- 著者
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酒本 絵梨子
- 出版者
- 日本スポーツ社会学会
- 雑誌
- スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
- 巻号頁・発行日
- vol.20, no.2, pp.65-77, 2012
本研究の目的は、「共振」という概念が持つ、スポーツ独特の社会関係における「楽しさ」を理解する上での重要性を、チクセントミハイが提唱した、「流れ」=「フロー(Flow)」という概念と「引き込み現象」の概念を統合させることで、明らかにしていくことである。<br> 「引き込み現象」とは、異なった周期を持ったリズムがその周期を一致させる現象であり、自然界や人のコミュニケーションにおいて見ることができる。<br> この「引き込み現象」をクラーゲスのリズム論から見てみると、「共振」という広い概念として捉え直すことができる。亀山によれば、「共振」とは、日常の制約から脱して生命のリズミカルな脈動の中に入ることを意味し、ここに音楽やスポーツの活動でリズムに乗るときに襲う「楽しさ」の由来があるという。<br> チクセントミハイはこの「楽しさ」を「流れ」=「フロー」という概念で説明している。このフローの概念は個人的な心理的な状態を表すことでその「楽しさ」を捉えており、個人的な挑戦を超えた、集団スポーツを含んだスポーツで得られる「楽しさ」は捉えきれないという弱点を持っている。しかし、フローの概念をリズムの「共振」として捉えるならば、集団スポーツにおける「楽しさ」を「共同性の次元のフロー」として見る視点が与えられる。