著者
伊藤 幸郎 堂下 浩
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究 (ISSN:21899258)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.13-26, 2015-12-25 (Released:2017-05-26)
参考文献数
9
被引用文献数
1

貸金業法は2006年12月に国会へ上程され、2010年6月に完全施行へと至った。新たに導入された制度の一つとして、借り手へ源泉徴収票等の提出を義務付け、個人年収の1/3を超える貸し付けを禁止する規制、いわゆる総量規制がある。法律が改正された2006年以降、総量規制は日本の貸金市場における借り手と貸し手の双方に広く影響を与えてきた。そこで本論文では、1)貸金業法の過程について主に政府が公表した公開資料から精査し、総量規制がノンバンクの貸付市場にのみ導入された背景を分析した。2)次に筆者らは2005年3月から2006年12月に渡る自民党と金融庁における立法の策定過程の議論に注目した。特に自民党で貸金業法の策定にあたり国会側の立法責任者として深く関与してきた増原義剛氏と、金融担当大臣として2006年12月に貸金業法を国会に上程した山本有二氏による発言に着目し、公開資料では示されていない貸金業法制定の背景を知ることに努めた。3)さらに筆者らは当時、貸金業法の立法に関わった人物、具体的には2006年当時の業界代表者、記者、そして業界ロビイストらを特定し、貸金業法制定の経緯、特に総量規制導入の経緯についてインタビュー調査を実施した。上記の調査を通じて、得られた結論は、(A)政府は貸金業者に対して感情的になった世論を恐れて貸金業法の立法を急いだ。(B)貸金業法に盛り込まれた総量規制の影響調査も欠落していていた、という2点に集約される。
著者
堂下 浩
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究 (ISSN:21899258)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.15-27, 2016-12-31 (Released:2017-08-10)
参考文献数
8

1999年12月、いわゆる「商工ローン」問題と呼ばれる、当時の事業者金融市場における大手2社であった商工ファンドと日栄によって引き起こされた違法な取立行為と過剰融資への対応として、出資法が国会で改正された。結果として、出資法の上限金利は年40.004%から年29.2%に引き下げられ、この上限金利規制は法改正から僅か6か月後の2000年6月に施行された。この上限金利引下げ措置は事業者金融業界だけでなく、消費者金融業界にも適用されることとなった。このため、大半の消費者金融会社は突然の規制強化に翻弄される事態に陥った。この当時、JCFA(日本消費者金融協会)は会員業者の経営実態を把握するためにアンケート調査を行っていた。 著者はその当時JCFAが行ったアンケート調査のデータを入手した。今回、本データを用いた分析の結果、十分な猶予期間なしに施行された上限金利引下げに対処するために、多くの消費者金融会社は短期的な利益を確保しようと与信基準を緩めたという実態が把握できた。その後、こうした与信行動は消費者金融市場において、いわゆる「多重債務問題」を引き起こす要因の一つとなったとも考えられる。
著者
堂下 浩
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究
巻号頁・発行日
vol.5, pp.7-18, 2019

<p>2006年12月に貸金業法が改正された。法改正の過程は感情論が先行する一方で、実証データに基づく科学的検証が封殺されるという、あまりにも拙速なものであった。中でも新たに導入された総量規制の実効性は当時から疑問視されてきた。事実、三國谷勝範・金融庁総務企画局長(当時)は総量規制の根拠について借り手の統計的なデータを取らずに、その基準を明確にしないまま導入を決定した旨を国会で答弁した。貸金業法の完全施行直後から、科学的根拠がなく導入された総量規制による金融収縮を懸念する報道姿勢が徐々に強まり、金融庁は消費者金融の代替手段として消費者ローンを積極的に手掛けた金融機関に表彰状を授与するなど金融機関による銀行カードローン普及を顕彰制度等で促した。</p><p>しかしながら金融機関は個人信用情報に関わる前近代的なインフラしか有しないため、銀行カードローンの与信精度が貸金業よりも劣っている点は当時から広く知られていた。金融機関は銀行カードローンの保証を総量規制で貸し出しに大きな制約を強いられた貸金業者へ主に委託し、同時に審査も貸金業者に依存する格好で、その残高を増やした。皮肉にも、こうした金融庁による政策はその後の第二次安倍政権で実施される大規模金融緩和の長期化により金融機関の預貸率が低下していく局面で、必要以上の資金が銀行カードローン市場に流入する事態を招いた。</p><p>銀行カードローンにおいて特に問題視されるのが、金融機関による前近代的な貸付情報の管理システムが挙げられる。貸金業者による貸付情報の更新頻度は日次に対して、金融機関による貸付情報の更新頻度は月次であり、その情報の一部は貸金業者に共有されない。</p><p>結果として今日、銀行カードローンの利用者による返済困難者の急増が報道されている。こうした事態を招いた理由の一つとして金融機関側の前近代的な情報管理システムの下で銀行カードローンが急成長した点が挙げられる。</p>
著者
堂下 浩
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究 (ISSN:21899258)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.7-17, 2017-12-31 (Released:2018-10-05)
参考文献数
9

厚生労働省は2015年1月に公表した「労働市場分析レポート」で、非正規労働者が近年増えた大きな原因として、増加傾向にある廃業した個人事業主の雇用の受け皿として機能していると論じた。個人事業主の廃業増加を貸金業法の影響のみで捉えることはできないが、法改正が個人事業主をはじめとする中小零細事業主の資金繰りの面で廃業に拍車を掛けた蓋然性は否定できない。そして2016年12月に貸金業法改正から10年が経過したが、上限金利の引下げが中小零細事業主の資金繰りに硬直性を高めた状況に変化はない。我が国の開業率、廃業率は先進各国に比べ大きく見劣りするが、無担保・無保証融資という小口金融が機能していない点もその理由の一つであろう。一方米国で急成長を遂げる新たな金融手段としてフィンテックに脚光が浴び、その国内導入への機運が盛り上がっている。米国では中小零細事業主向けのトランザクションレンディングを含め、様々なビジネスモデルのフィンテックサービスが先行しているが、これらフィンテックサービスを我が国の成長戦略に活用するのなら、中小零細事業主向け無担保・無保証融資の担い手としてフィンテック市場を先ず整備することが政策的に喫緊の課題であろう。しかしながら日本において金融庁はトランザクションレンディングを含め、フィンテックにおける融資サービスに対する金利規制の緩和を検討していない。一方で、与党である自民党と公明党はトランザクションレンディングに関して強い関心を示し、そのサービス分野での規制緩和も示唆している。そこで、本論文では貸金業法が零細事業主に与えた影響と日本におけるトランザクションレンディングの現状を把握するとともに、立法府でトランザクションレンディングが政策的に注目される背景と目的を分析する。
著者
堂下 浩
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究
巻号頁・発行日
vol.1, pp.55-65, 2014

貸金業法の副作用が徐々に顕在化しつつある。新聞各紙は2013年4月4日に警察庁が発表したデータを引用し、貸金業法の効果によりヤミ金融の被害件数が減少していると報道した。筆者はこうした一連の報道に違和感をもつ。筆者らが2013年1月に行ったアンケート調査において直近1年間のヤミ金融利用率は「消費者ローン利用経験者」ベースで9.8%と、2011年調査の3.3%を大きく上回った。また同様の増加傾向は日本貸金業協会が2012年11月に発表した調査でも確認されていた。実際、本報道の後もヤミ金融の被害を伝える事件は頻発している。2013年5月の事件に限定しても、ヤミ金融に従事していた袖ヶ浦市議が逮捕された事件や、ヤミ金融の亜種である偽装質屋やカード現金化に関する事件報道など後を絶えない。このようにヤミ金融被害の拡大は改正貸金業法による副作用の一つに過ぎない。本調査からヤミ金融被害をはじめとする貸金業法による一連の副作用が確認された。本稿では法改正が引き起こした諸問題について報告する。