著者
平田 直 汐見 勝彦 加納 靖之
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

近年、地球科学の分野においても、様々なデータのオープン化の取り組みが行われている。1995年に発生した阪神・淡路大震災が、地震学分野におけるデータのオープン化の起点となった。この震災の発生を契機として政府に設置された地震調査研究推進本部は、1997年8月、地震や地殻変動の観測を含む基盤的調査観測の基本的な考えをまとめた計画(地震に関する基盤的調査観測計画)を公表した。この計画に基づき、防災科学技術研究所(防災科研)は地震観測網(Hi-net, F-net, K-NET, KiK-net)を、国土地理院はGNSS連続観測システム(GEONET)をそれぞれ日本全国に整備した。また、この計画では、基盤的調査観測の結果を公開することを原則とし、円滑な流通を図るよう努めることが定められている。現在、上記ならびに大学等の研究機関による観測データはオンライン共有されており、様々な防災情報の発信や研究開発に活用されている。また、基盤的調査観測計画に基づく観測データはインターネット上でも公開されており、各機関が定めたポリシーに従うことを前提に、ウェブサイトから自由にダウンロードして利用することが可能である。地震観測網については、その後、南海トラフ域の地震・津波観測を目的としたDONETが海洋研究開発機構により構築されたほか、2011年東日本大震災の発生を受け、日本海溝沿いに海底地震津波観測網(S-net)が防災科研により整備された。2016年4月にDONETが防災科研に移管されたことを受け、現在は、陸域の地震観測網、基盤的火山観測網を含めた陸海統合地震津波火山観測網MOWLASとして防災科研による運用およびデータ公開が行われている。大学においても、微小地震観測のデータを公開する「全国地震データ等利用系システム」が整備されたのをはじめ、気象庁の観測情報や統計情報、国土地理院の測地データ、産業技術総合研究所の地質・地殻変動データなど、大学・研究機関での地震学に関わるデータ公開が進んできた。学術界でのオープンデータの動きだけでなく、国や地方自治体によるオープンデータの流れも背景にある。一方、大規模な観測システムを将来にわたって維持し、データ公開を継続するためには、データの必要性や有用性を客観的に示す必要がある。また、学術雑誌等において、解析に使用したデータを第三者の検証用に容易に参照可能とすることを求める傾向が強くなっている。このような要望に対応することを目的として、防災科研MOWLASの観測波形データに対し、DOI(Digital Object Identifiers;デジタルオブジェクト識別子)の付与がなされた。海洋研究開発機構、国立極地研究所でも既にDOIを付与した多様かつ大量のデータの公開がなされている。機関や研究グループとしてデータに識別子をつける方向性のほか、データジャーナルやデータリポジトリを通じたデータの公開の例も増えつつある。これらの取り組みは、データの引用を容易にするとともに、広く公開されているデータの利用価値を客観的に把握し、データ生成者のコミュニティへの貢献度を評価する指標となることが期待されている。また、研究成果(論文等)の公開(オープンアクセス)、データの公開(オープンデータ)だけでなく、研究の過程もオープンにする取り組み(オープンコラボレーション)も実施されている。例えば、観測記録や地震史料を市民参加により研究に利用可能なデータに変換そたり、地震観測に市民が参加するなどの試みである。これらは研究データを充実させるとともに、研究成果を普及し、「等身大の地震学」を伝えるためにも有効であると考えられる。さらに、データをオープンにした場合、研究者コミュニティの外でも有効活用されるために必要となるツールの整備や、データの意味を正確に伝えるための工夫も必要となってくる。データのオープン化は今後ますます進むと考えられ、多様なデータのオープン化が地震研究を活性化することは疑いない。一方で、効率的にデータ公開を進めるためのデータフォーマットや公開手段の標準化、公開のためのハードウェアの構築や維持にかかるコストの確保、観測などのデータの生成から公開までの担い手の育成、など課題も多い。日本地震学会2019年度秋季大会では「オープンデータと地震学」と題する特別セッションを開催し、上記のような現状把握や、学術界を取りまくオープンデータの状況、個別の取り組みについて広く情報交換を行なった。学会内での議論はもちろんのこと、関連の学協会や学術コミュニティとの連携をはかりつつ、地球惑星科学分野のオープンデータの進展を追求したい。

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