著者
山田 将喜 釜江 陽一
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.609-620, 2022 (Released:2022-12-31)
参考文献数
36

令和3年8月中旬の大雨をはじめ,近年の東アジアでは,総観規模の水蒸気流入に伴って広い範囲で大雨となる事例が立て続けに発生している.中緯度で発生する細長くのびた水蒸気輸送帯は「大気の川」と呼ばれ,西日本や中部地方で暖候期に発生する強い降水との関係性が指摘されている.本研究では,日降水量の閾値を地域・季節ごとに設定することで,寒候期や北日本を含め,大気の川に伴って日本列島上の広い範囲で起こる強い降水の気候学的な特徴を調査した.寒候期には,大気の川による強い降水は西日本から中部地方にかけての太平洋側で発生する.6月から7月にかけては,東西にのびた前線に沿って大気の川が形成され,西寄りの水蒸気の流れ込みによって北陸から東北地方日本海側に2日以上続く強い降水をもたらす.夏季から秋季にかけては,日本の南海上に存在する台風から南寄りの水蒸気流が流れ込み,南北にのびた大気の川が発生することで,西日本から北日本の広い範囲で強い降水が2日以上続くことがある.
著者
釜江 陽一 植田 宏昭 井上 知栄 三寺 史夫
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.101, no.2, pp.125-137, 2023 (Released:2023-03-07)
参考文献数
31
被引用文献数
1

冬季オホーツク海における海氷分布は、極東域および北太平洋域の大気と強く相互作用する。先行研究は、オホーツク海海氷面積の年々変動は広域の大気循環と対応することを指摘している。一方で、オホーツク海における海氷面積の数日から1週間程度の時間スケールでの急激な変動に対応する大気現象については明らかにされていない。本研究では、日ごとの高解像度海洋再解析データを用いることで、オホーツク海海氷密接度の急激な減少イベントをもたらす大気循環について調査した。1993年から2019年にかけて、海氷急減イベントを合計21事例抽出した。急減イベントに共通した大気循環の特徴として、オホーツク海南部における発達した温帯低気圧とベーリング海北部における高気圧偏差、およびその間の強い地表の南東風が確認された。海氷の季節的な張り出しを左右する気候学的な西風とは逆向きである強い南東風は、オホーツク海海氷密接度の急減をもたらす。オホーツク海北部と中部で起こる海氷の急減は、海氷の移流と東風に伴う海氷融解によって起こる。東へと移動する温帯低気圧は、海氷密接度の急減と北太平洋北部の海面気圧の低下をもたらし、結果としてオホーツク海海氷密接度の変動とアリューシャン低気圧の強度の変動の間には時間差が存在する。
著者
見延 庄士郎 増永 浩彦 山本 絢子 杉本 周作 佐々木 克徳 時長 宏樹 釜江 陽一
出版者
北海道大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-06-28

日本の南岸に沿って流れる黒潮は,膨大な熱を熱帯から運びそれを日本付近で大気に放出する.この熱放出があることによって,中緯度大気が様々な影響を受けることが,最近十年間の高解像度観測データ解析および数値モデル実験で報告されてきた.しかし,この中緯度海洋が大気に及ぼす影響が異なる数値モデルでも同じように再現されるのか,またこの作用が将来の温暖化においてどのような役割を果たすのかは不明であった.そこで本研究では,これらの問題を解決することを目的として,多数の気候モデル,特に高解像度モデルデータの収集と解析を行う.
著者
直井 萌香 釜江 陽一 植田 宏昭 Wei MEI
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.98, no.3, pp.655-668, 2020 (Released:2020-06-20)
参考文献数
48
被引用文献数
11 15

中緯度の細い水蒸気輸送帯は大気の川と呼ばれ、東アジアにしばしば重大な社会・経済的影響をもたらす。夏季東アジアにおける大気の川の活動は、先行する冬季エルニーニョの発達に大きく左右される一方で、冬季から夏季にかけてのENSOの季節的な遷移が大気の川の活動にどの程度影響するのかは、明らかになっていない。本研究では、大気再解析と高解像度大気大循環モデルによるアンサンブル実験の結果を用いて、ENSOの季節的な遷移と夏季東アジアにおける大気の川の活動の関係を調査する。先行する冬季のエルニーニョから夏季のラニーニャへと早く遷移した年には、エルニーニョが持続または衰退した年に比べ、西部北太平洋の下層の高気圧偏差がより北へ拡大することにより、東アジア北部でより多くの大気の川が通過する。この高気圧の北への拡大は、海洋大陸と赤道太平洋上の凝結熱加熱偏差に対する大気の定常応答と整合する。再解析と大気大循環モデル実験とでは、中緯度の大気の川と循環の偏差が生じる位置が南北にずれており、これにはサンプル数が限られることとモデルバイアスが影響している可能性があり、東アジアにおける大気の川に関連した地域ごとの自然災害リスクの季節的な予測には課題が残されていることを示唆している。
著者
釜江 陽一
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

エルニーニョが発達した冬季に続く春から夏にかけて、インド洋と南シナ海では広域に渡り、海面水温の高温偏差が確認される。太平洋のエルニーニョの強制とインド洋・南シナ海の高温偏差により、北西太平洋では高気圧偏差が形成される。このインド洋キャパシタ効果によって半年遅れで現れる大気海洋系の応答は、その東アジア夏季気候への重要性と季節的な予測可能性ゆえに非常に注目されている。中緯度の強い水蒸気輸送帯はatmospheric rivers (ARs)と呼ばれ、北米西部や欧州における水資源や自然災害にとって非常に重要である。近年の研究により、ARsは北西太平洋でも頻繁に発生し、東アジア暖候期に発生する豪雨イベントと密接に関わっていることが指摘されている。本研究では、先行する冬季のエルニーニョがインド洋キャパシタ効果を通して東アジアのAR活動を大きく変えることを見出した。北西太平洋におけるAR活動は、大気再解析データでも、観測された海面水温変動によって強制された大気大循環モデル実験でも、一貫してエルニーニョ後の夏に強まる。エルニーニョが衰退する過程にある春から夏にかけて、インド洋の昇温により、東進するケルビン波と北西太平洋の高気圧偏差が励起される。この高気圧偏差に対応した湿潤なモンスーン南西風の強まりは、中国東部から韓国、日本を通過するARの発生を促進する。本研究の結果は、AR豪雨による東アジア自然災害のリスクの変動が、半年前から予測可能であることを示唆している。
著者
植田 宏昭 小塙 祐人 大庭 雅道 井上 知栄 釜江 陽一 池上 久通 竹内 茜 石井 直貴
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.777-784, 2011-09-30

筑波山の東西南北4斜面上に,標高約100m間隔で気温ロガーを設置し,2008年6月1日から2009年5月31日までの期間において,30分間隔の通年観測を行った.斜面温暖帯を定量的に議論するために,麓からの逆転強度を斜面温暖帯指数(Thermal Belt Index;TBI)として定義した.TBIの大きさは,冬季を中心に極大となり,標高200〜300mを中心に斜面温暖帯が形成されていた.斜面温暖帯の年間発生日数を各斜面で比較すると,西側103回,東側99回,南側59回,北側35回であった.斜面温暖帯を規定する広域の逆転現象との関係を議論するために,平野部に設置されている気象観測鉄塔データと斜面上の気温を比較した.