- 著者
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林 秀弥
- 出版者
- 東京大学社会科学研究所
- 雑誌
- 社会科学研究 (ISSN:03873307)
- 巻号頁・発行日
- vol.61, no.2, pp.29-65, 2010
近時, 世界的に, 知的財産権を悪用した反競争的行為が問題となっている. 米国においては, Rambus事件やQualcomm事件, N-Data事件等において, 標準設定にからんだ特許権の不当な行使が問題となっている. また, 欧州では, Microsoft事件(2004年3月24日欧州委員会決定, 2007年9月17日第一審裁判所判決)において, Microsoft社が, ウィンドウズOSが搭載されたパソコンと, Microsoft製でないワークグループ・サーバーとの相互運用性(interoperability, なおこれに関する情報は知的財産権として保護されている)を意図的に制限することにより, また, 競争に直面していたウィンドウズ・メディア・プレイヤーをほとんどのパソコンに搭載されているウィンドウズOSにバンドル販売することにより, 同社はEUにおけるパソコンOSの独占的地位を「てこ」として用いることで市場支配的地位を濫用したとされた. その結果, 同社には, 技術情報の開示, AV再生ソフト未搭載版のWindowsの供給等, 厳しい是正措置が課されたほか, 4億9720万ユーロにも上る巨額の制裁金が課せられるに至った. 本稿は, この欧州Microsoft事件に特に焦点を当てることにより, 知的財産権を利用した市場支配力の濫用と競争法(独占禁止法)の関係について検討するものである.