- 著者
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伊豆 裕一
イズ ユウイチ
- 雑誌
- 静岡文化芸術大学研究紀要 = Shizuoka University of Art and Culture Bulletin
- 巻号頁・発行日
- vol.21, pp.67-76, 2021-03-31
子供は1歳半ほどから絵を描き始め、4歳になる頃には輪郭と数本の線で表現された人の顔を描くようになるといわれる。このように目で見たものを描画する能力は人類に共通したものであるが、やがてこの能力には個人差が現れ、多くの場合それは才能によるものと考えられてきた。一方、近年課題解決手法として注目されるデザイン思考では、仮説推論を行うための手法の一つとしてスケッチが推奨されるなど、描画行為の包括的な創造活動への活用が期待されている。これに対し、ベティ・エドワーズ博士により1979年に出版された『脳の右側で描け』は、目で見たものを描画する行為においては、描く技術よりも右脳による知覚が大切であり、それを実感できる方法として絵を倒立させて描く倒立描画を紹介している。 本研究は、知覚と描画の関係について知見を得ることで、描画行為の包括的な創造活動への活用に向けた研究の基盤とすることを目的とする。そのためにデッサン技法を習得しているデザイン学生とデッサン教育は受けていない人文学生に、正立と倒立、2種類の人の顔のイラストを描画させ分析した。その結果、人文学生の多くは倒立の方が上手に描けた一方、デザイン学生の多くに正立と倒立の差は見られず、描画教育が右脳による知覚に影響を与えることが示された。しかし、顔の印象の把握には他の要因が影響することも示唆された。