著者
井上 彰
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社会科学研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.7-28, 2013

本稿は、1971年に公刊されたロールズ『正義論』のなかであまり注目されてこなかった第3部の議論が、『正義論』全体でいかに重要な役割を果たしているかについて、その批判的検討を通じて明らかにするものである。第3部でロールズは、善の理論と正義感覚についての議論を、経済学と心理学という20世紀後半に著しい発展をみせた経験科学的知見に基づいて展開した。その点に注目して本稿では、ロールズの契約論が『正義論』全体で反照的均衡の方法が展開されているとする解釈に基づいて、その方法論的特徴と第3部の記述的説明に軸足を置いた議論が切り離せないことを確認する。そしてその観点から、第3部で展開される善の理論と正義感覚についての道徳心理学に基づく議論をそれぞれ批判的に吟味し、両者ともに反照的均衡の方法から逸脱していることを明らかにする。結論的には『正義論』の目論見は失敗に終わっていると言わざるを得ないのだが、最近の経験的道徳心理学の進展は、『正義論』で展開された契約論的正義論の再検討・再構築に対し示唆的な一面をもっている。特集 社会科学における「善」と「正義」

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"経験科学的知見も確実なものはあり得ず,初期状況のさらなる精査を不要とするほどの盤石なものではない.だからこそ…暫定的な固定点としての役割は果たしうるという消極的な理由で直観からスタート" →ブクマ

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