- 著者
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河合 恭平
- 出版者
- 日本社会学理論学会
- 雑誌
- 現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, pp.106-118, 2010
本稿は、『人間の条件』においてアレントが展開した世界疎外に至る論理を考察し、そのうえで彼女の公共性論の再解釈を試みたものである。<br>考察された世界疎外の論理展開の要点は次の三点である。第一に、近代世界に生じたヒトの生命過程という内省的な円環は、その無世界性と必然性という性質と、両者の相補的な結びつきによって世界疎外をもたらしていたということが言える。第二に、〈仕事〉が、機械の製作によって生命過程を作り出すことを可能にしていたことが挙げられる。これにより、〈仕事〉は、自らの特徴を喪失させ、製作的世界を破壊してしまっていたのである。第三に、近代の歪曲された〈活動〉を挙げることができる。それは、コントロール不可能な過程の〈始まり〉というかたちで、〈世界〉を破壊に導くものとして〈現われ〉ていた。以上の考察によって、我々はアレントの公共性論における、公共性の困難と〈始まり〉への志向という葛藤に直面することになる。そこで本稿では、『人間の条件』で世界疎外が取り上げられた意図を〈理解〉という彼女の概念に着目して読み込むことによって、この葛藤の理由を明らかにし、それがアレントの思想に内在的なものであることを提示する。以上から、アレントの公共性論とは、公共性の困難とそれに対する〈始まり〉への志向という葛藤を含むものとして解釈することが妥当であると結論づけた。