著者
松本 和明
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.126, no.3, pp.1-38, 2017

本稿は近世畿内近国における大坂町奉行所による寺社支配について、京都・大坂両町奉行所間での元禄五年(一六九二)寺社改めの意図・方式の差異を確認し、従来の理解に対して再考を促すとともに、その差異をふまえ近世中後期における奉行所寺社支配の実態を追究することを目的とした。<br>第一章では、京都・大坂両町奉行所における寺社改めの意図・方式を確認した。その結果、京都町奉行所支配国においては「一宗之寺社本末由緒」改めを目的に、主に本末関係に依拠した方式で作成が指示された結果、多くの場合本末関係の把握にとどまったこと、対して大坂町奉行所支配国においては「寺社敷地境内間数」改めを目的に、個別領主・町在・寺社人が関与する方式で作成され、すべての寺社の詳細が把握されるというように、両奉行所間において目的・方式・結果いずれも差異が生じたことを明らかにした。<br>第二章では、まず摂津国武庫郡西宮社に即して寺社改帳と寺社支配との関係を編年的に分析し、そのうえで支配国内における他寺社の公事訴訟と寺社改帳との関係を追究した。さらに、寺社改めのあり方と関連づけて享保七年(一七二二)の国分けや、寺法・社法出入の再評価を試みた。その結果、①寺社改帳は公事訴訟や諸届けに奉行所が判断を下すための台帳であるが、②大坂町奉行所支配国では幕末期まで元禄寺社改帳が寺社台帳として機能し続けるいっぽう、京都町奉行所支配国ではかかる事例を追跡しがたい、③寺社支配のあり方は寺社改めの意図・方式に規定されており、国分けの際の寺社支配権分割や、寺法・社法出入など寺社改めでは把握できない案件もそれとの関係のなかで理解する必要がある、とした。<br>以上の分析から、元禄五年寺社改めの歴史的意義は畿内近国固有の施策として把握されるべきであること、そして大坂町奉行所寺社支配のあり方は寺社改めの方式に規定されたものであり、かかる視座は寺社支配の実態・全体像の把握にもつながる、と結論づけた。

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