著者
畠山 輝雄 中村 努 宮澤 仁
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.486-510, 2018 (Released:2018-11-28)
参考文献数
19
被引用文献数
5 8

本稿は,ローカル・ガバナンスの視点から,地域包括ケアシステムに空間的・地域的なバリエーションをもたらす要因を考察するとともに,バリエーションごとの特徴と課題を抽出した.地域包括ケアシステムにバリエーションが生じる要因の一つには,自治体の人口規模の差異があり,それは地域包括支援センターの設置ならびに日常生活圏域の画定に関する基準人口によるものであるとわかった.小規模自治体では,単一の日常生活圏域における地域ケア会議を中心に集権型のローカル・ガバナンスとなる一方で,人口規模が大きくなるほど自治体全域と日常生活圏域の重層的なローカル・ガバナンスによる地域包括ケアシステムが構築される傾向にある.後者は,地域包括支援センターが日常生活圏域単位に複数配置される自治体において,各地域の特性を考慮した分権型のローカル・ガバナンスを統括するための自治体全域でのガバナンスが重視された結果である.
著者
畠山 輝雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.29-43, 2020
被引用文献数
1

<p>本稿は,全国の地方自治体へのアンケート調査により,公共施設へのネーミングライツ(以下,NR)導入の最新動向を明らかにし,その特徴について考察する.またそれを踏まえ,関連する既存研究と併せて今後の地理学的研究の可能性を探る.日本のNRは,地方自治体の脆弱財政下において官民協働や自主財源確保を目的とした広告事業の一環として導入されている.しかし,その導入状況には地域差が生じている.この理由として自治体の保有する公共施設の種類やスポンサーとなりえる企業等の立地状況が関係している.また,NR導入により施設名が変更されることで,施設名から地名が消失する事例も生じている.さらに,NR導入に対して,議会承認をはじめとする合意形成が行われていないことも明らかとなった.これらの課題に対して,経済地理学,行政地理学,地名研究,政治地理学,社会地理学をはじめとする地理学的研究の蓄積が望まれる.</p>
著者
畠山 輝雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.22-39, 2012-01-01 (Released:2016-12-01)
参考文献数
28
被引用文献数
5 6

本稿は,2006年の介護保険制度改正に伴い新設された地域密着型サービスの地域差の実態とその要因について明らかにした.地域密着型サービスの地域差は,従来の介護保険サービスに比べて大きく,小規模市町村を中心としたサービスの未実施市町村と,充足指数の高い人口1~5万人程度の中規模町村の存在が要因となって生じていた.サービスの未実施市町村は小規模市町村に多いが,これは市町村による整備目標の未設定という,市町村の意向が反映された結果である.一方で大都市圏の中核都市では整備目標を設定したにもかかわらず,事業の採算性を考慮した事業者の消極的な参入という,事業者の地域的な参入行動が大きく影響していた.このように,サービスの地域差には市町村施策が少なからず影響しているものの,最終的なサービス供給量を規定している事業者の参入行動が大きな影響を与えていることが明らかとなった.
著者
畠山 輝雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.13, pp.857-871, 2007-11-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
15
被引用文献数
5 5 1

平成の大合併では, 財政的な議論が中心となり, 住民サービスへの対応が後回しとなったため, 峠などのサニビスの地理的分断条件を伴う合併が全体の約4分の1を占めた. そこで, 地理的分断条件が高齢者福祉サービスへ与える影響について, 群馬県沼田市を事例に明らかにした. 沼田市では, 白沢地区と利根地区の間にある椎坂峠が通所サービスの分断条件となっていた. 合併後のサービス体制の不備の結果, サービス空間の再編成が行われたにもかかわらず, 峠越えによる時間的, 精神的負担および住民意識における旧市町村の枠組の残存が要因となり, 合併当初は地区間のサニビスの相互利用は進まなかった. 地理的分断条件を含む市町村においては, 合併後の高齢者福祉サービスに関する計画について, 市町村域を一体的に考えるのではなく, 地理的条件を考慮した上で, 旧市町村域もしくはさらに詳細な地域ごとに計画を作成する必要があ名.
著者
畠山 輝雄 駒木 伸比古
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p><b>1</b><b>.はじめに</b></p><p></p><p> COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大に伴い,人間の移動がウイルス感染拡大に影響するという観点から,各国で独自の移動制限が行われた。日本でも新型インフルエンザ対策特別法(以下,特措法)に根拠を置く緊急事態宣言に伴い都道府県を単位とした「移動自粛要請」という形で対策が行われた。このような中,特措法や緊急事態宣言に関わるさまざまな計画や提言,方針において「地域」が使用され,それらを背景として,国内の移動制限が行われた。しかし,これらで使用された「地域」は,異なる空間的範囲や用途による抽象的な表現であったため,具体性の欠如や実態との乖離が生じている。</p><p></p><p> 地理学では,地域概念として「地域」を類型化し説明してきた背景があるため,本報告では緊急事態宣言に伴う移動制限に対して地域概念という視点から考察する。</p><p></p><p><b>2</b><b>.研究方法</b></p><p></p><p> まず,COVID-19の感染者数の空間分布について,各都道府県のウェブサイトから抽出したデータにより都道府県単位と保健所管轄区等の単位により比較をした。その上で,移動制限に関する権限の考察を,特措法の条文と各都道府県の新型インフルエンザ対策行動計画から考察した。そして,移動自粛要請を都道府県単位とした経緯について,新聞記事検索や政府の関連資料,全国知事会資料から考察した。さらに,海外の移動制限との比較をするために,各国における日本大使館のウェブサイトに掲載される資料から考察した。</p><p></p><p><b>3</b><b>.都道府県単位の移動制限と地域概念</b></p><p></p><p> COVID-19の感染者数の空間分布は,一般的に都道府県単位で公表されているが,保健所管轄区等の単位で再集計したところ,都道府県内でも空間分布に地域差があり,一様ではないことが明らかとなった。</p><p></p><p> 以上よりCOVID-19の感染分布と移動制限を地域概念から考察すると,COVID-19の感染拡大地域は「等質地域」であり,感染要因は飛沫感染や接触感染が多いことを考えると,人間の行動圏(「機能地域」)と大きく関係する。このような等質地域や機能地域という実質地域で生じている問題を,「都道府県をまたぐ移動の自粛」という形式地域単位での移動制限によって感染防止対策をした。</p><p></p><p> 都道府県単位で移動制限を行うメリットには,万人にわかりやすく,規制や監視をしやすいことが挙げられる。都道府県知事には,緊急事態宣言により住民の移動自粛要請をする権限が国から委譲され,それにより自動車ナンバー調査や都道府県境による体温チェックなどが行われた。しかし,特措法では自粛要請として強制力はない。つまり,上記のような移動制限の明確化は,結果として自粛警察による監視を促す結果となった。これはデメリットでもあり,移動に関する明確な境界設定による差別や偏見がおき,県外ナンバーへの嫌がらせも生じた。</p><p></p><p><b>4</b><b>.都道府県単位の移動制限の経緯と諸外国との比較</b></p><p></p><p> そもそも,特措法には移動自粛についての言及はあるが,その空間的範囲については明確に示されていない。なぜ,「Stay home」だけではなく,都道府県という空間的範囲への言及が必要だったのであろうか。これは,2020年3月中旬から4月にかけて大都市圏での移動自粛要請やコロナ疎開と呼ばれる大都市圏から地方圏への移動による感染拡大が背景であると考えられる。政府の方針において最初に都道府県単位の移動制限の言及があったのは4月7日の7都府県への緊急事態宣言時であり,4月16日の緊急事態宣言の全国への拡大時により強調されることとなり,その後は既成事実化された。</p><p></p><p> 諸外国では,日本と同様に州や県単位での移動規制が多い。しかし,これは日本とは異なり法的強制力があるゆえ意味のあることである。そのような中,フランスでは自宅からの距離による移動規制をしていることは興味深い。</p><p></p><p> 日本においては,都道府県界という移動境界を明確化することはデメリットの方が大きいため,フランスで行われた機能地域的対策が,現行法の強制力がない中ではより現実的ではなかろうか。また,今回のように都道府県に強力な権限を委譲していくことを今後さらに進めていくのであれば,より住民の生活圏に合致する都道府県域の再編も視野に入れる必要がある。</p><p></p><p> </p><p></p><p> 本研究の遂行にあたっては,科学研究費補助金(基盤研究(B)「ローカルガバナンスにおける地域とは何か?地方自治の課題に応える地理的枠組みの探究」研究課題番号20H01393,研究代表者:佐藤正志)を使用した。</p>
著者
畠山 輝雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<b>1</b><b>.はじめに</b><br> 近年,脆弱財政下の地方自治体における新たな収入源の確保策として,公共施設へのネーミングライツ(命名権)(以下,NR)が注目されている。NRとは,施設等の名称を企業等に売却して資金を得る方策であり,日本の公共施設では2003年に東京スタジアムで導入されて以降,全国の多くの自治体・公共施設に導入されている。そのような中で,大阪府泉佐野市の市名や,東京五輪後の新国立競技場への導入など,国民的な議論となる案件もある。また,横浜開港資料館,徳島阿波踊り会館,渋谷区宮下公園,京都市美術館,愛媛県県民文化会館では,導入検討時や導入時,導入後に住民や施設利用者,競合企業などから反発が生じたように,各地域で物議を醸すような事例も報道されている。<br> 報告者は,日本の公共施設にNRが導入された時期から追跡をし,研究をしてきた。しかし,統計的にまとまったものがなく,実態把握が困難なことから,2012年に全国の都道府県,市区に対してアンケート調査を実施した(畠山2014)。同調査では,大都市を中心にNRの導入が広がっていること,NRによる施設名称から地名が消失していること,NR導入に際して議会をはじめとする合意形成が図られていないことなどが明らかとなった。<br> 同調査後,わが国ではさらにNR導入が進んでおり,小都市や町村部にまで広がっている。そこで,報告者は公共施設へのNR導入の最新動向を明らかにするために,2018年11月に対象を全国の都道府県,市区町村にまで広げ,アンケート調査を実施した。本報告では,2018年に実施したアンケート調査の結果により,2012年時のアンケート調査との比較も含め,公共施設へのNR導入状況の考察を行う。<br> また,公共施設へのNRに関しては,既存研究では法学・行政学における法的解釈や導入手続きに関して,スポーツ経営学などにおける導入推進を前提とした事例分析が中心である。地理学では,Rose et al(2009)が,アメリカ合衆国の事例から公共の場に企業名を付与することの危険性を指摘し,地名研究の新たな方向性を示唆している。また日本における地名標準化を目的とした「地名委員会(仮称)」の設置に関する日本地理学会の公開シンポジウムでの提言でも,NRに関する懸念が指摘されている。しかし,これらは具体的な検証ではなく,地名研究からのさらなる検証が必要である。また,畠山(2017)や畠山(2018)では京都市を事例にNR導入に伴う合意形成や住民のアイデンティティの変化について分析をしている。このように,公共施設へのNRに対する地理学的研究の蓄積は少ないため,アンケート調査の結果を踏まえて今後の地理学的研究の可能性についても探りたい。<br><b>2</b><b>.研究方法</b><br> 本報告で使用するアンケート調査は,2018年11月に全国の都道府県および市区町村(1,788自治体)を対象に,郵送配布により実施した。回答は,報告者のウェブサイトに回答フォームをダウンロードできるようにし,郵送もしくは回答フォームのメールによる送付という2種類から選べるようにした。回収率は67.9%である。<br><b>3</b><b>.考察</b><br> NRを導入している自治体は1割強であり,その多くは都道府県や大都市の市区に集中している。これは,導入可能な大型施設を保有していること,スポンサーとなれる企業等が立地していることなどが要因である。また,畠山(2014)よりも,導入自治体は増加しており,小規模自治体でも導入するケースが増えた。導入施設では,スポーツ施設が多いほか,近年増加している歩道橋への導入が目立った。<br> 施設の名称(愛称)には,企業名や商品名,キャラクター名などさまざまな形態が存在する。このような中で,施設名称から地名が喪失したケースが多くみられる。これらの施設では,施設所在地が不明確になることや利用者のアイデンティティ喪失が懸念される。<br> 自治体がNRを導入する際の合意形成については,特に何もしていないケースが大半である。議会承認についても,ほとんどの自治体・施設で行われておらず,住民の税金等で建設される公共施設の名称変更に対する合意形成が図られていないことは大きな課題である。<br> 以上のように,地域政策としての合意形成のあり方や政策形成の地域差,さらに地名問題など,地理学的研究の必要性があると考える。
著者
畠山 輝雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.7, pp.503-518, 2004-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
26
被引用文献数
3 2

介護保険制度が2000年に導入されたことにより,高齢者福祉施設の利用に大幅な変化が生じたといわれている.本稿は,その中でも最も介護保険制度の影響が大きいと考えられるデイサービスセンターの立地とサービス空間の変化を明らかにすることを目的としている.デイサービスセンターは,高齢者福祉施設の中で最もサービス空間が狭域であり,従来の都道府県,市区町村別の分析では十分な把握が困難であるため,住区別に分析を行った.介護保険制度導入の結果,民間経営の定員の少ない施設が多く立地するようになった.そして,行政による措置制度が廃止されたことにより,各施設のサービス空間は施設を中心とした広がりへと変化し,地域的に拡大した.各住区においてデイサービスセンターの競合が生じており,福祉関連業界においても自由競争が生じ始めている.
著者
畠山 輝雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.476-488, 2016 (Released:2017-03-29)
参考文献数
22
被引用文献数
2

本稿は,徳島県三好市三野地区太刀野山地域を事例に,過疎地域における集落維持を目的とした廃校利活用事業の可能性と,同事業が地域住民へ及ぼす影響について明らかにした.太刀野山地域の廃校利活用事業は,域外からの社会的企業が三好市の休廃校等利活用事業を活用し,介護保険事業の地域密着型通所介護や地域支援事業(介護予防)を核としたコミュニティビジネスを実施している.同事業の結果,利用者の活動増加や健康増進がはかれただけでなく,太刀野山地域の住民の集落維持意識が向上した.このように,同事業は公民連携の「新しい公共」による地域づくりとしての事例だけでなく,近年過疎地域の地域づくりのあり方として議論されている「ネオ内発的発展論」の事例として,研究蓄積に寄与できると考える.
著者
畠山 輝雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<b>1.はじめに</b><br>&nbsp;近年,多くの地方自治体において,公共施設等の名称を売却して資金を獲得するネーミングライツ(以下,NR)の導入が増加している.わが国の公共施設では,2003年の東京スタジアムにおいて導入されて以降,増加の一途をたどり,2017年1月現在で約150自治体,約330施設に導入(が決定)されている.最近では,自治体名称を売却しようとした泉佐野市や,国立競技場への導入が報道されるなど,NRの認知度が上昇してはいるものの,一般的にはまだ認知度が低いのが現状である.<br>&nbsp;その一方で,NRにおいては,法制度的に確立したものがなく,これまで自治体の裁量によってNRの導入や施設の愛称決定がされてきた.畠山(2014)によると,NRに関して議会承認をした事例は7.5%,アンケートや住民説明会などの住民への合意形成を図った事例も13.0%にとどまっており,多くは行政内の選定委員会が最終決定機関となっている.しかしながら,前述したNRの認知度の低さも影響してか,NRの導入や愛称決定に際して住民や施設利用者等から反対運動などが起きた事例は渋谷区宮下公園などわずかである.<br>&nbsp;このような中で,2016年7月頃からNRの導入が検討され,同年10月に京セラ(株)への売却が決定した京都市美術館においては,議会,出展者団体,周辺住民団体が反対運動を起こし,さらに別の出展者団体がNRの導入への賛同を示すなど,NR導入に際する合意形成に苦慮している現状がある.<br>&nbsp;そこで本報告では,関係者へのヒアリングから,京都市美術館へのNR導入における関係者間の対立構造を明らかにし,NR導入における合意形成のあり方を提示したい.<br><b>2.京都市美術館へのNR導入に関わる動向</b><br>&nbsp;京都市では,2009年の西京極総合運動公園野球場への導入以降,11件の公共施設へNRを導入する実績を持っていたこともあり,老朽化に伴う美術館の再整備の資金を獲得することを目的としてNR導入を検討した.市当局によって募集要項が作成され,50年間50億円の契約を目安に2016年9月に公募が行われた.また,契約には施設名称売却以外にも,施設の優先利用権,展覧会の特別観覧権などの付帯権利も含まれた.<br>&nbsp;募集期間中には,市議会において公共の美術館への企業名称の付与がなじまないことや,NRの案件に関して議会が関与する権限がないことに対して異論が出され,その後10月には美術館の再整備に関する費用やNRも含めた捻出方法について市議会と議論を行うよう,「京都市美術館の再整備に関する決議」を全会一致で提出した.<br>&nbsp;また,美術館が立地する岡崎地域の住民による「岡崎公園と疎水を考える会」も,多くの芸術家が愛着を持ち,世界の美術館からの信頼を得る京都市美術館の名称を企業に売却することは恥として,9月にNR売却を撤回する請願書を683名の署名とともに,市議会に提出した.この行動は,美術館に隣接する京都会館にもNRが導入されたことにより,岡崎公園周辺の景観が変化したことも要因となっていた.また,京都市内で活動する芸術家36人によって発足された「京都市美術館問題を考える会」も,作品寄贈者への冒涜として,住民団体と協力して署名や市役所への抗議をした.さらに住民団体らは,NRを購入することとなった京セラへも撤回を要請する動きを見せている.<br>&nbsp;その一方で,12月には京都府内を拠点とする芸術家12人が市長と面談し,作品を発表する場が必要としてNR導入に賛同する激励文を渡す動きもあり,住民や芸術から関係者間での賛否両論がみられる.<br><b>3.おわりに</b><br>&nbsp;京都市美術館へのNR導入に関する対立構造は,美術館ないしは岡崎公園という「場所」への認識の違いが生じさせたといえ,その場所に表象される名称の変更がその対立の起因となったといえる.<br>&nbsp;現状では,NRに関しては法制度的に確立したものがない.このため,各自治体においてNRに関して議会承認を要する条例制定や,愛称ではなく正式名称として公共施設の条例を変更する議会承認を経ることで,合意形成を図る必要があろう.<br>
著者
畠山 輝雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

<b>1</b><b>.はじめに<BR></b><b></b> <br> 近年、全国の地方自治体では、景気停滞および脆弱財政下での新たな収入源の確保が課題となっている。税収をあげることに苦労する中で、多くの自治体で実施されているのが自治体の広告事業である。これは、自治体webサイトや広報、公用車、公用封筒などへの広告掲示が主流であるが、近年注目されているのが公共施設へのネーミングライツ(以下、NR)の導入である。<br> NRとは、施設の名称を企業等に売却して資金を得る民間資金活用策であり、1973年にアメリカ合衆国で最初に導入された。日本の公共施設では、2003年に東京スタジアムの名称を(株)味の素が購入した(味の素スタジアム)のが最初であり、それ以降多くの公共施設で導入され、2012年5月現在で82自治体159施設に導入されている(報告者が実施したアンケート調査より)。また、募集中の施設も多くみられる。<br> これまで地理学では、広告に関する広告の立地(屋外広告など)や空間的展開(求人広告、新聞折込広告など)に関する研究が行われてきた。また、広告に関する研究が多く行われてきた経営学では、広告の効果やニーズに応じた効果的な運用方法について検討されてきている。 NRについては、施設名称を企業等が購入するという性格上、広告となるのは企業(商品)名のみであり、そこにメッセージや連絡先、その他付帯情報を掲載することは困難である。また、広告が消費者に到達する手段は、直接的な施設への来場以外に、当該自治体webサイトへの施設名の掲載、マスメディア(TV、新聞、雑誌、各種webなど)への施設名の露出、地図(カーナビ)への掲載、道路看板への施設名の掲示など多岐にわたっている。これは、他の自治体広告事業でも見られないことである。また、一般的な広告と異なるのは、名称購入の対価として自治体に広告料を払うことにより、地域貢献という付加価値が生じることも特徴である。このように、新しくかつ複雑な到達手段および効果が考えられるため、地理学はもとより経営学をはじめとした関係分野でも研究蓄積が少ない。<br> そこで本研究では、徳島県を事例に、公共施設へのNRの広告到達範囲とそれを踏まえた広告効果について検討する。<br>&nbsp;<b>2</b><b>.徳島県の公共施設への</b><b>NR<br></b> 徳島県では、2007年に鳴門総合運動公園(鳴門・大塚スポーツパーク)と南部健康運動公園野球場(JAアグリあなんスタジアム)にNRが導入されて以降、多くの公共施設に導入され、2014年1月現在、13の施設にNRが導入されている。これは、宮城県に次ぐ全国で2番目の多さであり、スポーツ施設のほか、文化施設、社会教育施設、都市公園、歩道橋など多くの種類の施設に導入されている。また、利用者が限定される小規模な施設から、Jリーグのホームスタジアムとしてマスコミへの露出が高い施設まで存在する。そして、スポンサーも民間企業(地方銀行、食品)のほか、農協、労働金庫など多様であるため、研究事例として妥当であると判断した。<br>&nbsp;<b>3</b><b>.おわりに<br></b><b></b> 最も施設名称の到達範囲が広域と考えられるマスメディアの内、新聞への名称掲載から考察すると、徳島ヴォルティスや徳島インディゴソックスなどのプロスポーツクラブのホームスタジアムでは、徳島県域を越えた広域な到達範囲になる一方で、文化施設や社会教育施設などではほぼ県域にとどまっている。しかし、徳島県のNRスポンサーは、もともと県内在住者・企業等への広告効果を期待しており、また参入には地域貢献も重視しているため、NR参入の目的としては合致しているといえる。 ただし、NRの認知度や施設名称のみの露出に関する広告効果、地名と企業名が併せて表出することの意味などは明らかにできなかったため、住民へのアンケート調査の実施など今後の課題としたい。
著者
田中 絵里子 畠山 輝雄
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.124, no.6, pp.953-963, 2015-12-25 (Released:2016-01-27)
参考文献数
26
被引用文献数
2 2

This study clarifies contemporary perceptions of Mount Fuji on the basis of the sensibilities of the Japanese people, who are influenced greatly by subjective and sentimental ways of viewing landscapes. Over the course of history, the way in which the Japanese have perceived Mount Fuji has changed due to experiences in each successive era, whether these have been natural disasters that accompanied eruptions, the shifting vista of Mount Fuji as seen from moving political capitals, or the development of mountain-climbing routes; in other words, reflecting of subjective factors such as individuals' perceptions of nature and culture within the context of such experiences. This study is a quantitative analysis based on a questionnaire survey of contemporary Japanese perceptions of Mount Fuji following its registration on the UNESCO World Heritage List. From the results of the analysis, when considering the way Mount Fuji is perceived from the Japanese sense of landscape, a comparison with ways Mount Fuji was perceived in the past indicates the following: while some aspects of contemporary perception of Mount Fuji have been inherited from a past that reflects underlying Japanese views of nature and culture, there are also newer aspects that have originated from a more recent overall national experience of the movement for World Heritage registration and the social background revealed in media coverage following registration. However, no significant differences are found as to whether individual respondents' had ever climbed to the summit or lived in a region where Mount Fuji is visible. This appears to be a result of increased exposure to various of information on Mount Fuji in the mass media, which have provided supplementary information to citizens living far away or who have no personal experience of Mount Fuji. This can be said to have formed a unified national view of Mount Fuji.
著者
木原 資裕 皆川 直凡 立岡 裕士 藪下 克彦 内藤 隆 田村 隆宏 南 隆尚 町田 哲 久米 禎子 眞野 美穂 畠山 輝雄 小倉 正義 Motohiro KIHARA Naohiro MINAGAWA Yuuzi TATUOKA Katsuhiko YABUSHITA Takashi NAITO Takahiro TAMURA Takahisa MINAMI Tetsu MACHIDA Teiko KUME Miho MANO Teruo HATAKEYAMA Masayoshi OGURA
出版者
鳴門教育大学
雑誌
鳴門教育大学研究紀要 = Research bulletin of Naruto University of Education (ISSN:18807194)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.334-348, 2021-03-10

Naruto University of Education offers an undergraduate class called "Awa (Tokushima) Studies", which is taught by twelve instructors whose specialties span history, geography, psychology, art, physical education, and linguistics. In this class, after studying the background and history of Ohenro, a pilgrimage route in Shikoku, in classroom lectures, the students and the instructors walk a part of the pilgrimage route on a one-night-two-day trip, in which interdisciplinary studies are practiced. This class is an ideal opportunity for teacher training and therefore can serve to strategically promote Naruto University of Education as a unique university in offering such a class.
著者
畠山 輝雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2007年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.12, 2007 (Released:2007-04-29)

1.はじめに 平成17年国勢調査では、住民の調査拒否に伴う調査員の大量辞退、調査票の紛失、偽調査員による調査票の回収など、さまざまな問題がマスコミで報道された。これらの報道や個人情報保護法の施行に伴うプライバシー意識の高まりなどにより、調査票の未回収率が高くなった。 総務省によると、全国における調査票の未回収率は、4.4%(平成12年は1.7%)であり、都道府県別では東京都が13.3%と最も高いように、大都市部を中心に調査票を回収できなかった割合が高い。このため、悉皆調査としての平成17年国勢調査の精度は低いといわざるを得ない。それゆえ、国勢調査を使用して地域差を分析し、地域特性を明らかにすることがこれまで多く行われてきた地理学において、統計の精度が低く、また地域によって回収率が大きく異なっていることは、地域分析の手法の再考が必要な事態となっている。 2.調査票の未回収率が高かった要因 調査票の未回収率が高くなった要因は、調査員が世帯を訪問しても接触できない(不在、調査拒否、居留守など)、世帯が調査票を提出したいときに提出できないなど、現行の調査員による調査票の直接配布・回収の方法に限界がきているといえる。また、個人情報保護法は、国勢調査には適用されないにもかかわらず、法律を楯に調査拒否をするなど、国勢調査への国民の理解が低いことも原因となっている。 調査票の未回収率が高いのは、大都市部における若者の単身者層が多く居住している地域である。報告者が首都圏の大学生224人を対象に実施した国勢調査の認知度に関するアンケート調査によると、国勢調査の実施間隔49.1%、最近の実施年47.3%、国勢調査の義務性45.1%、回答拒否・虚偽申告による罰則12.1%、調査結果の活用方法(8種類の平均)48.8%などいずれも認知度が過半数にいたっておらず、大学生の国勢調査への理解度が低い実態が明らかとなった。 3.国勢調査に関する政府の対応 平成17年国勢調査において、調査票の未回収率が高かったことを受け、総務省は2006年1月に「国勢調査の実施に関する有識者懇談会」(座長:竹内啓東京大学名誉教授)を設置し、原因や今後の対策について議論した。そこでは、調査票の配布・回収方法の見直し(郵送、インターネットなど)や国民の理解および協力の確保(広報の展開、マスコミ活用、中長期的な教育)などが提言された。その後、この懇談会による報告を受け、2006年11月に「平成22年国勢調査の企画に関する検討会」(座長:堀部政男中央大学教授)が設置され、次回の国勢調査の実施へ向けて、現在議論をしているところである。 これらの会議における議論は、これまでのところ配布・回収方法などの方法論が主となっている。国勢調査への国民の理解については、議論はされているものの、具体的な対策はまだ出されていない。 4.おわりに 国勢調査の未回収率が高かった要因には、若者の調査への理解度の低さがあげられるが、国として調査の理解度の上昇に対する具体的な対策はまだ考えられていないようである。調査への国民の理解が得られないまま、郵送やインターネットによる配布・回収をすることになれば、さらに回収率が低くなることは確実である。国がマスコミ等を利用し、調査に関する理解度を得ようとしても限界はある。また、中長期的に小中高校などにおいて教育をすることは意義があるといえるが、次回の調査時には間に合わない。 そこで、国は社会学、行政学、統計学などの国勢調査を活用する学界(会)への依頼を通して、大学における教育を促す必要がある。地理学界(会)としても大学における講義を通して、学生への国勢調査への理解度を上げることが、平成22年国勢調査の回収率を上げる一助となると同時に、地域分析の有効な一指標として国勢調査を位置づけられよう。 また、平成17年の国勢調査については、使用時に回収率に応じた補正が必要であると考えられる。しかし、総務省は都道府県単位での未回収率しか公表していないため、最低でも市区町村単位における一律の未回収率の公表が望まれる。
著者
畠山 輝雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.29-43, 2020 (Released:2020-01-01)
参考文献数
34
被引用文献数
1

本稿は,全国の地方自治体へのアンケート調査により,公共施設へのネーミングライツ(以下,NR)導入の最新動向を明らかにし,その特徴について考察する.またそれを踏まえ,関連する既存研究と併せて今後の地理学的研究の可能性を探る.日本のNRは,地方自治体の脆弱財政下において官民協働や自主財源確保を目的とした広告事業の一環として導入されている.しかし,その導入状況には地域差が生じている.この理由として自治体の保有する公共施設の種類やスポンサーとなりえる企業等の立地状況が関係している.また,NR導入により施設名が変更されることで,施設名から地名が消失する事例も生じている.さらに,NR導入に対して,議会承認をはじめとする合意形成が行われていないことも明らかとなった.これらの課題に対して,経済地理学,行政地理学,地名研究,政治地理学,社会地理学をはじめとする地理学的研究の蓄積が望まれる.