- 著者
-
永田 大輔
- 出版者
- 社会学研究会
- 雑誌
- ソシオロジ (ISSN:05841380)
- 巻号頁・発行日
- vol.61, no.3, pp.41-58, 2017
<p>本稿は、オタク文化を社会学的に考察するために、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)の使用実践に着目する。中でも一九八〇年代のOVAの言説的な特徴を詳らかにするために、OVAが"第三のメディア"とアニメファンの間で呼ばれていたことに着目する。 言説を検討する際に、二つの構造的な条件が重要である。一つ目は一九八〇年代中盤のビデオの急速な普及であり、二つ目はアニメーター数が、作品数が増加し質の向上が求められる中で、増加していなかった点である。そうした条件を元に、OVAというメディアをめぐる言説を検討する。 まず第三のメディアの言葉の含意を考えるために、第一のメディア(テレビアニメ)と第二のメディア(劇場版アニメ)の移行関係に着目する。その移行は一九七〇年代後半頃に起こった。テレビアニメは子供むけのものとされてきたが、一九七〇年代後半に子供だけではないファンが発見される。ファンの存在を背景とし、アニメ制作者の側も作家性を発揮することを求めるようになる。しかし、当時のテレビアニメは作家性を発揮するには制約が多かった。そこで注目されるのが劇場版アニメであった。しかし、こうした移行の段階で「作家性の発揮」と「万人に受容されること」の競合関係が存在し、両者の議論の制約としてクリエーターの人数が存在した。 本稿では、OVAが上記の論点を引き継いで語られた媒体であることに着目する。その中で制作者人口が限られた中での「商業の論理」と「作品の論理」のせめぎあいを編集者・消費者・制作者がそれぞれどのように意味づけていくのかという点からその歴史を検討し、様々なアクターの論理のせめぎあいのダイナミズムの中での歴史性を検討する。</p>