著者
戸江 哲理
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.319-337, 2016

<p>家族社会学では, 家族を構造 (であるもの) としてではなく, 実践 (するもの・見せるもの) として捉える研究の道筋が切り開かれつつある. 他方で, 家族とは何かという問いを研究者にとっての問題である以前に, 市井の人々自身にとっての問題と捉える研究も登場している. 両者が合流するところに, 人々の立場からその日々のふるまいを検討するという研究課題が生まれる. 会話分析はこの研究課題に取り組む術を提供する. そこで本稿では, 親をすることや親だということを見せることが可能になるしくみのひとつを解明する. そのために本稿は, 母親が同じ場所にいる自分の幼い子どもを「この人」と呼ぶ発言とそれをふくむやりとりを検討する. この呼びかたは, 母親が子どもを子どもとして捉えていないように思えるだろう. だが, 分析の結果, そうではないことが明らかになった. 「この人」は, 近くにいる (「この」) 人物 (「人」) であること以外に, そう呼ばれた人物についていっさいの特徴づけを行わない. それによって, 「この人」はそう呼ばれた人物をめぐる隔たりを刻印する. 母親は, 自分の子どもを「この人」と呼ぶことによって, 普通の子どもとの隔たりを刻印する. あるいはその例外性を際立たせる. 子どもを例外扱いできる人物は, その子どもをよく知っている人物である. 母親は子どもを「この人」と呼ぶことによって, 自分がそんな人物であることを打ち出せる. 子どもを「この人」と呼ぶことは母親としての特権なのである.</p>

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