著者
浜中 新吾
出版者
日本中東学会
雑誌
日本中東学会年報 (ISSN:09137858)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.71-87, 2018-06-01

軍隊は社会的価値の生成と内面化にとって重大な役割を果たす組織である。イスラエルは国民皆兵を採用しており、若者の国民統合に大きな役割を果たしている。しかしながら国民皆兵の建前にも関わらず、市民の三人に一人は兵役を免れているという。本稿は兵役免除という事実を利用して、兵役の政治的社会化機能を分析した。すなわちイスラエル国防軍への従軍が市民の政治的態度に与える影響を実証的に検討している。ここでは軍務の国民統合機能に関する理論から導出した仮説を検証した。その仮説とは、軍隊への従軍経験が国防意識を高め、パレスチナ占領地域を護持しようとする非妥協的な態度を生み出す、というものである。仮説検証に用いたデータはユダヤ人市民を対象に2007年2月に実施された民主主義サーベイである。リサーチ・デザインでは疑似ランダム的に従軍経験を持つ処置群と従軍経験を持たない統制群を同数になるよう生成するため、プロペンシティ・スコア・マッチングを行った。これにより兵役を免除される属性(性別、宗教的アイデンティティ、旧ソ連邦からの移民)を統制し、属性の面で差異のない二群を創り出すことで比較分析を可能にした。本稿の分析では、徴兵されたユダヤ人市民と徴兵されなかったユダヤ人市民の間で、民主主義への満足度、シオニスト・アイデンティティ、リーダーシップやナショナル・プライドについての意見に差異は見られなかった。しかしながら、軍隊経験を持つ市民はアラブ人の強制追放政策に反対し、紛争解決のために西岸地区の領土的譲歩を支持する、という反直感的な結果を得た。この結果は軍務の国民統合機能に関する理論に再検討を迫ると同時に、パレスチナ問題の二国家解決案に望みを繋ぐものでもある。なぜならイスラエル市民の多数派である従軍経験者は少数派である非経験者に比べて中東和平問題の解決に向けてより穏健であり、過剰な政策に反対する姿勢を示していると言えるからである。

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こんな論文どうですか? 政治的社会化過程としての兵役:イスラエルにおける国民皆兵の事例(浜中 新吾),2018 https://t.co/3FyOOnpdG5
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