3 0 0 0 IR 夢幻と表現

著者
クラティラカ クマーラシンハ
雑誌
崇城大学芸術学部研究紀要
巻号頁・発行日
no.7, pp.129-137, 2014

能の起源は、平安時代から鎌倉時代にかけて栄えた「猿楽」という芸能にある。能は一般に現在能と夢幻能に分けられる。夢幻能では、神や幽霊である主人公が旅人などに昔のことを語って聞かせる。そうした主人公は、最初はありふれた人間の姿を借りて現れ、やがて昔の姿や本来の姿になって登場する。そして「シテ」と呼ばれる主役の演劇が中心におかれ、「ワキ」と呼ばれるゆき役はシテの話を引き出すための演技を行う。夢幻能の呼称は、ワキが見た夢幻によって作品が成立していることに由来している。「ワキ能物」、「修羅物」の多くがこの夢幻能に属している。世阿弥は夢幻能の傑作を数多く世に送り出した。他方、「現在能」に登場する人物の殆どは生きている人間で、夢幻能とは異なり、シテだけでなく、ゆき役も活躍する。親子や男女の情愛とそれに伴う苦悩がつづられている作品や、武士の勇気などを描いた作品が多くみられる。代表的な作品には、曽我兄弟の敵討ちを描いた「夜討ち」「楚歌」や、若き日の源義経、すなわち牛若丸の活躍を描いた「烏帽子折」などがある。
著者
クラティラカ クマーラシンハ
出版者
崇城大学
雑誌
崇城大学芸術学部研究紀要 (ISSN:18839568)
巻号頁・発行日
no.5, pp.95-100, 2011

日本に仏教が伝来したのは紀元6世紀のことである。以来、日本ではさまざまな宗派が誕生し、鎌倉時代には、天台、真言、阿弥陀、禅、日蓮などの宗派も出揃い、仏教が隆盛したといわれる。能芸能にみられる仏教的要素は、主に阿弥陀経や禅宗から影響を受けたものが多く、「道成寺」や「隅田川」などの能には、その2つの宗派の思想が織り込まれているといえる。筆者は、この時代の能楽作家は、鎌倉時代の民衆の苦しみを反映して、人々の憂いを和らげることを目的としていたのであろうと考える。また世阿弥が書いた能楽についての書物にもそうしたねらいがみえる。また能楽には、幽霊や魂などといった架空の存在を頻繁に登場させることによって、観客を仏教的精神世界に導きやすくしているようにもみえる。それは、阿弥陀経(浄土教)が、念仏を唱えることによって穢土から極楽浄土へ生まれ変われると説く手段と共通する部分があるように思える。