著者
大平 美咲 角銅 しおり 門司 映美 鍋島 一樹 塩貝 勇太 深山 慶介 ハーランド 泰代 植野 拓 中司 貴大 澤田 芳雄
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.332, 2010

【目的】<BR>包括的呼吸リハビリテーション(以下、呼吸リハ)における患者教育の重要性は広く認識され、効果も実証されつつある。しかし、呼吸器疾患に対するクリニカルパスは、さまざまなバリアンスがあるため困難なことが多く、慢性呼吸器疾患に対するクリニカルパスについての報告は少ない。今回、当院にて2週間の呼吸リハビリテーション教育入院を開始し初期評価での継続と非継続の因子の検討を行った。<BR>【対象】<BR>2008年2月~2009年12月に入院しインフォームドコンセントが得られた慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)患者(継続群10名68歳±14歳、非継続群11名 71歳±21歳)。<BR>【方法】<BR>入院期間の2週間で運動療法と多職種での包括的な患者教育を中心とした呼吸リハビリテーションクリニカルパス(以下、呼吸リハパス)を作成した。肺機能検査(肺活量、%肺活量 以下%VC、1秒率 以下FEV1.0%)、標準評価(MRCの息切れスケール、身体所見、BMI、横隔膜呼吸の熟達度grade)、ADL評価(千住らのADLテスト)、下肢筋力検査(等尺性膝伸展筋力)、運動耐容能検査(シャトルウォーキングテストまたは6分間歩行テスト)、セルフマネージメント検査(Lung information Needs Questionaire 以下LINQ)を多職種で検査・評価を行う。両群内において初期評価の各項目をそれぞれ比較した。解析方法はwilcoxon順位和検定を用い、p<0.05を優位水準とした。<BR>【結果】<BR>両群間において統計学的な有意差は認められなかった。継続群ではMRCスケールより呼吸困難は様々であったが下肢筋力は保たれておりLINQの点数は低くセルフマネージメントは高い傾向であった。非継続群ではFEV1.0%が低くMRCスケールは重症傾向でありLINQの点数は高くセルフマネージメントは低い傾向であった。<BR>【結論】<BR>継続群では呼吸困難は様々であったが身体機能・セルフマネージメントは比較的保たれていた。初期評価時に呼吸リハの教育を受けた経験がない症例が多く呼吸リハパス終了時の最終評価ではセルフマネージメントにおいて統計学上有意に向上した。非継続群ではLINQの点数よりセルフマネージメントに欠ける傾向がみられた。FEV1.0%が平均56%と低肺機能でありMRCスケール3以上、下肢筋力、運動耐容能が低く初期評価の介入で呼吸困難が増強し運動への動機づけが困難であり継続できなかったと思われる。COPDの呼吸リハは運動療法を主軸としたプログラムが有効であり患者教育も同様に必須条件である。今回の検討を通して同一疾患においても肺機能以外にも呼吸困難の程度や下肢筋力の個々の身体能力を評価し、現呼吸リハパスの適応と不適応を判別できる基準が分かった。パス適応ではない患者にはコンディショニングやADLを中心とした介入が必要であり個別性を重視した内容のプログラムと継続方法についての検討が必要である。また、個々に必要な患者教育を十分に行なっていくことが運動療法を進めていく上でも改めて重要であると感じた。
著者
青木 尚子 渡邊 恵都子 ハーランド 泰代 植野 拓 由川 明生
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.277, 2010

【はじめに】<BR>心臓リハビリテーション(以下、心リハ)は退院後の患者教育と運動療法が継続できれば効果的とされている。当院での外来心リハ通院患者の継続・非継続因子の調査では、非継続因子として統計学的に有意差はないものの1、男性が継続しにくい2、遠方の方が継続しにくい3、自己負担が高い方が継続しにくい傾向にあった。今回は、低心機能にもかかわらず自覚症状が軽度なため過負荷に陥り易い男性の症例に着目した。仕事帰りに利用することができる自宅近辺の非医療施設であるスポーツジムへの利用に繋げることが出来たので、今後の課題と共に報告する。今回の報告は、本症例に対して説明し同意が得られている。<BR>【症例紹介】<BR>70歳台、男性、既往に狭心症や急性心筋梗塞(以下、AMI)など繰り返しており、今回4度目の入院となる。2009年12月に胸痛ありAMI(2枝病変)と診断され経皮的冠動脈形成術を施行した。PeakCK3039U/L。心エコー結果より、左室駆出率40%、後壁、心室中隔・前壁の壁運動低下、中等度の大動脈弁狭窄症みられた。当院のMIパス2週間コースを用い心リハを開始した。5病日目から個別運動療法介入し、その後大動脈弁狭窄症から心不全を合併し、MIパスが停滞したものの19病日目から集団リハを開始し、自転車エルゴメーターにて旧Borg指数11レベルの負荷設定とした。4週間入院リハを行い、退院時には近隣スポーツジムに週3回、当院の外来心リハを週1回継続することとした。その際にスポーツジムには運動許可を示す主治医からの文責と併せて担当セラピストより情報提供目的の心リハ連携シートを渡し、持参して頂いた。内容は、疾患の状態、安全に出来る運動内容、リスク管理チェック項目を記載した。症例にもスポーツジムスタッフにも分かりやすい言葉を用い、定期的に評価を行い運動内容の変更も記載出来るようにし、安全でスムーズな連携を図った。1ヶ月後、歩行時の呼吸苦あり外来心リハ時に受診し、心不全増悪(左室駆出率30%)がみられたため利尿剤の追加あり。その後、スポーツジム利用を週3回から1回に、外来リハを週1回から3回に変更し、医学的管理を中心に心リハを継続した。<BR>【まとめ】<BR>今回、心リハ連携シートを用い患者宅近隣スポーツジムへの紹介と運動指導を行った。本人への運動管理意識の向上と外来心リハも併用したことで症状に応じた運動指導を即座に変更・実施することが出来た。また、症状悪化に伴い循環器の外来受診を薦めることで医学的管理も可能となり、外来での症状コントロールが可能となった。今後の課題として1、症状に合わせた医療施設と非医療施設との役割分担の明確化2、使用料金や場所を考慮した連携施設の選択と拡大3、心リハ連携シートの見直しなどを行っていく必要がある。
著者
ハーランド 泰代 植野 拓 渡辺 恵都子 青木 尚子 豊田 文俊 高畠 由隆 舟越 光彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DbPI2348, 2011

【目的】心疾患を有する患者は、長期間運動を継続し、運動耐容能を維持・向上することが望ましく、運動を継続することが生命予後に関係するとされている。しかし、社会背景や身体的問題などの影響から、中には継続困難となり中断してしまう患者も経験する。そこで今回、外来通院による心臓リハビリテーション(以下、心リハ)の参加者を対象に、継続および非継続に関わる因子を調査および検討したため報告する。<BR>【方法】対象は、当院にて2008年1月から2009年11月の間に、外来通院型心リハプログラムに参加した心疾患患者63名(男性52名、女性11名、平均年齢69.9±10.4)である。疾患内訳は狭心症29名、心筋梗塞5名、慢性心不全12名、閉塞性動脈硬化症11名、開胸術後4名、大血管疾患2名である。公的医療保険給付の心リハ期限である150日以上の継続可能であった群を継続群、150日未満であった群を非継続群に分けて比較検討を行った。グループの内訳は、継続群30名(男性22名、女性8名)および非継続群33名(男性30名、女性3名)であり、検討内容は年齢、性別、疾患名、家庭環境(同居、独居)、冠危険因子数、費用負担、通院手段、通院距離、参加期間、NYHAの重症度分類の各値を診療録情報より調査し、後方視的に比較検討した。統計処理方法はX2検定、t検定を用いて統計学的検討を行い、危険率5%未満を有意差ありとした。さらに費用負担の有無に区分し、カプランマイヤー曲線により心リハ継続群の比較、およびコックス比例ハザードモデルにより費用負担有無による非継続群のハザード比を求めた。<BR>【説明と同意】対象者には研究の趣旨を説明し、同意を得た。<BR>【結果】今回の結果、継続群は30名(47.6%)であった。NYHAの分類のclassIIおよびclassIIIの継続群は有意に相関が高く、非継続群は低い結果となった(P<0.05)。性別では相関は認められなかったが、男性に比べて女性の継続率が高い傾向があった(P=0.1)。家族形態(同居ありおよび独居)の結果では、継続群と非継続群において有意な相関は認められなかった(P=0.7)。通院距離(遠方または近隣)においても有意な相関は見られなかったが、非継続群に比べて継続群は高い傾向にあり、近隣に比べて遠方の方が継続しやすい傾向であった(P=0.2)。また費用負担ありについても両群で相関は認められなかったが、継続群に対して非継続群は高い傾向があり、費用負担があると心リハ実施の継続率が低下しやすい傾向があった(P=0.1)。さらに、費用負担ありと非継続の年齢等を調整したハザード比では、1.67(95%CI 1.01-2.52)と有意に高く、自己負担があると継続が難しいという結果となった。<BR>【考察】重症度が低く、リスクファクターが少ない参加者が非継続の傾向が示唆された。おそらく重症度が低ければ自覚症状が少なく、意欲も低下するため継続困難であったのではないかと考えた。そのため、介入時から心リハの必要性や効果について十分な説明を行い、疾患を自己管理できるように教育などの介入を十分に行っていく必要がある。また重症度が高いと継続率は高い傾向があるが、急性増悪などを起こす可能性も高いため、増悪予防やセルフコントロールの徹底が必要である。社会的な面では、独居の方が継続率が高いと予想していたが、結果的に家族形態には違いは見られなかった。また通院距離では、近隣の対象者に比べて、遠方の対象者の方が継続しやすい結果となった。これは交通機関を利用して来院される方が多く、近隣の徒歩や自転車での通院に比べて、時間的スケジュールが確立されている事や運動負荷が少ない事などが上げられる。また加えて、医療費の自己負担がある対象者の方が、非継続の傾向が強い結果であった。このことにより、自己負担の有無が心リハの継続に影響を与える因子の一つになることが分かった。このような結果を踏まえて、心リハ開始時の情報収集では十分な社会的な特性を考慮し、必要な援助を行う必要があると考える。また心リハの通院期間や終了時期を明確に設定し、その後負担の少ない民間のスポーツジムや市町村の運動教室などへ繋げて、運動を継続するなどの配慮が必要である。また今後さらに症例を増やし、詳細な分析を行う必要がある。<BR>【理学療法学研究としての意義】患者の社会的な背景や重症度の違いにより、心リハ継続に影響を及ぼす一要因になることが示唆された。情報収集の際に社会的な背景に問題がある方に対しては、民間の施設への斡旋や連携を強化し、運動を継続していく必要がある。<BR>