著者
石村 大輔 平峰 玲緒奈
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

1.はじめに<br><br> 中期完新世を代表する日本国内の広域テフラは鬼界—アカホヤ(K-Ah)テフラである.給源である鬼界カルデラから関東地方までは広くその分布が確認されているが,東北地方以北での認定は限られ,その北限は東北地方南部とされている(町田・新井,2003).一方,東北地方を代表するテフラの多くは偏西風の影響により分布が東に偏り,東北地方を広くカバーする完新世のテフラとして十和田火山を給源とする十和田—aと十和田—中掫(To-Cu)テフラが挙げられる(町田・新井,2003).特にTo-Cuテフラは,最近の研究によって(苅谷ほか,2016;石村ほか,2017;Mclean et al., 2018),中部〜近畿地方北部にかけても分布することが確認された.加えて,Mclean et al(2018)により水月湖の年縞堆積物中に認められたことで信頼性の高い年代(5986<b>-</b>5899 cal. BP)が得られている.このようにTo-Cuの分布域や信頼度の高い年代が得られたことから,本テフラは東北〜中部地方にかけての中期完新世を代表する広域テフラとなり得る.しかし,その特徴は個々の地点・研究で得られているのみで,給源から遠地にかけて一様な情報に基づき対比されていない.<br><br> そこで本研究では,給源地域におけるTo-Cuを構成する3ユニット(下位より中掫軽石(Cu),金ヶ沢軽石(Kn),宇樽部火山灰(Ut)(Hayakawa,1985))と下北半島〜三陸海岸,新潟平野,青木湖に分布するTo-Cuの詳細対比を試みる.<br><br>2.手法<br><br> 本研究では,すでに石村(2014),高田ほか(2016),Niwa et al.(2017),石村ほか(2017)によってTo-Cuに対比されている試料と新たに露頭から採取した試料を用いた.<br><br> To-Cuのユニット対比に用いた指標は,火山ガラスの形態,火山ガラスの屈折率,火山ガラスの主成分化学組成である.火山ガラスの形態は,偏光顕微鏡を用いて,火山ガラスの形態を4つに分類し,それらとは別に色付きガラスの個数をカウントした.屈折率測定は,RIMS2000を用いて,30片以上を測定した.主成分化学組成分析(EDS分析)は,首都大学東京所有のエネルギー分散型X線分析装置Genesis APEX2 (EDAX製)と走査電子顕微鏡JSM-6390(日本電子株式会社製)を使用した.<br><br>3.To-Cuユニットの特徴<br><br> 給源地域における各ユニットの特徴について以下に述べる.屈折率測定結果から,Cuの屈折率は高いモード(1.513-1.514)と狭いレンジ(1.512-1.514)を示し,Knの屈折率は,Cuに比べ少し低いモード(1.512-1.513)と少し広いレンジ(1.511-1.514)を示す.一方,Utの屈折率は全く異なる傾向を示し,低いモード(1.505-1.510)と広いレンジ(1.500-1.513)を示す.主成分化学組成の結果から,CuとKnに大きな違いは見られず,値が集中する傾向を示す.一方,Utについては,Cu・Knに比べて値がばらつくのが特徴であり,SiO<sub>2</sub>の値がCu・Knよりも高いものが多い.火山ガラスの形態については,その比率からユニットの対比は難しいが,上記の指標に基づく対比をサポートする上では重要な指標になり得ることがわかった.<br><br>4.遠地におけるTo-Cuユニットの対比・分布<br><br> 上記の特徴に基づき,各ユニットの対比を行ったところ,Cuは,下北半島の中部〜北部には降灰しておらず,著しく南に偏った分布を示す.三陸海岸では全地点で確認でき,また新潟平野や青木湖に降灰したものもCuに対比された.Knは,Cuに比べて北にも広く分布する.確認できた範囲の北限と南限はそれぞれ下北半島北部と三陸海岸南部であり,それらの地点で層厚は1 cm程度認められる.Utは,東南東に偏った分布を示すが,三陸海岸沿いでは給源から約200 km離れた地点でも1 cm程度の層厚を有することがわかった.したがって,最も広く降灰しているユニットはCuである.また,Knも東北地方北部には広く分布している可能性がある.Utについては分布が偏るが,給源から50-100 km内には分布する可能性がある.<br><br>5.まとめ<br><br> 本研究では,To-Cuを構成する各ユニットの特徴を明らかにし,遠地における各ユニットの対比を行った.結果,3ユニットの降灰範囲が明らかとなり,東北地方から中部地方にかけて広くCuが分布することがわかった.したがって,To-CuがK-Ahに代わる東北地方の中期完新世を代表するテフラであることを確認でき,今後,関東〜中部地方での分布が確認されることを期待する.

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