著者
畠山 輝雄 駒木 伸比古
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p><b>1</b><b>.はじめに</b></p><p></p><p> COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大に伴い,人間の移動がウイルス感染拡大に影響するという観点から,各国で独自の移動制限が行われた。日本でも新型インフルエンザ対策特別法(以下,特措法)に根拠を置く緊急事態宣言に伴い都道府県を単位とした「移動自粛要請」という形で対策が行われた。このような中,特措法や緊急事態宣言に関わるさまざまな計画や提言,方針において「地域」が使用され,それらを背景として,国内の移動制限が行われた。しかし,これらで使用された「地域」は,異なる空間的範囲や用途による抽象的な表現であったため,具体性の欠如や実態との乖離が生じている。</p><p></p><p> 地理学では,地域概念として「地域」を類型化し説明してきた背景があるため,本報告では緊急事態宣言に伴う移動制限に対して地域概念という視点から考察する。</p><p></p><p><b>2</b><b>.研究方法</b></p><p></p><p> まず,COVID-19の感染者数の空間分布について,各都道府県のウェブサイトから抽出したデータにより都道府県単位と保健所管轄区等の単位により比較をした。その上で,移動制限に関する権限の考察を,特措法の条文と各都道府県の新型インフルエンザ対策行動計画から考察した。そして,移動自粛要請を都道府県単位とした経緯について,新聞記事検索や政府の関連資料,全国知事会資料から考察した。さらに,海外の移動制限との比較をするために,各国における日本大使館のウェブサイトに掲載される資料から考察した。</p><p></p><p><b>3</b><b>.都道府県単位の移動制限と地域概念</b></p><p></p><p> COVID-19の感染者数の空間分布は,一般的に都道府県単位で公表されているが,保健所管轄区等の単位で再集計したところ,都道府県内でも空間分布に地域差があり,一様ではないことが明らかとなった。</p><p></p><p> 以上よりCOVID-19の感染分布と移動制限を地域概念から考察すると,COVID-19の感染拡大地域は「等質地域」であり,感染要因は飛沫感染や接触感染が多いことを考えると,人間の行動圏(「機能地域」)と大きく関係する。このような等質地域や機能地域という実質地域で生じている問題を,「都道府県をまたぐ移動の自粛」という形式地域単位での移動制限によって感染防止対策をした。</p><p></p><p> 都道府県単位で移動制限を行うメリットには,万人にわかりやすく,規制や監視をしやすいことが挙げられる。都道府県知事には,緊急事態宣言により住民の移動自粛要請をする権限が国から委譲され,それにより自動車ナンバー調査や都道府県境による体温チェックなどが行われた。しかし,特措法では自粛要請として強制力はない。つまり,上記のような移動制限の明確化は,結果として自粛警察による監視を促す結果となった。これはデメリットでもあり,移動に関する明確な境界設定による差別や偏見がおき,県外ナンバーへの嫌がらせも生じた。</p><p></p><p><b>4</b><b>.都道府県単位の移動制限の経緯と諸外国との比較</b></p><p></p><p> そもそも,特措法には移動自粛についての言及はあるが,その空間的範囲については明確に示されていない。なぜ,「Stay home」だけではなく,都道府県という空間的範囲への言及が必要だったのであろうか。これは,2020年3月中旬から4月にかけて大都市圏での移動自粛要請やコロナ疎開と呼ばれる大都市圏から地方圏への移動による感染拡大が背景であると考えられる。政府の方針において最初に都道府県単位の移動制限の言及があったのは4月7日の7都府県への緊急事態宣言時であり,4月16日の緊急事態宣言の全国への拡大時により強調されることとなり,その後は既成事実化された。</p><p></p><p> 諸外国では,日本と同様に州や県単位での移動規制が多い。しかし,これは日本とは異なり法的強制力があるゆえ意味のあることである。そのような中,フランスでは自宅からの距離による移動規制をしていることは興味深い。</p><p></p><p> 日本においては,都道府県界という移動境界を明確化することはデメリットの方が大きいため,フランスで行われた機能地域的対策が,現行法の強制力がない中ではより現実的ではなかろうか。また,今回のように都道府県に強力な権限を委譲していくことを今後さらに進めていくのであれば,より住民の生活圏に合致する都道府県域の再編も視野に入れる必要がある。</p><p></p><p> </p><p></p><p> 本研究の遂行にあたっては,科学研究費補助金(基盤研究(B)「ローカルガバナンスにおける地域とは何か?地方自治の課題に応える地理的枠組みの探究」研究課題番号20H01393,研究代表者:佐藤正志)を使用した。</p>

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こんな論文どうですか? 緊急事態宣言に伴う移動制限に対する地域概念からの考察(畠山 輝雄ほか),2020 https://t.co/01C6e5sz9t <p><b>1</b><b>.はじめに</b></p><p></p><p> COVID-19(…
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