著者
ウィボヲ アリフ サルヲ 篠野 志郎 齋藤 敦
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.71, no.605, pp.189-197, 2006

インドネシアのジャワ島は、17世紀から20世紀初頭にかけオランダの植民支配下におかれた。その影響の下、一地方都市であるクドゥスでは、20世紀初頭になり、オランダ人が建てたコロニアルハウスを模した住宅が現地の富裕層によって建設されるようになる。これまでにもジャワ島のコロニアルハウスについては部分的に研究されてきたが、それらは大都市に建つものを対象としている。一方、オランダ人の建てたコロニアルハウスとは対照的に、こうした地元住民が建てた住宅は、インドネシアにおける都市の近代化を考察する上で重要な主題であるにもかかわらず、十全な研究がなされていない。こうしたことから、本稿では2004年から2005年にかけて行った、計3回の現地調査で得られたデータを基に、まずはクドゥスに現存する地元住民が建てたコロニアルハウスの現状を報告するとともに、その特徴をクドゥスでオランダ人が建てたコロニアルハウスとの関係において考察するものである。なお、現在のクドゥスには77棟のコロニアルハウスが現存し、うち実測の許可が得られたのは51棟である。19世紀初頭、クドゥスはオランダ東インド政府の統治下に置かれ、オランダ人が設立した砂糖会社や鉄道会社を基盤とした都市の急速な産業化が興った。この産業化は、時間の経過とともにオランダ人から地元住民の手によるタバコ産業や中国人の企業家へとその主導者を変えながら推し進められた。そうした政治・経済状況を背景に出現したコロニアルハウスは3系統に分類できる。初期のコロニアルハウスであるオランダ人建設のダッチ・コロニアルハウスは、その建設年代や職種に関係なく、(デザイン)様式はほぼ一貫しており、基本的に他の地域に既に普及していたコロニアルハウスの住宅様式を踏襲したものであると推察される。その様式は、多少の修正を加えつつ、タバコ会社以外の地元住民が建てたネイティブ・コロニアルハウスに引き継がれていった。一方、タバコ会社のコロニアルハウスに見られた特徴からは、ダッチ・コロニアルハウスの様式の踏襲とは異なり、住宅様式の独自の展開が窺える。換言すると、この住宅様式の差異は、地元住民がコロニアルハウスを建設する際に、自身の生活様式に適用する過程において1930年代という限られた時間の中で発生した現象であると推察できる。