- 著者
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吉川 翠
小川 秀司
伊谷 原一
- 出版者
- 日本霊長類学会
- 雑誌
- 霊長類研究 Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.35, pp.59, 2019
<p>タンザニア西部ウガラ地域の乾燥疎開林地帯でチンパンジー(<i>Pan troglodytes</i>)を直接観察した事例をまとめた。疎開林地帯では疎開林が全面積の86%を占め,他に常緑林と草地が点在している。1995年から2012年に収集した観察事例を分析した結果,(1)パーティ(遊動集団)サイズの平均は3.9頭(SD=2.8,Range=1-14,n=53)で,乾季は平均4.4頭(SD=3.1,Range=1-14,n=37),雨季は平均2.6頭(SD=1.3,Range=1-6,n=16) だった。(2)パーティの構成は,オトナオス(以下オス)のみが11.3%,オトナメス(以下メス)のみが1.9%,オスとメスの混合パーティが66.0%だった。オスとメスの混合パーティの内,コドモかアカンボウが含まれるパーティは34.0%だった。(3)1-5頭で構成されるパーティが75.5%と最も多く,次いで6-10頭のパーティが20.8%だった。10頭以上のパーティは3.8%で,いずれも乾季に観察された。(4)チンパンジーと遭遇した際,彼らは樹上を60.4%,地上を39.6%利用していた。また,利用植生の62.3%が常緑林,37.7%が疎開林だった。(5)発見時の行動は,採食35.8%,休息30.2%,移動30.2%,その他(グルーミングなど)3.8%だった。(6)1回の観察継続時間は10分以内が50%以上を占めた。本地域は,他の地域に比べて平均パーティサイズや最大パーティサイズが小さかった。また5頭以下のパーティの割合は他の地域の2倍だった。疎開林地帯では雨季よりも乾季の方がわずかにパーティサイズは大きくなるが,相対的にパーティサイズを小さくすることで,限られた果実量の採食競合を回避していると考えられる。また,ライオンやヒョウなどの捕食者の存在が,チンパンジーのパーティサイズや警戒心の強さに影響していると考えられた。</p>