著者
平峰 玲緒奈 青木 かおり 鈴木 毅彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.238, 2020 (Released:2020-03-30)

1.はじめに火山砕屑物の一つである軽石は,多孔質であるために水に浮くこ とが多い.そのため,海域での漂流を開始した軽石は,海岸に打ち上げられるか,海底に沈むまで,漂流し続けると考えられている(加藤,2009).このような軽石は,「漂着軽石」や「漂流軽石」と呼ばれ, 海岸や地層中から発見・認定されてきた.地層中に認定される漂着軽石は,年代指標,古環境指標として利用できると期待される.しかし,漂着軽石に関する基礎的な研究は少なく,それらの漂流・漂着に関わるプロセスは明らかになっていない.日本列島とその周辺海域では,1986 年の福徳岡ノ場噴火以降, 大量の軽石を海域に供給する噴火は発生していないにもかかわらず,現在の日本列島の海岸には軽石が漂着している.これは,噴火活動以外に海域へ軽石を供給する仕組みがあること示唆する. しかし,日本の複数地点で,ほぼ同時期に漂着軽石を調査した例 は存在しない.また,軽石を海域へ供給する噴火が発生していない「平穏時」における漂着軽石の給源やそれらの地理的分布は不 明である.そこで,本研究では,記載岩石学的特徴に基づき日本列島の現世海岸における漂着軽石の給源とその地理的分布を明らかにし,海域への軽石供給の仕組みや,漂着軽石の漂流・漂着に関するプロセスを解明することを目的とした.2.研究手法沖縄県西表島から青森県下北半島にかけての,日本列島の海岸25 地点から採取した漂着軽石120 試料について,肉眼的特徴による分類を行い,個別に粉砕した試料を洗浄,ふるい分けし,63-120 μm サイズの火山ガラスを用いて主成分化学組成分析を実施した. 分析には高知大学海洋コア総合研究センターの共同利用機器であるEPMA(日本電子株式会社製 JXA-8200)を使用した.3.結果・考察漂着軽石は,幅の狭い浜など漂着物が保存されにくい海岸を除くと全ての海岸で確認された.浮遊しやすい発泡スチロールやクルミなどが多く漂着する海岸では,漂着軽石も多く見出された.EPMA 分析の結果,漂着軽石は13グループに分けられた.13グループの中で,給源が推定可能なものは4グループあり,その給源となるテフラは,姶良カルデラの約3万年前(Smith et al., 2013)の 噴出物である姶良Tnテフラ(AT:町田・新井,2003),十和田火山 の約1万5千年前の噴出物である十和田八戸テフラ(To-H:町田・ 新井,2003)と AD915 年の十和田aテフラ(To-a:町田・新井,2003),1924 年の西表島北北東海底火山噴出物,1986 年の福徳岡ノ場噴出物である.AT起源の漂着軽石は日本各地の海岸から見出され,青森県の下北半島を最北端,沖縄県の西表島を最南端として確認された.特に,西表島で見出されたAT 起源の漂着軽石は,周辺の海流系を考慮すると,黒潮,黒潮続流,北赤道海流等 での漂流を経て,再度,黒潮本流に合流し,当該地域に漂着した可能性がある.また,鹿児島県奄美大島の海岸から,十和田火山起源の漂着軽石も見出されており,AT起源の軽石同様に,漂着軽石は海流により太平洋上を循環している可能性が示唆される.現世の海岸に分布する漂着軽石は,噴火により直接海域に流入した可能性と、陸域に一次堆積した火砕物が,二次的な移動により海域に流入した可能性がある.約3万年前(Smith et al., 2013)の噴出物である AT起源の漂着軽石は,日本列島各地の海岸で見出さ れた.また,AT噴火の火砕流堆積物は,入戸火砕流堆積物 (A-Ito:町田・新井,2003)として給源近くに厚く分布し,火砕流台地であるシラス台地を形成しており,海岸沿いや開析谷沿いに広く露出している.以上を考慮すると,火砕流堆積物が海岸侵食や崩壊,土石流により二次的に移動し海域へ流入したものが,漂着軽石として現世海岸に分布すると考えられる.つまり,陸域に分布する軽石主体の堆積物の二次的な海域への運搬が,平穏時における軽石供給の主要なメカニズムであると考えられる.4.まとめ本研究結果から,軽石を海域に供給する噴火が発生していない平穏時であっても,現世海岸には漂着軽石が多く分布していることがわかった.給源テフラの推定結果から,最近100年間に発生した海底噴火に伴うものと1万年以上前の大規模噴火に伴うものが見出された.特に1万年以上前の大規模噴火に伴うものは,現在火砕流台地を広く形成しており,それらの二次的な移動が平穏時における継続的な軽石供給の重要なメカニズムであると考えられる.
著者
平峰 玲緒奈 青木 かおり 石村 大輔
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
pp.62.2204, (Released:2023-04-20)
参考文献数
36

青森県むつ市関根浜に露出する完新世堆積物から多数の軽石(SKN-1~6)を見出した.このうち2層の軽石濃集層(SKN-2とSKN-3)は,それぞれ鬱陵島U-2テフラ(U-2)と十和田中掫テフラ(To-Cu)の軽石で構成されていた.SKN-2とSKN-3は層相と層序,軽石の粒径・形状から,海域での漂流を経て堆積した漂着軽石と考えられる.また,SKN-2とSKN-3は,有機質シルト・泥炭層中に存在することと約6 kaの海水準や地形を考慮すると,海と繋がる小河川を経て潟湖に漂着したものと推測される.加えて,水平方向に連続的に堆積する様相は堆積当時の汀線付近に多数の軽石が分布していたことを示唆する.
著者
石村 大輔 平峰 玲緒奈
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

1.はじめに<br><br> 中期完新世を代表する日本国内の広域テフラは鬼界—アカホヤ(K-Ah)テフラである.給源である鬼界カルデラから関東地方までは広くその分布が確認されているが,東北地方以北での認定は限られ,その北限は東北地方南部とされている(町田・新井,2003).一方,東北地方を代表するテフラの多くは偏西風の影響により分布が東に偏り,東北地方を広くカバーする完新世のテフラとして十和田火山を給源とする十和田—aと十和田—中掫(To-Cu)テフラが挙げられる(町田・新井,2003).特にTo-Cuテフラは,最近の研究によって(苅谷ほか,2016;石村ほか,2017;Mclean et al., 2018),中部〜近畿地方北部にかけても分布することが確認された.加えて,Mclean et al(2018)により水月湖の年縞堆積物中に認められたことで信頼性の高い年代(5986<b>-</b>5899 cal. BP)が得られている.このようにTo-Cuの分布域や信頼度の高い年代が得られたことから,本テフラは東北〜中部地方にかけての中期完新世を代表する広域テフラとなり得る.しかし,その特徴は個々の地点・研究で得られているのみで,給源から遠地にかけて一様な情報に基づき対比されていない.<br><br> そこで本研究では,給源地域におけるTo-Cuを構成する3ユニット(下位より中掫軽石(Cu),金ヶ沢軽石(Kn),宇樽部火山灰(Ut)(Hayakawa,1985))と下北半島〜三陸海岸,新潟平野,青木湖に分布するTo-Cuの詳細対比を試みる.<br><br>2.手法<br><br> 本研究では,すでに石村(2014),高田ほか(2016),Niwa et al.(2017),石村ほか(2017)によってTo-Cuに対比されている試料と新たに露頭から採取した試料を用いた.<br><br> To-Cuのユニット対比に用いた指標は,火山ガラスの形態,火山ガラスの屈折率,火山ガラスの主成分化学組成である.火山ガラスの形態は,偏光顕微鏡を用いて,火山ガラスの形態を4つに分類し,それらとは別に色付きガラスの個数をカウントした.屈折率測定は,RIMS2000を用いて,30片以上を測定した.主成分化学組成分析(EDS分析)は,首都大学東京所有のエネルギー分散型X線分析装置Genesis APEX2 (EDAX製)と走査電子顕微鏡JSM-6390(日本電子株式会社製)を使用した.<br><br>3.To-Cuユニットの特徴<br><br> 給源地域における各ユニットの特徴について以下に述べる.屈折率測定結果から,Cuの屈折率は高いモード(1.513-1.514)と狭いレンジ(1.512-1.514)を示し,Knの屈折率は,Cuに比べ少し低いモード(1.512-1.513)と少し広いレンジ(1.511-1.514)を示す.一方,Utの屈折率は全く異なる傾向を示し,低いモード(1.505-1.510)と広いレンジ(1.500-1.513)を示す.主成分化学組成の結果から,CuとKnに大きな違いは見られず,値が集中する傾向を示す.一方,Utについては,Cu・Knに比べて値がばらつくのが特徴であり,SiO<sub>2</sub>の値がCu・Knよりも高いものが多い.火山ガラスの形態については,その比率からユニットの対比は難しいが,上記の指標に基づく対比をサポートする上では重要な指標になり得ることがわかった.<br><br>4.遠地におけるTo-Cuユニットの対比・分布<br><br> 上記の特徴に基づき,各ユニットの対比を行ったところ,Cuは,下北半島の中部〜北部には降灰しておらず,著しく南に偏った分布を示す.三陸海岸では全地点で確認でき,また新潟平野や青木湖に降灰したものもCuに対比された.Knは,Cuに比べて北にも広く分布する.確認できた範囲の北限と南限はそれぞれ下北半島北部と三陸海岸南部であり,それらの地点で層厚は1 cm程度認められる.Utは,東南東に偏った分布を示すが,三陸海岸沿いでは給源から約200 km離れた地点でも1 cm程度の層厚を有することがわかった.したがって,最も広く降灰しているユニットはCuである.また,Knも東北地方北部には広く分布している可能性がある.Utについては分布が偏るが,給源から50-100 km内には分布する可能性がある.<br><br>5.まとめ<br><br> 本研究では,To-Cuを構成する各ユニットの特徴を明らかにし,遠地における各ユニットの対比を行った.結果,3ユニットの降灰範囲が明らかとなり,東北地方から中部地方にかけて広くCuが分布することがわかった.したがって,To-CuがK-Ahに代わる東北地方の中期完新世を代表するテフラであることを確認でき,今後,関東〜中部地方での分布が確認されることを期待する.