著者
菊地 栄治
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.51-70, 2016

<p> 本論文では,グローバル化社会における「能力」の社会的定義に焦点を合わせ,「質保証」問題を手がかりにしながら,高校と大学の教育実践と接続関係に与える影響について吟味する。高校教育の多様な実態との齟齬等を中心に,これまでの改革の言説と実践の問題点を批判的に考察する。最後に,具体的な実践事例の知見にもとづきながらもうひとつの改革モデルを提案する。一連の考察によって得られた知見は,以下の通りである。<BR> 第一に,「質保証」問題は,低成長時代に特有の功利主義に影響されながら語られている。大学での「教養」の解体とともに経済ニーズが直接に教育のありように影響し始めている。<BR> 第二に,「学士力」の定義は,有用性と広範さを特徴としており,実体論的な定義と線型的な自己成長が含意される点で旧来の理論の域を出ていない。<BR> 第三に,新接続テスト(=二種類の共通テスト)が政策提案されているものの,矛盾と齟齬を抱えている。かつ,多様化した高校の実態とは大きく乖離した内容にとどまっている。<BR> 第四に,実際の高校教育の実態は,学力と規律の点で向上しているが,職務多忙化の中で生徒・教師間の関係性の深さは浅くなってきており,教師の自律性も減衰している。<BR> 最後に,主に大阪の高校の事例研究をふまえて,〈一元的操作モデル〉から〈多元的生成モデル〉へと学びの構造転換を図ることの重要性が浮き彫りになる。</p>

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