著者
櫻庭 陽子 友永 雅己 林 美里
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

京都大学霊長類研究所には14個体のチンパンジーが群れでくらしている。そのうち、レオというオトナの男性は、2006年に脊髄炎を発症し、四肢麻痺から寝たきりの生活になった。その後スタッフの懸命な治療と介護の結果、寝たきりの状態から自力で起き上がるまでに回復した。2009年には狭い治療用ケージから広い部屋に移動し、歩行やブラキエーションなどの移動ができるようになった。2009年11月から環境エンリッチメントとリハビリテーションを兼ねた、コンピュータ制御による認知課題を導入した。毎日午前(10~12時)と午後(14~16時)に自動的にPCが起動し、問題に正解すると少し離れたところから食物小片1個が提示される。この報酬をとるためにはモニターから離れて数m歩かなければならない。本発表では、蓄積された2010年と2011年のデータから、このチンパンジーの行動について、特に「正答率」「実施した試行数」「課題を開始するまでの時間」に注目して分析をおこなった。その結果、正答率は2010年では午前と午後の違いは見られなかったが、2011年には午後の方が有意に高かった。また2年間を通して、実施した試行数は午後の方が有意に多く、課題を開始するまでの時間は午前の方が有意に長かった。実施試行数と開始時間からは、午前の方が午後よりも課題に対するモチベーションが低いため、試行数が少なくなり課題が始まってもすぐにおこなおうとしないことが考えられる。それにもかかわらず、2010年では午前と午後で成績に差がなかったことから、モチベーションが成績そのものに大きな影響を与えないことも考えられる。リハビリテーションをおこなう上でモチベーションを維持することは重要である。今後は課題の難易度や食物報酬の質などの操作をおこなうとともに、行動観察をおこない、モチベーションの変動をもたらす要因について検討していく。

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