著者
貝沼 良風
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<はじめに>地域では様々な祭りが執り行われているが,そうした祭りの多くは,地域社会との強い結びつきのもとにあるといえよう.これまで祭りと地域社会との関係に関しては豊富な研究蓄積がみられる.中でも地理学の研究に目を向けると,たとえば,古田(1990)は,新住民の流入により,祭りの意味が伝統的な行事から子どものための行事へと変容したことを明らかにしている.また,平(1990)は,地域社会において祭りの担い手が不足する中,祭りを執り行うスケールを広域化することで,祭りが維持されることを示唆した.こうした祭りと地域社会との関係をめぐる研究では,主として存続している祭りに焦点があてられてきた.しかし,地域社会が変容する中,そうした変容に適応し,存続する祭りがある一方で,中断や消滅に至った祭りも多く存在する.そのため,今日における祭りと地域社会の関係をより詳細に理解するためには,そうした祭りにも目を向ける必要があるだろう.<BR> そこで本研究は,地域社会の変容により中断したものの,再生され,再度中断に至った祭りを事例とし,従来と再生後の祭りの比較を通じ,祭りと地域社会の関係を考察することを目的とする.具体的には,秩父市荒川白久地区の天狗祭りを対象とする.<BR> 本研究で使用するデータは,実行委員長をはじめとする天狗祭りの中心人物や,荒川白久地区の住民10名に対して実施したインタビュー調査により収集した.また,従来の天狗祭りの郷土資料やフィールド調査で得られた情報も分析に使用する.なお,本研究では,荒川白久地区の中でも,天狗祭りの再生において中心的な役割を担った後述の上白久町会に特に注目する.<BR><対象地域と地域住民組織の概要>本研究の対象地域である荒川白久地区は,2005年に秩父市に編入された旧荒川村の一部で,中山間地域として特徴付けられる.2015年の国勢調査によると,人口は846人で,高齢化率は41.1%と,高齢化の進んだ地域といえる.荒川白久地区では,40から70世帯ごとに集落区という地域住民組織が編成されている.同地区にはこの集落区が7つ存在する.他方で,上述の編入合併の際に,2から3の集落区をまとめた,町会という地域住民組織が新たに設けられた.<BR><天狗祭りの再生と中断>天狗祭りは,山の神をやぐらに迎え入れ,やぐらを燃やすことで山へと返すという儀礼的な意味を持つ民俗行事で,小・中学生の男子が中心となって,毎年11月に開催されていた.従来,同祭りは旧荒川村の集落区ごとに執り行われてきたが,中でも原区という集落区のものは,埼玉県の無形民俗文化財に登録されている. 1960年代頃になると,同祭りは夜遊びや火遊びとして捉えられるようになり行われなくなっていった.1970年代以降は上述の原区でのみ継続されていたが,同区でも2011年を最後に休止となった.<BR> そうした中,2015年に地域住民の呼びかけにより天狗祭りが再生された.その際,従来の集落区ではなく,より広域な地域住民組織である町会において祭りが執り行われた.しかし,住民の一部から祭りに対する異論が投げかけられ,翌年,天狗祭りは再度中断となった.<BR> 再生された天狗祭りは,祭りの意味や活動内容が従来のものとは異なる点が多くみられた.従来は,主に子どもたちを中心に集落区を単位に行われていた.また,祭りに必要な諸経費は住民からの灯明料によって賄われていた.しかし,再生された天狗祭りは,60から70歳代の住民を中心に,町会を単位に実施された.そして,諸経費は,灯明料ではなく,有志の住民からの協賛金というかたちの寄付で賄われた.また,従来の天狗祭りでは,祠への参拝をはじめ,神事に関わる活動が重視されたが,再生された天狗祭りでは宗教色が極力排除され,地域内外の人々の交流が重視された.その重視する点の違いから,開催場所も人家から離れた場所から,住宅地付近へと変更された.天狗祭りの再生において,祭りを執り行う単位が集落区からより広域な町会となったことは,結果として祭りの再生に賛同し活動に参加する地域住民を集めやすくなったといえる.地域住民からは,再生された天狗祭りに対して懐かしいという声がきかれた一方で,内容や開催場所が従来とは異なることや,火を炊くことに対して否定的な声もきかれた.<BR><まとめ>天狗祭りは,祭りを執り行う単位の広域化や子どもが不在でも実施可能なものへと内容が変更されたことで,一度中断したものの,再生まで至ることができた.しかし,神事であることや子どもが主体といった従来,住民が重視していた点が失われたことで,当時の様子を知る住民が少なくない中,地域社会が一枚岩となって祭りを支えることはできず,新しいかたちの天狗祭りは継続することはできなかったと考えられる.

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民俗行事は観光資材として華々しく宣伝されているもの以外、緩やかに消滅していくしかないのだよな…と思う。少子高齢化の現代、伝統を受け継ぐもの達はいなくなってゆくけれど、時代の流れなのだから仕方がないことなんだよなあ。 https://t.co/tcUQwarsgW

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