- 著者
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北脇 裕士
阿依 アヒマディ
岡野 誠
- 出版者
- 宝石学会(日本)
- 雑誌
- 宝石学会(日本)講演会要旨
- 巻号頁・発行日
- vol.28, pp.10, 2006
一昨年9月に鑑別表記のルール改定が行われ、コランダムについては大きな変更と新たなカテゴリーが設けられた。このきっかけになったのが、2002年以降突如として出現したBe拡散処理されたパパラチャ・カラー・サファイアである。当初は輸出国側から一切の情報開示がなく、"軽元素の拡散"という従来にはなかった新しい手法であったことから、業界としての対応も後手を踏む結果となった。その後の研究によってある程度の理論的究明には進展が見られたが、Be(ベリリウム)の検出にはSIMSやLA-ICP-MSなどのこれまでの宝石鑑別の範疇を超えた高度な分析技術が必要となり、今後の鑑別技術のあり方を問われる結果となった。<BR> Be拡散による主な色変化は2価の元素であるBeがコランダム中の3価のAl(アルミニウム)を置換することによって生じるトラップド・ホール・カラ・センターによってイエローが生じることによって説明がなされている。したがって、特にイエロー系のサファイアは加熱・非加熱あるいはBe拡散処理の識別が極めて困難な現状である。<BR> さて、今年の初め頃からバンコクのマーケットではBe拡散処理されたブルー・サファイアが見られるようになり、宝石業界の新たな脅威となりつつある。Gem Research Swiss lab (GRS)では2005年の11月にBe拡散処理ブルー・サファイアを確認しており、今年の初め頃より増加の傾向にあると報告している。日本国内でも少数ながら発見されており、宝石鑑別団体協議会(AGL)では各会員機関に注意を呼びかけている。<BR> GAAJラボで確認したBe拡散処理ブルー・サファイアには特徴的な円形~らせん状のインクルージョンが見られ、これが一般鑑別における重要な手がかりとなる。しかし、類似したインクルージョンはBe処理されていないものにも見られることがあり、最終的にはLIBSあるいはLA-ICP-MSによる分析が必要となる。これらのBe拡散処理されたブルー・サファイアからは数ppm~10数ppmのBeが検出されており、色の改変を目的に意図的にドープされたものと考えられる。<BR> さらにこれとは別にLA-ICP-MSにおいて1ppm以下のBeが検出されることがあり、これらはBe拡散処理に用いたルツボの再利用あるいは電気炉の汚染による偶発的な混入と推測されるが、このようなケースでの情報開示について国際的な議論がなされている。