著者
柏木 めぐみ 村田 和優 ペルマナ ハディアン 山田 哲也 金勝 一樹
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.177-185, 2017-04-05 (Released:2017-04-14)
参考文献数
17
被引用文献数
2

化学農薬を使用しない水稲の種子温湯消毒法は,クリーンな技術として注目され,「60℃で10分間」という処理条件が広く普及している.しかし,この条件では完全に防除できない病害もある.したがって,この消毒法を安定した技術とするためには,多くの品種に高温耐性を付与し,より厳しい条件で処理できるようにすることが重要である.温湯消毒時の種籾の高温耐性には明らかな品種間差があり,この形質は育種学的な手法で改善できる可能性がある.例えば,日本型品種の「ひとめぼれ」の種籾は強い高温耐性を有することが示されている.一方で,インド型品種や糯米品種は一般に種籾の高温耐性が弱く温湯消毒に適さないことも報告されている.これらのことを踏まえて本研究では,「ひとめぼれ」のような有用な遺伝資源となりうる品種を見出すことを目的に,農業生物資源ジーンバンクが確立した「世界のイネコアコレクション」の種籾の温湯消毒時の高温耐性を評価した.その結果,日本型品種の「Rexmont」と「Tupa 729」,インド型品種の「Badari Dhan」の3品種の種籾が,極めて強い高温耐性を有していることが明らかになった.さらに,「Badari Dhan」以外のインド型品種や,糯米品種の中にも「ひとめぼれ」と同等,あるいはそれ以上の高温耐性を示す種籾が存在することが明らかとなり,温湯消毒時の高温耐性に関して有用な遺伝資源となり得る複数の品種を特定することができた.