- 著者
-
倉光 ミナ子
福田 珠己
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2020, 2020
<p><b>1. はじめに</b></p><p> アジア女性資料センター(2020)はCovid-19と呼ばれる新型ウィルスの感染拡大が社会において、より弱い立場に置かれている女性や子どもたちに多大な負の影響を及ぼす可能性を指摘し、ジェンダー視点に基づいたCovid-19の影響を分析・考察し、それに基づいた提言を行う重要性を論じている。Covid-19のさらなる感染拡大を防ぐために、多くの先進諸国では「Stay at home」(日本では「#Stay home」や「#うちで過ごそう」)という呼びかけが行なわれ、それに基づき、様々な政策が展開されてきた。「ホーム(home)」の重要性については、1970年代には人文主義地理学の立場から主張されていたが、学際的な潮流ともかかわりながら「ホーム」の地理学研究が本格化したのは、1990年代以降、フェミニズムの影響を受けてからのことである。Covid-19の下で突如として現れた「ステイホーム」は何をもたらすのか。フェミニスト地理学の視点から考察・分析することは必要不可欠であると考える。</p><p><b>2.Covid-19によって再確認された点</b></p><p> 2011年の東日本大震災の折に、災害や危機というものが、第一に「平常時からの意思決定における女性の不在や、社会的・経済的なジェンダー不平等が、危機への対応において強く現れ、危機が過ぎ去ったあとにも、女性・少女の権利に長期的に影響をおよぼすこと」(アジア女性資料センター 2020)、第二にもともとそこの地域が抱えていた問題を先鋭化あるいは深刻化させることが指摘されている。同様のことは「ステイホーム」においても確認される。</p><p> まず、先進諸国政府等が「ステイホーム」と呼びかけた際には、フェミニスト地理学が批判してきたように、「ホーム」に暗黙のうちに「両親と子どものそろっている温かい家庭」(異性愛カップルによる家庭、近代家族)や「居心地のよい空間」というイメージが付与されていた。イメージの一面性や、これらがもたらす違和感は、企業やインターネットが使用したロゴ、特別定額給付金が世帯主に支給されたこと、そして、ホームレスや非正規就労者で仕事ともに住処を失った人や、家に帰ることのできない少女たちが行き場を失う報道からも明らかだろう。</p><p> 次に、先進諸国、とりわけ都市の「ホーム」が公私二元論に基づく、「プライベート」、「ケア」の空間であり、その管理・維持がたいてい女性によって成り立っていることである。2020年2月末の日本政府による全国一律の一斉休校や在宅勤務により「ケア」を一手に引き受けざるをえなかった女性たちの嘆きや怒りは様々なところで報道された(その一方で、狭い自宅では仕事ができず、車の中でオンライン会議に参加する夫の話もある)。</p><p> さらに、フェミニスト地理学が指摘してきたように、「ステイホーム」は、ホームが誰にとっても等しく安全な場所でないことも明らかにした。</p><p><b>3.さらなる「ホーム」の展開へ向けて</b></p><p> 「ステイホーム」はすでにフェミニスト地理学が論じてきた点だけでなく、さらなる「ホーム」の展開の可能性を示している。「ステイホーム」を通して、だれもが「ホーム」の意義を再考し、これまでの公私二元論や異性愛規範に基づいた「ホーム」とは別の次元の「ホーム」が想像され、つくられるのか、今後に期待したい。</p><p><参考文献リスト></p><p>アジア女性資料センター 2020.COVID-19とジェンダー: 分断と差別ではなく権利と連帯にもとづく対応を.http://jp.ajwrc.org/3808(最終閲覧日2020年7月17日)</p>