- 著者
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ドンゼ ピエール=イブ
- 出版者
- 社会経済史学会
- 雑誌
- 社会経済史学 (ISSN:00380113)
- 巻号頁・発行日
- vol.77, no.3, pp.407-423, 2011-11-25 (Released:2017-05-19)
本稿では,服部時計グループを事例として,日本における高精度時計の大量生産の成立過程を,戦時期から1950年代を中心に,その前史たる戦前期の状況にも言及しながら分析する。1920年代以降,服部時計による小型時計生産は拡大をとげたが,生産されたのはスイス時計の模倣品であり,またその生産において,同社は中核部品と工作機械をスイス等の国外に依存していた。敗戦後,同社は軍需品生産の経験を持つ大卒エンジニアを採用し,互換性部品に基づく高精度時計の大量生産を目指した。同社や関連の企業は,産官学の連携に基づく共同研究の成果にも支えられ,1950年代半ばに,部品の互換性と,中核部品や工作機械の国産化を実現した。これにより同社は,技術的な対外依存から解放された。1956年に同社が開発した腕時計(Marvel)は,互換性に基づく大量生産品であるにもかかわらず,スイス製品並みの高い精度を誇り,1970年代に同社がクォーツ革命という製品革新を実現するまで,同社の国際競争力を支えた。