著者
山梨 裕美 小倉 匡俊 森村 成樹 林 美里 友永 雅己
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.73-84, 2016-06-25 (Released:2016-12-27)
参考文献数
73

母子分離は心身の健全な発達を妨げることが知られてきた。特に大型類人猿など、成育期間が長く幼少期の母子の結びつきが強い動物種においては影響が大きい。実際に人工保育されたチンパンジーは交尾や子育て行動が適切に発現できない、社会行動が変容するなど一生を通じた影響がみられる。そのため動物福祉・保全の観点から、不必要な人工保育は避けるべきである。またたとえ人工保育をおこなったとしても、できる限り早く群れに戻すことが必要であり、そうした事例が蓄積されている。しかしエンターテイメントショーには母子分離や人工保育を助長しやすい問題点が存在し、さらに動物の正しい理解が伝わらない問題点が指摘されている。今後、科学的な知見をもとにしたチンパンジーに適した飼育管理を推進するためには、人工保育やその後の群れ復帰などに関する基準の議論や施設間が連携して問題解決にあたれるような体制づくりなどが重要である。
著者
松沢 哲郎 山本 真也 林 美里 平田 聡 足立 幾磨 森村 成樹
出版者
京都大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2016-04-26

人間を特徴づける認知機能の特性を知るうえで、それらが「どのように進化してきたか」という理解が必要不可欠である。本研究は、言語と利他性こそが人間の子育てや教育や社会といった本性の理解に不可欠だという視点から、①人間にとって最も近縁なチンパンジー属2種(チンパンジーとボノボ)とその外群としてのオランウータン、さらにその外群としてのウマやイヌを研究対象に、②野外研究と実験研究を組み合わせ、③知識や技術や価値とその社会的伝播や生涯発達に焦点をあてることで、人間の本性の進化的起源を明らかにすることを目的とした。チンパンジーの野外研究はギニアのボッソウの1群7個体、実験研究は霊長類研究所の1群13個体と京大熊本サンクチュアリの58個体が主な対象だ。ボノボの野外研究はコンゴの1群27個体、実験研究は熊本サンクチュアリに導入した1群6個体が対象だ。これに、母子だけで暮らす社会を営むオランウータンを外群とし、ボルネオのダナムバレイの野生群、マレー半島のオランウータン島で研究をおこなった。ポルトガルの野生ウマの研究が軌道に乗った。新しい研究手法の開発として、ドローンを利用した空撮で野生チンパンジーや野生ウマの研究を始めた。実験研究のトピックスは、研究代表者らが世界に先駆けて発見したチンパンジー特有の超短期記憶の研究、アイトラッカーによる視線検出、色の命名課題にみるシンボルの形成、チンパンジーには困難といわれる循環的関係の理解、感覚間一致、共感性の基礎にある同期行動などである。個体レベルでの認知機能の研究を基盤に、比較認知科学大型ケージを活用した集団場面での行動の解析を手がけた。野外研究では、チンパンジー、ボノボ、オランウータン、キンシコウ、野生ウマを対象として、毛づくろいや近接関係など社会交渉の解析を通じて社会的知性の研究を推進した。
著者
堀尾 文彦 村井 篤嗣 小林 美里
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

ビタミンC(VC)生合成不能のODSラットにVC無添加飼料を8日間与えた時期には欠乏症状は全く発症していないが、LPS誘発性敗血症を引き起こすと5.5%という極めて低い生存率であった。それに対して、最小必要量のVCの摂取は生存率を39%にまで上昇させ、ビタミンC摂取が敗血症防御効果のあることを初めて示した。さらに特筆すべきことは、最小必要量の10倍の高用量のビタミンC摂取は生存率を61%にまで改善させ、高用量VC摂取が敗血症に対して有効な防御手段であることを示した。このVCの作用は、LPSによる血中単核球でのTNFαおよびIL-1βの産生上昇の抑制によることを示唆する結果も得た。
著者
堀尾 文彦 村井 篤嗣 小林 美里
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

ビタミンCであるアスコルビン酸(AsA)の欠乏時には肝臓のヘムタンパク質であるシトクロムP-450(CYP)が減少し、薬物代謝能が低下する。しかし、このAsAの作用機構は明らかではなかった。本研究の結果、AsA生合成不能のODSラットのAsA欠乏時には肝臓のヘム分解の律速酵素であるヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の発現上昇が起こることを見出し、それに続いてCYP量の減少することを証明された。そして、AsA摂取下でもHO-1誘導剤投与が肝CYP量の減少させることを見出した。本研究により、AsA欠乏によりヘム分解が亢進して肝CYP量の減少をもたらすというAsAの新規な生理機能を提唱できた。
著者
櫻庭 陽子 友永 雅己 林 美里
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

京都大学霊長類研究所には14個体のチンパンジーが群れでくらしている。そのうち、レオというオトナの男性は、2006年に脊髄炎を発症し、四肢麻痺から寝たきりの生活になった。その後スタッフの懸命な治療と介護の結果、寝たきりの状態から自力で起き上がるまでに回復した。2009年には狭い治療用ケージから広い部屋に移動し、歩行やブラキエーションなどの移動ができるようになった。2009年11月から環境エンリッチメントとリハビリテーションを兼ねた、コンピュータ制御による認知課題を導入した。毎日午前(10~12時)と午後(14~16時)に自動的にPCが起動し、問題に正解すると少し離れたところから食物小片1個が提示される。この報酬をとるためにはモニターから離れて数m歩かなければならない。本発表では、蓄積された2010年と2011年のデータから、このチンパンジーの行動について、特に「正答率」「実施した試行数」「課題を開始するまでの時間」に注目して分析をおこなった。その結果、正答率は2010年では午前と午後の違いは見られなかったが、2011年には午後の方が有意に高かった。また2年間を通して、実施した試行数は午後の方が有意に多く、課題を開始するまでの時間は午前の方が有意に長かった。実施試行数と開始時間からは、午前の方が午後よりも課題に対するモチベーションが低いため、試行数が少なくなり課題が始まってもすぐにおこなおうとしないことが考えられる。それにもかかわらず、2010年では午前と午後で成績に差がなかったことから、モチベーションが成績そのものに大きな影響を与えないことも考えられる。リハビリテーションをおこなう上でモチベーションを維持することは重要である。今後は課題の難易度や食物報酬の質などの操作をおこなうとともに、行動観察をおこない、モチベーションの変動をもたらす要因について検討していく。
著者
林 美里
出版者
日本動物心理学会
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.29-37, 2016 (Released:2016-06-27)
参考文献数
69
被引用文献数
2

Great apes have prolonged dependent period and learn a variety of skills and knowledge through intensive interaction with the mother based on affectionate bond between them. Among four species of great apes, both chimpanzees and orangutans use tools in the wild based on their skills of object manipulation and cognitive development which is gradually formed through mother-infant interactions. Researchers found the effectiveness of human intervention and support to promote mother-rearing in captive great apes despite of initial maternal problems. Compared to African great apes, orangutans have solitary lifestyle and the longest dependent period of about 7-8 years indicating the higher reliance on the other. Orang Utan Island (OUI) is a facility open to public and located in Bukit Merah, Perak, Peninsula Malaysia. OUI holds 26 orangutans and has been promoting rehabilitation program as an effort of ex-situ conservation. Orangutan mothers are now practicing infant rearing in OUI and in semi-natural environment in adjacent BJ Island. The importance of mother-infant interaction as a base for cognitive development should be widely recognized among animal researchers and keepers for promoting mother-rearing in captive settings.
著者
友永 雅己 森阪 匡通 伊村 知子 中原 史生 林 美里 田中 正之 足立 幾磨
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2011-05-31

チンパンジーなどの大型類人猿とハンドウイルカなどの鯨類を主たる対象として、われわれ人間の知性の進化を、特に系統発生的制約と環境適応という観点から比較認知科学の手法を駆使して検討を行ってきた。研究は、物理的世界および社会的世界の知覚・認識・理解に関して様々な観点から多様な種を対象に実施された。その結果、基礎的視知覚、空間認識における身体的制約、イルカ類における道具使用的行動、概念的メタファーの理解、他個体認識、聴覚コミュニケーションの種特異性と一般性、オランウータンやイルカにおける向社会行動の発現過程、チンパンジー、オランウータン、イロワケイルカにおける母子間関係の発達的変化を明らかにした。
著者
林 美里
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ヒトにもっとも近縁なチンパンジーを対象とした比較発達研究をおこなった。物を操作する行動を指標として、チンパンジーとヒトの発達過程を直接比較した。形の異なる積木をつむという物理的な特性の理解などの項目では、チンパンジーとヒト幼児の類似性が示された。一方で、社会的・恣意的な要因がかかわる課題はチンパンジーにとって獲得が困難だった。物を介した社会的な他者とのかかわりが、ヒトの発達に影響を与えている可能性が示唆された。
著者
松沢 哲郎 ハムル タチアナ クープス カテリーナ ビロ ドラ 林 美里 ソウザ クローディア 水野 友有 加藤 朗野 山越 言 大橋 岳 杉山 幸丸 クールマ マカン
出版者
Primate Society of Japan
雑誌
霊長類研究 = Primate research (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.45-55, 2004-06-30
被引用文献数
1 15

The present paper reports the death of wild chimpanzees through a flu-like epidemic at Bossou, Guinea, West Africa. The community at Bossou has been studied continuously since 1976. Records from the past 28 years show that the number of chimpanzees in the Bossou community has been relatively stable, at around 20 individuals. In late November 2003, chimpanzees at Bossou began to cough. Within a month, five chimpanzees died: two very old females, one adolescent male, and two infants. The mothers of the two dead infants continued to carry the corpses, which eventually mummified. One mother used a stick to chase flies away from the dead infant's body in addition to using her hands. The transportation of infants' mummified bodies may be yet another example of cultural behavior unique to this community. A 12 year-old young mother, who lost her first offspring in this epidemic, remained with the community for two months following the death of the infant, after which she disappeared, most likely immigrating to a neighboring community. We inspected the year-by-year change of age-sex composition in the Bossou community. This revealed that the proportion of old members gradually increased while many young members immigrated. Such a gradual change in the population in addition to the epidemic suggests that this community is in serious danger. The paper also introduces our conservation efforts to attempt to save this important community: the "Green corridor project" which entails the planting of trees in the surrounding savanna in order to create a passage between Bossou and the Nimba Mountains, 4 km away. This might be a model case of connecting chimpanzee habitats that have become isolated through increasing human activity, a very common problem in West Africa.
著者
松沢 哲郎 友永 雅己 田中 正之 林 美里 森村 成樹 大橋 岳
出版者
京都大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2008-06-04

人間の認知機能の発達をそれ以外の霊長類と比較した。進化的に最も近いチンパンジーが主な対象である。チンパンジーの子どもには人間のおとなより優れた瞬間記憶があるという新事実を見つけた。いわばチンパンジーは「いま、ここという世界」を生きているが、人間は生まれる前のことや死んだあとのことに思いをはせ、遠く離れた人に心を寄せる。人間の「想像するちから」はそれ以外の動物には見出しがたいことが明らかになった。