著者
坂井 美日 サカイ ミカ
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
no.11, pp.66-83, 2013-03

本論では、現代熊本市方言における主語マーカーの使い分けを記述し、以下の点を指摘する。①主語に立つ名詞句が人称名詞の場合は、述語の性質にかかわらず主語は全て「ガ」で表示される。人称名詞の階層におけるアラインメントは、典型的な対格主格型である。②主語に立つ名詞句が人称名詞以外の場合、述語の性質がガ/ノ表示を決定する要因となる。この場合、他動詞述語文と意志自動詞述語文の主語は「ガ」でマークされ、一方、非意志自動詞述語文と形容詞述語文の主語は「ノ」でマークされる。すなわち、活格的な性質を有する(但し他動詞目的語は「バ」という別表示であるため、「活格型」ではない)。③当方言では更に、敬語接辞やアスペクト辞を述語に付すことで「ガ」「ノ」の使用が変化する。その結果当方言は、一部の文法環境において、日本語としては希少な「三立型」のアラインメントを持つ。
著者
坂井 美日 Sakai Mika サカイ ミカ
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
no.10, pp.30-47, 2012-03

熊本市方言は,準体助詞として「ツ」と「ト」という二つの形式を持つ。本論では,この「ツ」と「ト」の違いを,形態音韻面,意味面,統語面から検討し,次のことを述べる。形態音韻面 : ・直前の用言が動詞連体形の場合,「ツ」は用いられない。・直前がタ形・形容詞の場合は「ツ」「ト」両者が現れうる。意味面 : ・「ツ」と「ト」が両方現れうる,すなわち二者が対立しうる環境においては,「ツ」と「ト」では意味解釈に違いが生じる。この際,「ツ」を用いた準体句は形状性(モノ・ヒト),「ト」を用いた準体句は作用性(コトガラ)の解釈となる。・しかし,機能語である「ツ」と「ト」自体に意味があるわけではない。統語面 : ・「ツ」と「ト」では,統語的には「ツ」の方が名詞と似た振舞をする。・一方「ト」は,名詞に置きかえられないコピュラや終助詞(「~ノダ」「~ノカ」)等にも用いることができ,より機能的に振舞う。・「ツ」=《モノ・ヒト》と「ト」=《コトガラ》という分布は,名詞性(指示性)の違いで捉えられる。このことで,コピュラや終助詞等における「ツ」と「ト」の違いも説明できる。