- 著者
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デグズマン マリア カリナ
花里 俊廣
冨江 伸治
- 出版者
- 日本建築学会
- 雑誌
- 日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
- 巻号頁・発行日
- vol.66, no.545, pp.107-114, 2001
- 被引用文献数
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フィリピンにおける集合住宅開発の歴史はまだ浅く,フィリピン特有の生活様式にあった住戸空間の形成に向けた研究は,まだ不十分な段階にある。本研究の目的は、こうした状況を踏まえて、フィリピンのマニラ首都圏に政府によって建設された2つの集合住宅を対象として住まい方調査を行い、異なる所得層のために計画された住戸空間の間に存在する共通性、類似性、および相違点を明らかにし、フィリピンにおける集合住宅計画の糸口を得ようとするものである。具体的な調査対象は、ケゾン市バランガイ・コモンウェルスのMRB住宅(Quezon City Baranggay Commonwealth Housing Project)1996年完成/フィリピンにおける公共集合住宅の最近の事例)と、同市ディリマン(Diliman)のサン・ヴィセンテ・グリス住宅(San Vicente Bliss Housing Project), 1980年完成/フィリピンにおける公共集合住宅の初期の事例)である。前者の入居対象は低所得層、後者は準低所得層が想定され、各住戸ユニットの床面積は、前者が19.50m^2、後者が54.00m^2と、規模に差がある。また、両住宅ともオーブン・プラン方式を採用しており、入居時点で、電気、水道関連設備以外、間仕切り、仕上げ等は入居者が自由に行うことになっている。フィリピンにおける公共住宅開発においては、このような方式が一般的である。したがって、調査対象2例の場合も、入居者が各ユニット内の空間構成を決定、デザインしたものである。研究の方法は、各々の住戸ユニット内での住まい方を調査したうえで、空間構成をスペース・シンタックス(Space Syntax)手法を用いて空間構成を解釈し、両者を比較して類似点、相違点を示す。MRB住宅については、調査した50戸の住戸ユニットの一戸あたりの平均居住者数は4.62人であり、空間構成は居間を玄関に直接隣接して配置し、食堂・台所、寝室への導入空間として位置付けるという一定のハターンが見出された。また、狭い住戸面積のため寝室では2段式ベットを使用する場合が多く、居間を寝室として兼用するケースも見られた。寝室空間および収納スペースを確保するために、屋根裏・ロフトを設けることも一般化していることが分かった。サン・ヴィセンテ・ブリス住宅で調査した30ユニットについては、平均居住者数は5.85人であった。空間構成では居間が玄関に直結する傾向を示し、その点でMRB住宅の事例と類似している。ここでも食堂・台所がその他の部屋への移動の中心的経由空間としての役割を有していることが確認された。この住宅は、各住戸ユニットが比較的広い床面積を有していることから、寝室空間が食堂・台所に隣接する形で十分確保さわていた。また2室以上の寝室を有するケースでは、1部屋が居間に隣接する形で設けられていた。以上のような調査から、フィリピンの公共集合住宅の住戸ユニット内の空間構成について以下のようにまとめることができる。1)ジャステイファイド・グラフ(Justified Access Graph)では、2事例の住宅ともに当然ながら共通して、居間が住戸ユニット内と住戸外空間とを結び付ける空間的役割を担っていることが示された。さらに、住戸ユニット内の殆どの部屋が食堂・台所と隣接する形で配置されており、食堂・台所が住戸ユニット内で空間的な中心的機能を果していることが確認された。2)居間および食堂・台所の奥行(Relative Assymetry)算定値は低く、雨空間か居住者の日常生活において最も頻繁に使用されていることを示している。このことは、ジャスティファイド・グラフが視覚的、図式的に示した住戸内の空間の相互の連関状況を裏付けるものであり、両空間が各住戸内で営まれる生活において極めて高い統制機能を有することを実証している。同様のことは、空間統制値(Controlvalue)の算定数値によっても確認することができた。結果として、フィリピンの公共集合住宅では、住戸の規模の大小に関わらず、居住者の使い方を反映した空間の構成・配置において一定の構成をなしていることを明らかにした。ただし、詳細にみると床面積規模が各室の住まい方に影響を与えており、サン・ヴィセンテ・ブリス住宅では各室とも特定の機能、目的に応じて使い分けられているのに対して、MRB住宅では限られた床面積の影響から各室が複数の機能を担っており、たとえば居間は寝室、子供の学習空間、さらには食堂を兼ねているケースがある等の状況を示した。