著者
澤田 唯人
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.460-479, 2015

<p>精神科臨床では近年, 「境界性パーソナリティ障害 (Borderline Personality Disorder)」と診断される人々の急増が指摘され, その高い自殺リスクや支援の難しさが問題視されている (朝日新聞「若年自殺未遂患者の半数超『境界性パーソナリティ障害』 : 都立松沢病院調査」2010年7月27日). 本稿の目的は, こうしたボーダーライン当事者が生きる現代的困難の意味を, インタビュー調査に基づく語りの分析から照らしだすことにある. 見捨てられ不安や不適切な怒りの制御困難による衝動的な自己破壊的行為を, 個人の人格の病理とみなす医療言説とは裏腹に, 当事者たちはそれらが他者との今ここの関係性を身体に隠喩化した意味行為であることを語りだしていく. この語りを社会学はどのように受けとめることができるだろうか. 本稿では, これら衝動的な暴力や自己破壊的行為が比喩的な意味の中で生きられるという事態を探るうえで, 個人に身体化された複数のハビトゥスと, 現在の文脈との出逢いにおいて生じる「実践的類推 (<i>analogie pratique</i>)」 (B. ライール) に手がかりを求めている. そこに浮かび上がるのは, 流動化する現代社会にあって, 自己をめぐる認知的な水準の再帰性 (A. ギデンズ) よりも一層深い, ハビトゥスの移調可能性を再帰的に問われ続けた, «腫れもの»としての身体を生きる当事者たちの姿である.</p>

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