- 著者
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釜江 陽一
- 雑誌
- 日本地球惑星科学連合2018年大会
- 巻号頁・発行日
- 2018-03-14
エルニーニョが発達した冬季に続く春から夏にかけて、インド洋と南シナ海では広域に渡り、海面水温の高温偏差が確認される。太平洋のエルニーニョの強制とインド洋・南シナ海の高温偏差により、北西太平洋では高気圧偏差が形成される。このインド洋キャパシタ効果によって半年遅れで現れる大気海洋系の応答は、その東アジア夏季気候への重要性と季節的な予測可能性ゆえに非常に注目されている。中緯度の強い水蒸気輸送帯はatmospheric rivers (ARs)と呼ばれ、北米西部や欧州における水資源や自然災害にとって非常に重要である。近年の研究により、ARsは北西太平洋でも頻繁に発生し、東アジア暖候期に発生する豪雨イベントと密接に関わっていることが指摘されている。本研究では、先行する冬季のエルニーニョがインド洋キャパシタ効果を通して東アジアのAR活動を大きく変えることを見出した。北西太平洋におけるAR活動は、大気再解析データでも、観測された海面水温変動によって強制された大気大循環モデル実験でも、一貫してエルニーニョ後の夏に強まる。エルニーニョが衰退する過程にある春から夏にかけて、インド洋の昇温により、東進するケルビン波と北西太平洋の高気圧偏差が励起される。この高気圧偏差に対応した湿潤なモンスーン南西風の強まりは、中国東部から韓国、日本を通過するARの発生を促進する。本研究の結果は、AR豪雨による東アジア自然災害のリスクの変動が、半年前から予測可能であることを示唆している。