意差を認めなかった。またWHは,立脚終期に,N,Wと比較して足関節背屈角度減少,股関節内転・外旋モーメント・膝関節内反・外旋モーメント・足関節外転モーメント減少を示した。5)COG:COGの側方変位量は,N:29.9±11.4mm,W:34.6±10.2mm,WH:76.0±11.0mmとなり,歩隔の拡大に伴い増加を示した。重心側方変位の増加量は,歩隔の増加量と比較して減少した。COGの鉛直変位量は,N:37.9±7.2mm,W:38.1±6.0mm,WH:39.0±7.4mmとなり,各歩行パターン間に有意差を認めなかった。【考察】WB歩行による歩隔の拡大は,膝関節内反・外旋モーメントを小さくした。その量は,軽く足を開く程度のWにて約1割,さらに足を開くWHにて約3割のモーメントの減少が可能であった。WB歩行は,変形性膝関節症(内側型),内側半月板損傷などの有痛性膝関節疾患のケースにおいてストレスとなる関節運動の制御が「安全」かつ「容易」に可能であるという点で有効であるという事が示唆された。ただし本研究は,対象を健常成人としており,WHは,N,Wと比較してケイデンス減少を示したものの,歩行速度が変わらず,歩幅は増大を示した。また,WB歩行はCOGの側方変位過多や足関節内反モーメント増大など,デメリットの要素も残しており,完全な安定した歩行戦略であるとは言い切れないことがわかった。【理学療法学研究としての意義】今回,我々はWB歩行の解析を行い,その運動学的な特徴を示した。その中でWB歩行は,歩行時の膝関節のストレスが軽減することを明らかにした。このことは変形性膝関節症における疼痛回避の一手段となりうる可能性が示唆された。
著者
佐藤 洋介 高尾 昌幸 近藤 拓也 大森 茂樹 斉藤 剛史 三宅 英司 門馬 博 倉林 準 八並 光信
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ca0271, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 我々は、第46回日本理学療法学術大会でバドミントン選手において、股関節内転可動域は立位での回旋動作に影響することを報告した.体幹の動作解析は、前後屈における腰椎骨盤リズムなど矢状面上の解析が多く報告されているが、回旋動作の動作解析を報告したものは少ない状況である.体幹の回旋動作は日常生活、スポーツでも頻繁に行われる動作であり、同動作で症状を訴える症例は臨床でもよく経験する.それらの症例を前にして、体幹の回旋動作に影響する因子を知っておくことは、障害予防・パフォーマンス向上においても重要であると思われる.本研究は、健常成人を対象に回旋動作の2次元動作解析を行い、メディカルチェック(以下、MC)との関連性を明らかにし、評価・治療の一助とすることを目的とした.【方法】 対象は立位における体幹回旋動作で痛みが生じない健常成人47名(男性37名、女性10名、平均年齢25.4±3)とした.静止画撮影は、デジタルカメラ(HIGH SPEED EXILIM EX-ZR 10BK、CASIO)を用い、反射マーカを両側肩峰・両側第5肋骨・両上前腸骨棘の計6点に貼り、正面から行った.運動課題は、足隔を肩幅に開いた静止立位から体幹の立位最大回旋動作を行った.運動課題時は、体幹回旋時に肩甲帯の前方突出を防ぐため、上肢を固定した.さらに口頭にて足底全面接地、両膝関節伸展位保持を指示し、確認しながら計測を行った.得られた画像に対して画像処理ソフトウェアImageJで各反射マーカの座標を求め、肩峰・肋骨・上前腸骨棘レベルにおいて静止画像と体幹回旋後の画像から左右のマーカの直線距離を算出し、三角関数を用いて回旋角度を求めた.MCは、関節可動域表示ならびに測定法:日本リハビリテーション医学会(以下、ROM)に準じた方法で、座位体幹回旋、股関節内転、股関節内旋(背臥位)の可動域を測定した.さらに腹臥位で膝関節90度における股関節内旋(以下、股関節内旋(腹臥位))可動域を測定した.得られた座位体幹回旋、股関節内転、股関節内旋(背臥位)の可動域は、関節可動域の参考可動域を基準として、制限がある群とない群の2群に分類した.股関節内旋(腹臥位)の可動域はこの計測データにおける中央値を基準に、制限がある群とない群の2群に分類した.体幹の立位最大回旋動作時の肩峰・第5肋骨・上前腸骨棘の各レベルに対する回旋角度について、一元配置分散分析を行い、要因の主効果が認められた場合に多重比較検定を行った.有意水準は危険率5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 所属法人における倫理委員会の許可を得た.対象には、ヘルシンキ宣言をもとに、保護・権利の優先、参加・中止の自由、研究内容、身体への影響などを口頭および文書にて説明した.同意書に署名が得られた対象について計測を行った.【結果】 座位体幹回旋制限群と股関節内旋(腹臥位)制限群の双方は、肩峰、第5肋骨、上前腸骨棘の各レベルにおいて有意差を認めた(P<0.05).股関節内転可動域制限群は、肩峰レベルでのみ有意差が認められた(P<0.05).背臥位での股関節内旋可動域制限群は各レベルで有意差を認めなかった.【考察】 前回報告したバドミントン選手における傾向と同様に、体幹の立位最大回旋動作は、股関節内転が参考可動域より下回ることで、制限を受けることが認められた。体幹の立位最大回旋動作と股関節内旋(腹臥位)とで関連性が認められた.股関節内旋(腹臥位)は、測定肢位が股関節中間位であり、股関節周囲の軟部組織における緊張が、立位と同様である点が反映したものと考えられた.股関節内旋(背臥位)と体幹の立位最大回旋動作で関連性が見られなかったのは、股関節内旋可動域(背臥位)は股関節屈曲位で測定するため、軟部組織の緊張や股関節面の適合度が立位での回旋動作と異なったためと考えられた. 今回の結果では、座位体幹回旋と股関節内旋可動域(腹臥位)と、体幹の立位最大回旋動作との関連が考えられた.股関節内旋可動域(背臥位)は立位での体幹回旋動作と関連しないと考えられた.体幹の立位最大回旋動作は、股関節中間位における関節面適合度と股関節周囲における軟部組織の影響が及ぶと考えられた.同じ股関節の運動で、肢位によって関連性に差がみられたことから、各種作業やスポーツ動作それぞれに応じた姿勢で評価しなければ動作を反映しているとは言い難く、姿勢に合わせた評価・治療が重要であると考えた.【理学療法学研究としての意義】 体幹の回旋動作は日常生活、スポーツ動作でも頻繁に行われる動作である.今回の実験結果から、立位での体幹回旋動作は体幹回旋可動域と腹臥位での股関節内旋に着目していく必要性が示唆された.
著者
関根 康浩 河原 常郎 土居 健次朗 大森 茂樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】我々は第48回日本理学療法学術大会で下位胸郭の動きが体幹動作に影響する可能性を報告した。生体内では腹腔内圧を高める事で体幹が固定され上下肢筋力発揮は高まるとされる。意図的に腹腔内圧を高めやすくするものとして骨盤コルセットがあるが,自動で腹腔内圧を高める一つのパターンとして横隔膜を上昇させ肋骨下角を減少させる事がある。肋骨下角とは左右の肋骨弓の間にできる角度である。肋骨下角減少・下位胸郭の動きを制限するものとしてDainae Leeが提唱したChest Gripping(以下,CG)があり,これは上部腹筋の過緊張により肋骨下角が減少している(下位胸郭横径拡張不全)状態である。しかし前記の通り自動で肋骨下角を減少させる事で腹腔内圧は高まる事から,CGではなく骨盤コルセットのように他動で肋骨下角を減少させる事で腹腔内圧を高めやすくする事が可能ではないかと考えた。本研究の目的は,肋骨下角を他動および自動で減少させる事による上肢の筋発揮に対する影響を明らかにし,肋骨下角を減少させる事の意義を見出す事とした。【方法】対象は,整形外科的疾患がなく,呼吸器疾患を有さない,非喫煙者である健常成人男性11名(年齢23.4±2.1歳,BMI22.1±1.5)とした。肋骨下角は胸骨下端と両側の乳頭からの垂線と下位肋骨の交点がなす角度と定義した。計測は上肢は体側に下垂した立位にて安静時・最大吸気時・最大呼気時の角度をゴニオメーター(OG技研)にて計測した。筋力測定は肩関節外旋筋力を採用した。測定は,徒手筋力測定器IsoforceGT-310(OG技研)を用いた。端座位で測定側肩関節中間位・肘関節90°屈曲位・前腕90°回外位にて橈骨茎状突起にセンサーパッドが当たるようにした。被験者の正面には床に垂直なテープを貼った全身鏡を用意し,代償を抑制した。測定肢位は安静呼吸での正常群(以下,N群),バンドにて肋骨下角を他動で減少させた群(以下,P群),努力呼気とdrow-inにて肋骨下角を自動で減少させた群(以下,A群)の3肢位とした。P群では強制呼気最終での最小肋骨下角まで減少させた肢位で締め付けた。A群では努力呼気により胸椎が後弯しないよう指示をした。計測は5秒間かけて行い,各肢位で3回ずつ計測(休憩30秒間)を行った。各群間の差の有無は対応のある一元配置分散分析を用いて検証し,多重比較はBonferroni法を用いた。有意水準は5%未満とした。【結果】肋骨下角角度は安静時で87.9±7.9度,最大吸気で101.6±11.1度,最大呼気で79.8±7.8度であった。被験者の肩関節外旋筋力の平均値はN群で66.1±6.2N/kg,P群で62.1±11.0N/kg,A群で69.4±9.6N/kgであり,P群とA群との間で有意差を認めた(p=0.0089)。【考察】腹腔内圧を高めるには腹横筋,骨盤底筋群,横隔膜,多裂筋等が協調して働く必要がある。骨盤コルセットにより腹部を締め付ける事で主に体幹前後の筋(腹横筋・多裂筋)の代わりをし,圧迫された腹腔内圧は垂直方向へ逃げようとし骨盤底筋群・横隔膜を刺激する事で効率よく腹腔内圧を高める事ができる。また脊柱の良肢位の保持をする事でも腹腔内圧を高めやすくしていると考えられる。本研究でのP群は肋骨下角を減少させる事で胸椎後弯位になりやすく,横隔膜が弛緩しやすい状態であった為,腹腔内圧が高まりにくく肩関節外旋筋力発揮も有意に低下したのではないかと考える。A群では被験者に努力呼気の際に胸椎が後弯しないよう指示をしていたが,P群にはそのような指示をしていなかった事からも胸椎後弯姿勢になりやすかったと推察される。逆にP群で胸椎伸展を意識させて行わせる事で背部の多裂筋への刺激が高まり腹腔内圧の上昇が見られたのではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究により肋骨下角を他動で減少させる事は腹腔内圧を高める事を制限する可能性があり骨盤コルセットのような効果は得られない事が示唆された。肋骨下角を指標とした事については体表からのマニュアル計測とレントゲン画像上での計測結果でマニュアル計測での有意性を出す必要がある。
著者
齊藤 匠 土居 健次朗 河原 常郎 大森 茂樹 倉林 準 門馬 博 八並 光信
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1133, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】神経モビライゼーション(以下NM)とは末梢神経系の感受性,伸張性,運動性を改善する手技であり,その目的には疼痛やしびれの改善,二次的障害の予防がある。NMによって神経伝導速度低下との関係性が示されている。しかし,理学療法分野で臨床的指標となる,筋力や可動性について十分な検証がなされていない。本研究は橈骨神経NMの手関節背屈筋力と手関節掌屈角度に対しての効果を検証することを目的とした。【方法】対象は,健常成人18人(男性15人女性3人:25.8±3.9歳)とした。測定装置は,徒手筋力測定器IsoforceGT-310(OG技研),ストップウォッチ(CASIO HS-70W)とした。NMの対象は利き手側の橈骨神経とした。手法はMaitlandConceptのgrade4の位置から,ULTT2bを選択した。神経の伸張は頸部の側屈を行って確認し,10秒間の伸張位を保持した。NM施行前後に筋の伸長度,筋出力を測定した。筋の伸長度は日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会が制定した関節可動域測定法を参考に,手関節掌屈の角度を測定した。筋出力は手関節背屈筋群の等尺性収縮にて計測した。測定肢位は,椅子座位となり,机の上に前腕を置き,肘関節屈曲90°,肩関節内外旋および,前腕中間位とし,手関節中間位,手指屈曲位とした。解析は可動域と筋力それぞれのNM前群とNM後群の差を検証した。さらに,手関節掌屈の可動域の値の変化をもとに,母集団をA,Bの2群に分け検証した。A群は手関節掌屈可動域の変化量が平均値以上のものとし,平均値以下のものをB群とした。統計処理は対応のある一元配置分散分析とし,有意水準は5%未満とした。【論理的配慮,説明と同意】所属施設における倫理委員会の許可を得た。対象には,ヘルシンキ宣言をもとに,保護・権利の優先,参加・中止の自由,研究内容,身体への影響などを口頭および文書にて説明し同意が得られた者のみを対象に計測を行った。【結果】手関節掌屈の可動域の平均は,NM前は70.9±8.1度,NM後は76.3±7.6度と増加し有意差を認めた(p<0.05)。筋出力の平均は,NM前は1.5±0.3N/kg,NM後は1.7±0.4N/kgと増加したが,有意差は認めなかった。NM前後の手関節掌屈の可動域変化量は,5.4±2.5度であり,筋出力変化量は0.2±0.3N/kgであった。NM後の可動域と筋出力の変化は弱い相関が認められた(r=0.5)。手関節掌屈可動域の変化量は平均5.4度であり,A群7名,B群11名であった。NM前後の筋出力変化量はA群:21.6±19.5Nkg,B群:6.5±23.3N/kgであり,AB間に有意差を認めた(p<0.05)。【考察】NMを行う事で,神経線維の緊張が緩み,神経の伝導速度は低下することが言われている。その際に,神経のみならず周辺組織の緊張が緩むことで全体として可動域の向上がみられたと考えられた。筋出力はNM前後で統計学的有意差は得られなかったが,ほぼ全対象でNM後の増加を確認した。また,A群はB群と比較し筋出力の変化量が大きくなった。A群はNM後の反応が大きかったことから,運動の阻害要素に神経線維が貢献する割合が大きかったと考えた。可動域がNMに対して反応を示す場合は,適度なNMにより筋出力を促す可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究よりNMは可動域・筋力に対し有効な結果をもたらすことが示唆された。しかしながら,適切な伸長の強度,持続時間,頻度など検討すべき項目は残存している。近年,超音波診断装置の普及が目覚ましい。これらの計測装置をNMと併用することで,より客観的かつ効果的な治療の提供につながるものと考えられる。
著者
齊藤 匠 土居 健次朗 河原 常郎 大森 茂樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0599, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】筋出力に影響する要因は,神経と筋肉の2つに分けられる。我々は第49回全国理学療法士学術大会において,神経モビライゼーション(以下NM)が筋出力向上に影響することを報告した。一方,ストレッチングにおいても,筋出力向上に影響があると報告した研究は多い。臨床においてストレッチングやNMは多く用いられる手技だが,筋出力に対する各々の効果は明らかではない。本研究はNMとストレッチングが筋出力に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,健常成人男性13名(24.5±1.9歳)とし利き足側の下肢に対し計測を実施した。使用機器は,イージーテックプラス(Easy tech),ストップウォッチ(CASIO),メトロノーム(KORG)とした。膝関節屈曲・伸展の筋出力計測は等尺性収縮,等速性収縮の2つの収縮形態で行った。筋出力は等尺性収縮の屈曲最大トルク,等速性収縮の屈曲・伸展最大トルク,屈曲・伸展最大パワーを評価した。等尺性収縮は計測肢位を股関節90度,膝関節60度に設定し,10秒間収縮を行った。等速性収縮の設定では,反復回数を5回,角速度を屈曲・伸展90度と設定した。各測定は開始5秒前から声掛けを行い,測定中は必要な声掛け以外行わず,静かな環境で行った。筋出力はNM,ストレッチング前後で計測した。検者はベッド上にて体幹,非検査側の大腿部,足部をベルトで固定しNM,ストレッチングを実施した。NMは坐骨神経を対象とした。Maitland Conceptのgrade4を参考に,膝関節伸展位,股関節屈曲位にて,足関節背屈を行い,2Hzの反復伸張刺激を10秒間与えた。ストレッチングは,ハムストリングスを対象とした。股関節・膝関節90度屈曲位から膝関節伸展を行った。伸張度は,痛みを感じない最大伸張位を至適強度とし,時間は6秒間保持した。解析は,各パラメータでNM前後とストレッチング前後の筋出力の差を算出し2施行間で比較した。また,NMとストレッチングで最大トルクと最大パワーそれぞれの屈曲と伸展に及ぼす差を検討するため,NMとストレッチングの差分を屈曲トルク・伸展トルク間,屈曲パワー・伸展パワー間で比較した。統計は二元配置分散分析にて検討した。測定した筋出力の値は体重で正規化した。Bonferroniの多重比較検定を実施し,有意水準は5%未満とした。【結果】等尺性収縮において,最大トルクはストレッチング-0.014±0.29N/kg,NM0.013±0.18 N/kgで有意差は認めなかった。等速性収縮において最大トルク(屈曲/体重)はストレッチング0.013±0.129 N/kg,NM0.024±0.139 N/kgで,有意差を認めなかった。最大トルクは(伸展/体重)ストレッチング0.025±0.153N/kg,NM0.044±0.248 N/kgで有意差は認めなかった。最大パワー(屈曲)はストレッチング7.3±22.7 N/kg,NM2.4±19.6 N/kgで有意差は認めなかった。最大パワー(伸展)はストレッチング-0.4±15.4 N/kg,NM9.6±31.07 N/kgで有意差は認めなかった。ストレッチングとNMの差分において最大屈曲トルク-0.0108 N/kg最大伸展トルク-0.018N/kgで有意差を認めなかった。最大屈曲パワー4.9N/kg最大伸展パワー-10.15 N/kgで有意差を認めた(P<0.05)。【考察】等尺性収縮においてストレッチングとNMの影響に違いは認めなかった。等速性収縮においてもストレッチングとNMの影響に違いは認めなかった。ストレッチングとNMが主動作筋である屈曲筋力と拮抗筋である伸展筋力に及ぼす作用でみた場合,最大屈曲パワーと最大伸展パワーに有意差を認めた。ストレッチングは膝関節伸展パワーと比較し膝関節屈曲パワーに有効的に働き,NMは膝関節屈曲パワーと比較し膝関節伸展パワーに有効に働くことが示唆された。最大トルクに対しては屈曲と伸展による差はなかった。パワーは単位時間あたりの筋発揮であり,速度を要する動作においてストレッチングとNMを有効的に使い分けることが可能だと考えた。NMは神経線維の緊張が弛み,神経伝導速度は低下すると言われている。介在ニューロンに対して刺激を与え,前角細胞の電位を下げ,膝関節屈曲筋活動を抑制し,伸展筋力が増加傾向になると示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究よりハムストリングスのストレッチングは膝関節屈曲の筋出力に対し有効な結果をもたらし,NMは膝関節伸展の筋出力に有効な結果をもたらす事が示唆された。ストレッチングとNMは分けて行う事で,治療の幅を広げる事が考えられる。スポーツ現場では,双方を調整する事で効果的な筋出力向上が考えられる。今後はNMの変化・対象について,検証する必要があると考えられる。
著者
斎藤 剛史 大森 茂樹 河原 常郎 倉林 準 八並 光信
出版者
バイオフィリア リハビリテーション学会
雑誌
バイオフィリア リハビリテーション学会研究大会予稿集 (ISSN:18848699)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.44-44, 2010

【目的】本研究は手関節と前腕における前腕回内外、手関節掌背屈の姿勢変化について、明らかにする事を目的とした.【対象】対象は前腕及び手関節に既往がない健常成人とした.【方法】前腕と手の姿勢変化について、3次元動作解析装置を用いて、6自由度で計測を行った.運動課題は肘関節90度屈曲位で、前腕回内外運動、前腕回内外中間位、最大回内位、最大回外位の各3肢位で手関節掌屈、背屈運動を施行した.【結果】前腕の回内位では、手関節背屈に比し、掌屈の方が明らかに大きいと言えた.また、手関節の掌屈角度は、前腕回内位に比して、回外位でより大きくなった.【考察】上肢全体の柔軟性を考える際には前腕の肢位を考慮した上で、日常生活動作や上肢機能の評価を行う必要があることが示唆された.