著者
ソジエ内田 恵美
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.2_177-2_199, 2018 (Released:2021-12-26)
参考文献数
29

戦後首相による所信表明演説を言説分析した結果, 終戦直後は, 「考えます」 「思います」 などの個人の内的意識を述べる “mental process” (心理過程) の割合が高かったが, 時代が進むと減少し, 次第に 「進めます」 「取り組みます」 と言った, 国民への約束や働きかけなど外的行動を表す “material process” (物質過程) が増加していた。この首相の言説変化を従属変数として, 経済の動向・メディアの発達・無党派層の増加の影響を重回帰分析によって検証した。その結果, ①高度成長期には, 首相演説はメディア普及率に最も強く影響を受け, 次に経済の動向の影響を受けた。②安定成長期も, メディアの普及率に最も強く影響を受け, 次に経済の影響を受けた。③バブル経済崩壊後は, メディア普及率に最も強く影響を受けたが, 同時に, 自民党分裂後に約50%に達した無党派層の急増の影響も受けていた。これらを解釈すると, 歴代首相は, 有権者に対してアカウンタビリティを果たさなければならないという意識が徐々に高まってきたと言える。そして, その首相の意識の変化には戦後一貫してメディアが最も強く影響してきたと, 本稿のデータは示している。
著者
ソジエ内田 恵美
出版者
早稲田大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

モーリシャス共和国は植民と移民の歴史から成り立ち、インド・中国・アフリカ・ヨーロッパ・ミックス系と多民族・多言語社会である。モーリシャス共和国は1968年の独立以来、砂糖黍の単一産業による植民型経済から、繊維・観光・ITなどからなる複合型経済へと変革を成功させ、アフリカ圏随一の高い経済発展を経ている。グローバル経済への参加は、英語・仏語といった旧宗主国言語を国際共通語として促進する傾向が強いが、各政党はその動きとは逆に、支持基盤確保を狙い、モーリシャス独自の言語であるクレオール、祖先の言語にあたるインド系や中国系言語を優遇する政策を掲げてきた。本研究では、社会的特徴が異なる中学校六校の生徒562名と教員45名にアンケート・インタヴューを行い、その言語状況を調査した。参加者は全員多言語話者であり、典型的な例として、家族や友達とはクレオール、学校の教員とは英語・仏語、宗教儀式はヒンディー、アラビア語、仏語、Eメールでは英語・クレオールと、使い分けることが多い。学校で使用される教授言語は、英語のみが一番多く、英語・仏語・クレオールの混合型が続いた。都市校よりも田舎校の教員はクレオールを含む多言語を使用し、生徒の満足度も高い。クレオールに対する態度にも都市・田舎での差異がみられ、田舎校ではクレオールにより好意的な意見が多い。田舎校では、クレオールは指導言語として使用されるべきと考え、またクレオールの綴りが標準化されるべきと考える生徒の割合が高い。言語に対するイメージとしては、英語・仏語は概ね、社会・経済的成功をもたらす権威ある国際語として認識されており、歴史上植民宗主国から強制された言語との見方はほとんどない。祖先の言語は年配者や祖先の文化への尊敬の念を示すものとして捉えられるが、実用的でないとの意見も顕著である。クレオールはモーリシャス人としてのアイデンティティを形成すると考えられるが、学習意義に対する意見は多岐に渡る。モーリシャスの若い世代は植民地としての過去に囚われることなく、その独自の多文化性を誇り、国際社会における経済的成功を重視する傾向が強い。母語(日本語)における教育が基盤となっている日本は、植民地としての過去を持つモーリシャス共和国とは社会・歴史・経済的状況が大きく異なる。しかし、グローバル化が進みにつれ、英語などの目標言語を指導言語とするイマージョン教育は、その重要性を増してきた。そのため、モーリシャスの教育制度に見られるようなアプローチで、初期から外国語を使った教育を導入する必要があるだろう。しかし、本研究で田舎校の教員がクレオールの使用で示唆したように、生徒に外国語で学問の本質を学ばせるため、そしてそれを確かめるためには、母語による教育は不可欠である。