- 著者
-
堂下 浩
- 出版者
- パーソナルファイナンス学会
- 雑誌
- パーソナルファイナンス研究
- 巻号頁・発行日
- vol.5, pp.7-18, 2019
<p>2006年12月に貸金業法が改正された。法改正の過程は感情論が先行する一方で、実証データに基づく科学的検証が封殺されるという、あまりにも拙速なものであった。中でも新たに導入された総量規制の実効性は当時から疑問視されてきた。事実、三國谷勝範・金融庁総務企画局長(当時)は総量規制の根拠について借り手の統計的なデータを取らずに、その基準を明確にしないまま導入を決定した旨を国会で答弁した。貸金業法の完全施行直後から、科学的根拠がなく導入された総量規制による金融収縮を懸念する報道姿勢が徐々に強まり、金融庁は消費者金融の代替手段として消費者ローンを積極的に手掛けた金融機関に表彰状を授与するなど金融機関による銀行カードローン普及を顕彰制度等で促した。</p><p>しかしながら金融機関は個人信用情報に関わる前近代的なインフラしか有しないため、銀行カードローンの与信精度が貸金業よりも劣っている点は当時から広く知られていた。金融機関は銀行カードローンの保証を総量規制で貸し出しに大きな制約を強いられた貸金業者へ主に委託し、同時に審査も貸金業者に依存する格好で、その残高を増やした。皮肉にも、こうした金融庁による政策はその後の第二次安倍政権で実施される大規模金融緩和の長期化により金融機関の預貸率が低下していく局面で、必要以上の資金が銀行カードローン市場に流入する事態を招いた。</p><p>銀行カードローンにおいて特に問題視されるのが、金融機関による前近代的な貸付情報の管理システムが挙げられる。貸金業者による貸付情報の更新頻度は日次に対して、金融機関による貸付情報の更新頻度は月次であり、その情報の一部は貸金業者に共有されない。</p><p>結果として今日、銀行カードローンの利用者による返済困難者の急増が報道されている。こうした事態を招いた理由の一つとして金融機関側の前近代的な情報管理システムの下で銀行カードローンが急成長した点が挙げられる。</p>